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小説版『アヤカシバナシ』行進

小学生の低学年の頃の話です。

それはそれは歴史ある古い小学校でした。

グラウンドも口の字型の校舎の真ん中にあり、

中庭と呼ばれるほどに古かった。

転校してからグラウンドって何?これ?広っ!て思ったくらいだ。


その小学校には施設が設けられており、

家に帰っても親が居ないから遅くまで預かりますと言う場所。

記憶では迎えに来ない親が居て、泊まったと言う話もあった気がする。

今はそんな事ないと思うが、昔は善意で用務員さんが

一緒に泊まってくれたりしたらしい。

現在では労働基準法なんちゃらに引っかかるのでダメだと思うが。

そんな人情に溢れていた街にある学校、その中の施設。

実は私もそこに居た。


両親が働いていたので鍵っ子だったのだが、

何かと物騒との事もアリ、だいたい18時くらいまで居たと思う。


そんなある日、私の迎えがとてつもなく来なかった。

管理者の目を盗み、退屈だった私と友人は部屋を抜け出して探検に出た。

夜の学校の恐怖とワクワクといったらもうたまらない。


古い学校で管理も甘く、特に鍵はかわれていない教室。

理科室の高学年でもそうそう入れない倉庫を開ける・・・・

ひんやりする空気の中、薄暗い中にぼんやり見えるホルマリン漬けの

蛇や内臓の飛び出した蛙、身体が半分で内臓が見える剥製・・・

でも一番恐怖を感じたのは私よりはるかに大きい蟹の標本だった。

大きいと言うのは内臓なんかよりも怖いと言う感情を強く抱かせた。


普段は入れない場所を見て歩き、少し飽きてきた私たちは

体育館に忍び込んでボール遊びをすることに。

大きく重い扉を開けようとすると、中から

ザッザッザッザッザッザッザッザッ・・・

と、大勢が行進しているような音が聴こえるのです。


友達とこっそり開けて隙間から覗くと、侍と言うか、

重装備していない兵士と言うのか、腰に刀を差した武者たちが

体育館を行進して中庭に抜けて行くではありませんか・・・・


『ええ!!!????』


と思った瞬間に『こら!』と肩を叩かれ施設の管理者に見つかった。

武者を見た話をすると、笑いも否定もせずこう話してくれた。


『聞いた話だとずっと昔にここで戦いがあったらしいの、

その人達じゃないかな、今でも行進して戦地に向かってるのかもね、

だから私たちは彼らにご飯をあげてるのよ、成仏とかじゃなくて、

そうねぇ・・・いってらっしゃいみたいな気持ちかな』


そう言うと体育館の入口の角にご飯を盛った茶碗を置き、

線香を焚いて手を合わせたので、私たちも手を合わせました。


残念ながらその学校は合併し、立て直して立派な学校になりました。

でも場所に宿っているのであれば、今でも行進しているかもしれません。

誰か気づいてご飯をあげていればいいなと思います。

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