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ととのエッセイ「秋のサウナで見つけた、小さい青春」

トレーニングを終え、
僕はサウナの開店を待っている。
6時前だというのに、長蛇の列だ。

今朝の気温は20度だった。
それでもおじさんは、
真夏の如く汗だくだ。
あぁ早く、この汗を流したい。

「きゃあー超ヤバい!」
後ろから黄色い歓声が。
女子大生だ(たぶん)。
僕のすぐ後ろに並んだ。
マジかよ!
汗だくのおじさん、
ちょっと恥じらう。

「ちょ待てよ!」
さらに後ろからもう一人の連れが。
男連れ。
そうだよなぁ。
超楽しそう。

朝6時。
扉が空いた。
彼ら(男1女2)は楽しそうに、
岩盤浴へと消えて行った。
最高かよ。

いかんっ!
整いに来たのに、
浮つき散らした心。
青春時代を思い出したりなんかして。
よし、気を取り直して整えよう。

朝一の風呂。
幸いまだ人の少ないサウナ。
僕は無心で洗い流そうとした。
その邪念と汗。
しかしなんとなく、
おセンチなエモだけが流せない。

秋は、
なぜかエモい季節。
過ぎ去った時間は戻らないが、
僕にも彼らのような
甘酸っぱい青春時代が、
間違いなくあった。

感傷的にはなれど、
過去に囚われていては焼け石に水だ。
そう思いながら、
僕は焼け石に水をかける。
セルフロウリュ。

感傷的にはなれど、
過去に囚われていては傷口に塩だ。
そう思いながら、
僕は全身に泥と塩を塗る。
ソルトサウナ。

ふいに、
昔を思い出す事ってあるよね。
確かに、
僕には若く甘酸っぱい青春の日々は
もう無い。
シャワーで体を流すと、
がっつり口に塩が入り、
むしろ超絶塩辛い味がした。

けれども、
甘酸っぱい記憶を
捨て去る必要なんて無い。
それを心にそっとしまい、
鍵をかけておこう。
その鍵を無くさないように
大切にしまってさ。
そしていつでも開けられるようにしておくんだ。

そうすれば、
確かに塩辛い現実はあるけれど、
そんな繰り返しのように見える日々も、
実は毎日が青春の延長線上なんだと、
少しだけ思える気がする。

そうして顔についた泥パックを
シャワーで落とした。
鏡に映った自分の顔を見てみると、
いつもより少し輝いていた。

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