🌺【一輪の花のごとく】KENZO「引退」後の高田賢三さん、心機一転 新境地めざすも、コロナに倒れる

【写真】パリ・セーヌ川にて（撮影・飯竹恒一）

世界的ファッションデザイナー、高田賢三さんに、新聞社のパリ時代の2009年、取材でお会いする機会を得ました。実はその前年、高田さんは飲酒運転で警察から取り調べを受け、私はパリの現地報道を基に記事を書いていました。しかし、実際にお会いすると、警察沙汰を起こすようなイメージがすっと消えました。礼儀正しい腰の低い紳士が、モード専門記者でもない私を柔らかい笑顔で迎えてくれたのです。

高田賢三さん心機一転　絵画や創作活動広げる

asahi.com（朝日新聞社）： 高田賢三さん心機一転　絵画や創作活動広げる - 話題 - ファッション＆スタイル

その頃、高田さんは失意の日々だったと思います。公私のパートナーだった故グザビエ・ドゥカステラさんを病気で亡くしたうえ、自身が経営していたKENZOの株を無防備にも売却し、結果として1999年、「引退」に追い込まれていました。自身の名前をかたどったブランド名を、もはや使用することはできなくなっていたのです。

「70歳を機に、裸になってゼロからやり直す」。取材で高田さんは、20年間暮らしたパリの邸宅を売却したことを明らかにしてくれました。失意の日々に決別し、新しいスタートを切ろうというもがきの言葉に聞こえました。

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その高田さんが2020年10月、新型コロナウイルスの合併症のため、パリ郊外の病院で亡くなったと伝えられました。81歳でした。

パリ西郊ヌイイのアメリカン・ホスピタルの病床で、高田さんはしばしば音楽を聴きたいと言い、新しい仕事のプロジェクトを夢見ている様子だったといいます。亡くなる年の初めには、ライフスタイルの新ブランド「Ｋ３」を立ち上げたばかりでした。

訃報に接して思い出したのは、高田さんの作品に花をあしらったモチーフが多かったことです。一輪の花が凛として咲き誇る様子を自分に見立て、こよなく愛したのかもしれません。
　
異邦人として降り立ったパリで時代の寵児となり、その長いキャリアの中、市場が求めるものを送り続ける効率が必要となる局面もあったでしょう。しかし、それだけが生き方ではないことも悟っていたに違いありません。いったんの「引退」を経て、今度は本当の自分らしさに回帰する逆のベクトルにシフトしたのでしょうが、道半ばでコロナに倒れてしまったのは、無念としか言いようがありません。
　
「自分自身になる自由」（la liberté d’être soi-même）。高田さんはパリで打ち込んだモードの意味合いをこう表現していたといいます。そう言い切れたのは、株を売却し、KENZOというブランドを手放しても、自分を見失わないまま、小さくても咲き続ける道を選んだゆえなのかもしれません。

飯竹恒一