見出し画像

デザインを巡る疑念・怨念集:「UI/UXデザイナーって要はwebデザイナーだろ?」ほか

デザイン界の池上彰とかいたらいいのになあ。と最近よく思います。それくらいデザインを巡るモヤモヤに出くわします。人から訊かれたりもします。僕デザイナーじゃないのに。でもメシアをただ待っていてもしょうがないので、自分で考えることにしました。
世の中で耳にする疑念・怨念のうちいくつかを以下に挙げていきますが、それに対するコメントの多くは僕個人の独自見解であって必ずしも社会的合意に沿った記述ではありません。なので「そういう考え方もあるよね」「わかるわかる」「えー?そうかなあ...」みたいに昼過ぎのワイドショーを見る感覚で読んでいただきたいです。

その1:UI/UXデザイナーって要はwebデザイナーだろ?

僕もそう思います。
素晴らしいUI/UXデザイナーは確かに存在します。そういう人はマジで神だと思います。ただ、UI/UXという言葉の語義に忠実に沿えば、なにもパソコンやスマホの画面だけがユーザーのインターフェイスはではないし、ましてweb空間上でしか顧客体験が存在しないわけがないです。オペレーターとの会話だって顧客体験だし、店舗の内装や什器の配置、スタッフの話し方、商品の手触りもそう。購入後の配送期間の長短やアフターサービスの利便性だって顧客体験。そのごくごく一部の、web上のことしか考えられないのなら「UI/UXデザイナー」は大風呂敷を広げ過ぎじゃないでしょうか。情報番組のスイーツ特集とかで「女の子はこういうの大好きなんです」と突然全・女の子を代表してご意見を述べてくださるn=1のレポーターに通じるものを感じます。

確かに、UI/UXデザイナーを名乗っている人の中には、webデザイン以外にもロゴデザインもできたり簡単な動画も作れる人もいます。そういう人は「webデザイナー」の枠を越えているとは思いますが、では、本当に「ユーザーインターフェイスとユーザーエクスペリエンスの専門家です」と胸を張って言えるデザイナーは、そのうちいったいどれくらいいるでしょうか。

なんてことを言ってるといつか刺されますよね僕。嫌われるよなー、敵つくるよなー、こういうの(笑)

その2:デザインは問題解決、アートは問題提起ってことでおk?

それはかなり雑な整理だと思います。
アートは受け手や社会への「問題提起」が中心要素であるという見解は、おおよそ業界的に合意が形成されているようで、逆にアーティストに言わせれば「ただ美しいと思ったんで描きましたというだけのものは、『アート』ではなく『表現』と呼ぶべき」ということのようです。

一方デザインは、「問題解決」が重要な要素ではあるものの、その手前の「問題発見」から担うことができるのも大きな特徴です。
例えばある担当が「清掃費用がヤバいから小便が飛び散りにくい公衆トイレ用小便器をデザインしてくれ」とデザイナーに頼んだとしたら、(優秀な)デザイナーは「そもそもみんなが飛び散りにくい箇所を目掛けてしてくれればいいんだから、便器の中にハエの絵を描いておけばよくね?」と考えることができます(※これはアムステルダムのスキポール空港の実例を念頭に置いています)。
あるいはマーケ担当者が「ナチュラルで誠実な商品ブランドイメージを醸成する広告で30代の働く女性に売る」という課題設定をしたとしたら、(優秀な)デザイナーはそれに対し「そもそも男性に売っちゃダメなの?」だとか「商品や広告じゃなくて店舗スタッフの接客に問題があんじゃないの?」といったことを考えついたりします。

ちなみに、日本を代表するグラフィックデザイナーであり無印良品ブランド隆盛の立役者でもある原研哉氏は、著書『デザインのデザイン』でデザインの本質について次のように語っています。

デザインは基本的には(芸術と違い)
個人の自己表出が動機ではなく、その発端は社会の側にある。
社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、
それを解決していくプロセスにデザインの本質がある

ここまで見てきて分かるように、デザインは本質的な問題、そもそもの問題を探し当てるポテンシャルを持っています。となると、「デザインは問題解決を担う」と言うよりも「デザインは問題解決までできる」と言った方が正確ではないでしょうか。そしてこの「問題発見」という行為は、時として「ほんとはこれが問題って薄々感じてるのにみんなスルーしてない?」といった形をとった「問題提起」になったりもします。たまに。
全デザイン案件で発揮されるかは別として、「問題発見」「問題提起」「問題解決」のどれもがデザインのカバー範囲だと思います。(2020.3.12誤植を訂正)

その3:アイデアを出した人がいてこそなのに、なんで何もしてないクリエイティブディレクターが偉そうな顔してんの?

クリエイティブディレクションの価値とは何か、というかなり奥の深い論点。僕も若手の頃は、大御所CDに対して抱いた感情だったりもしますが、今はそう思いません。この論点は、「なんで社長が一番高い報酬をもらっていいのか」という問いを巡るものでもあり、ディレクションとは何か、ジャッジとは何かという問題が絡んできます。

書き始めたところで、「これだけで1個記事書ける文字量になりそうだな」と思ったので、別の機会に書きます。ただ結論だけ言うと、「多少は偉そうな顔させてあげて!」ということが言いたいです。

その4:「 絵を描いたり形を作ったりはできないけどデザイナーです」ってそれアリなの?

近年の潮流としては「アリ」ということになっています。
サービスデザインだとか組織デザインといったものを担う人も近年では「デザイナー」を自称するケースが散見されます。

経済産業省・特許庁が発表したレポート「『デザイン経営』宣言」ではデザインには大きく分けて下図の2類型があるとされています。

デザイン経営の効果

検討委員だった方いわく、左側の「ブランド構築に資するデザイン」にはいわゆる伝統的なデザイン、つまり視覚的美やフォルムの美しさを形作るクラフト色の強いデザインが代表格で、右側の「イノベーションに資するデザイン」には先のサービスデザイン、組織デザインなどの無形デザインが含まれます。
委員の方から直接伺ったのですが、検討会での議論でも「クラフトを伴わないものもデザインと呼ぶのは百歩譲っても、職人的技を持たない人をデザイナーとは呼ばないだろ」「なんでもかんでもデザインと呼ぶなよ」という意見も根強かったそうです。しかし会の結論としては、デザインによって日本の産業界を振興していくにはデザインを広く定義しようということでまとまったそうです。みんな大人。

個人的には、「ほんとにアリなのかなあ...」というのはまだちょっとモヤモヤしています。他の記事にも書いたんですけど、デザイナー(クリエイター)がフレームワークで到達しがたいアイデアに到達できるのは、圧倒的な量のアウトプットをこなしてきたからに他ならないと思っています。

となると、クラフト系のデザインはそういう訓練を積みやすいので親和性は高いと思います。一方、右側の無形デザイン系のデザイナーはそういう圧倒的な量の訓練を積みにくい気がするので、どうなのかなと疑問に思ってしまいます。ジョブズですら、カリグラフィに没頭してクラフトの腕を磨いていたわけですし。ここはちょっとまだ僕の中で答えが出ていません。

その5:美大卒のデザイナーは全然ロジカルじゃないくせに気取っててムカつく

その4の議論と密接につながっているのがコレ。非美大卒のデザイナー(なぜかUI/UXデザイナーが多い)から美大卒デザイナーへの、痛烈な批判の典型例。「あいつら『センス』の名の下に『まぁ、なんとなく』とか『世界観が』とか言って全然ロジカルに説明できない」といった感じでかなりご立腹のご様子。
一方、美大卒デザイナーは美大卒デザイナーで、「圧倒的な美しさでもって物事を解決することはできるし、『正しさ』『論理』だけで人は動かない。クラフトワークができない人が振りかざすロジックから出てくるアイデアって、普通のものばっかだよね」と嘲笑していたりもします。みんながみんなそうじゃないけどね。

僕はこれを「デザイナー界の宗教戦争」と呼んでいて、講和条約が結ばれる日はそうそう来ない気がしています。なぜかと言うと、非美大卒系のデザイナーが「怒り/憤り」という感情を抱いていることからも窺えるように、自分が美大で美術教育をガッツリ受けていないことやクラフトの技が弱いことへのコンプレックスがベースにあって批判している人がかなり多いからです(あくまで僕の狭い世界での話ですけどね!)。コンプレックスは悪い方に転ぶとロジック風感情論を生みやすいので、なかなか建設的な議論にならないですよね。

それでも美大卒デザイナーへの批判の内容は、一定程度的を射ていて、「なんでこのデザインにしたんですか?」と尋ねると大抵「雲をモチーフに軽やかな線画で表現しました」と返ってきたりするんですが、「いや…、うん、そうだね。いやそうじゃなくて、雲をモチーフにするとどういう効果があるのかとか、何を解決するために軽やかな線画を選んだのか教えて欲しいな」と思ったりします。
日本のグラフィックデザイナーは結構これがデフォだったりするんですが、欧米のデザイン教育では「なぜそうあるべきなのか」「そのデザインに必然性はあるのか」といった思考を徹底的にブチ込まれるので、日本の優秀なデザイナーと同様にそのデザインの意義・効果をロジカルに説明することができます。建築系のデザイナーは、ロジカルに考えないと建物が建たないので、日本でも論理と感性のバランスが良い人が多い印象があります。ただ全体としては、日本の美大におけるデザイン教育の遅れは残念ながら鮮明です。

一方、美大卒デザイナーからは、「圧倒的なアウトプットをしていないし、物事への観察・洞察の訓練が足りないから、非美大卒のUI/UXデザイナーとか引き出し少なすぎ。クライアントも課題も違うのに一人のデザイナーの中で似たようなのばっか作ってるじゃん」という意見は非常によく聞きます。実際「引き出し少なっ!!笑」って思ったり、「解決のさせ方が結構安易だなあ...」と思うシーンもままあり、ここは美大卒デザイナーの声に耳を傾けて欲しいなと思います。

ちなみに僕はデザイナーを出自で分けると、(MECEでない感じがありますが)この宗教戦争の構図が見えてきやすいと思っています。

(1)美大卒デザイナー
 多摩美や武蔵美、藝大などを出ているデザイナー。
 便宜的に建築系のデザイナーも含む。
(2)非美大卒デザイナー
 早稲田やMARCHなど一般大学卒で、独学でデザインを学んだり
 就職後の実務でデザインの腕を磨いているデザイナー。
(3)ストリート卒デザイナー
 美大等で美術教育を受けいないものの、趣味でグラフィティを
 描きまくっていたりMacギークなデザイナー。オシャン率が異常に高い。

(1)(2)先述の通りですが、「ストリート卒」というダークホースの存在があると思っています。タトゥーアティストだったり、jsオタクだったり、音楽マニアの映像デザイナーだったり、得意分野はかなり多様。しかし彼らはこの宗教戦争には加わらない第三国です。作家的な位置付けでアサインされるケースも多いというのもありますが、とにかくこの戦争に興味が無いしそもそも戦争が起きていることを知らない。
彼らはデザインをあまりデザインとして意識しておらず、ただただ好きで大量のアウトプットをした結果、人からデザインセンスを評価されるに至っていたりします。そう、大量のアウトプット。これがまた、コンプレックス系非美大卒デザイナーのコンプレックスを逆なでするみたいです。同じように非美大卒なのに、センスが高く評価されているからでしょうか。

でもほんとに、それぞれにそれぞれの課題点と良いところがあるわけなので、双方学び合って仲良くやってよ、と思います(謎ポジション)。
はい、まあ実際にあった経験に基づいて書いていますが印象論であることに変わりはないので、怒らずに読み流してください。

はてブが怖い。

いやもうほんとに、多方面に敵を作る記事。マジで嫌われそう。前みたいにはてブで「テメエにデザイン語る資格あんのか」とか「御託並べてねえでお前のアウトプット見せてみろや」とか、本筋でないところでもディスられそう。「デザインやデザイナーを偉そうに批評して飯食ってるやつ」とかも言われそうですけど、そうですよ、毎日デザインのこと考えてるしそれで飯食ってますよ許してお願い...って思います。

でもですね、デザインの可能性を本当に僕は信じているし、多くのデザイナーがハイパフォーマーになったらいいのにと本気で思っているし、デザイナーとそうでない人の相互理解が進んだらもっとみんなハッピーだよね?と切実に思っているのは胸を張って言えます。なのでひるまずまた続編を書こうと思います。

ちなみに、トップ画の不動明王は怨念や怒りの仏様ではなく、破壊と恵みをもたらす仏であったりむしろ守護者だったりするので、へんな偏見を助長するようでしたらそこは仏教界の皆様に深くお詫びしたいと思います。
(2020.2.3追記:ちなみに仏教クラスタの方から「それ不動明王じゃなくて広目天」というご指摘を受けました。ご指摘ありがとうございました。仏界は明確にタテ社会で、天は明王の1階級格下。すべての仏教クラスタの方々ならびに明王の皆さまにこの度のご無礼を深くお詫び申し上げます。)

こんな感じですが、デザイナーもそうでない人も積極採用中です

Studiesは随時人材を募集しています。クリエイターのクリエイティビティをビジネスに応用することに強い興味がある人であれば、デザイナーに限らずエンジニアでもカメラマンでも、会計士でも哲学者でも、僧侶でも前科持ちでも構いません。

また数期以内にスタートアップ出資事業を子会社化して規模を拡大させようと思っているので、VCや投資銀行などで経験を積んでそろそろ投資担当ディレクターやファンドマネージャーをやりたいという人材も募集しています。

【筆者の自己紹介】
Studiesというデザインコンサルファームの代表をやっている榊原と申します。スタートアップを中心に、経営・マーケティング戦略策定からロゴやwebなどの表現までをクリエイター(主にデザイナーとコピーライター)が一気通貫で担っており、コンサルティング/デザイン/出資をすべてクリエイターがディレクションするたぶん日本唯一のデザイン会社です。

僕自身は、東京大学教育学部で教育哲学+教育行政を学ぶ
→「教育と広告って似てね?」と思い博報堂でコピーライターをやる
→賞獲りレースに誰も興味ないチームで商品開発をやったりCM作ったりして、「クリエイターがマーケティングやるのオモロ!」と思った矢先、突然社内留学で営業職に。僕を可愛がっていた役員が人事に詰め寄る
→営業職はそれなりに学びは多かったけど独立。フリーのコピーライターとして大手の新卒採用コミュニケーションや各種のコンセプトワークを担当
→「デザインまでまるっとやってくれ」という相談があまりに多いので元資生堂のデザイナーと起業
という感じです。ゆるふわでやってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?