待月 望波

わたしだけの物語を書く日々。

待月 望波

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最近の記事

ブルームーンセレナーデ chapter 4

どんなスターもレイコの前ではただの人 ハワイ、オアフ島。 海に面して立つ小さな白い建物は、人々の記憶の中で今も生き続けている。 賑やかな笑い声とコーヒーの香りが、目を閉じれば波音とともに蘇る。 その店の名前はブルームーン。 人々に沢山の思い出を残した店の物語。 🎵 その日は午後から雲が広がり、風が出てからは急に天気が崩れて雨が降り始めた。 ヤシの木は大きく葉を揺らし雨に煙る。 気温も下がり、常夏ハワイでもTシャツ一枚というわけにはいかず、予想外の荒天にノースショアを訪れ

    • ラハイナへ、愛をこめて

      はじめに。 このたびのラハイナの大火で亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、被害に遭われた方々へお見舞いを申し上げます。 心から。 ・ noteでは物語を書いてきましたが、今回は物語ではなく、できることなら物語であってほしかったラハイナの大火について、私のラハイナへの思いを書かせていただきます。 ・ 日本からの直行便がないマウイ島へはほとんどの方がホノルルからインターアイランド便の飛行機でマウイ島へ入られてきたと思います。 マウイ島上空に来て一番に目に入るのが白い風車だった

      • 棲家

        「支度はできたの」 と、階下から母の声が聞こえて、仕方なく体を起こた。 どうしたのだろうか。 目を開けるのがやっとというくらいに体がだるい。 風邪でもひいたのだろうか。 風邪ならほかにも症状があるはずだ、喉が痛いとか鼻水がでるとか。 しかしそんな症状はなく、体が重い、だるい。 母が階段を登る音が聞こえたと思っていたら、部屋のドアが勢いよく開いて 「あと10分でくにちゃんが着くってよ、もう、まったく」 と、すっかり支度の整った母が仁王立ちしていた。 「わかった、すぐ支度するから

        • ブルームーンセレナーデ chapter 3

          伝説のボトル第1号 ハワイ、オアフ島。 海に面して立つ小さな白い建物は、人々の記憶の中で今も生き続けている。 賑やかな笑い声とコーヒーの香りが、目を閉じれば波音とともに蘇る。 その店の名前はブルームーン。 人々に沢山の思い出を残した店の物語。 🌴 「また間違った!緑茶だぁ」 薫はあまり得意ではない緑茶を、しかもハワイアンウォーターのつもりで飲んでしまったためにむせてしまい、真新しいボトルを恨めしげに見つめている。 「名前でも書くか?」 薫のしかめた顔が可愛くて靖彦は茶化

        ブルームーンセレナーデ chapter 4

          ブルームーンセレナーデ chapter 2

          ダブルムーン ハワイ、オアフ島。 海に面して立つ小さな白い建物は、人々の記憶の中で今も生き続けている。賑やかな笑い声とコーヒーの香りが、目を閉じれば波音とともに蘇る。 その店の名前はブルームーン。 人々に沢山の思い出を残した店の物語。 🌙 その日タカヒトはノースショアのビーチへ撮影に出かけていた。 サンセットのあとの月がきれいで、ついノースショアに長居をしてしまったがそろそろワイキキの自宅に帰ろうと車のエンジンをかけた。 遅い朝食のあと何も食べていなかったので、さすがに

          ブルームーンセレナーデ chapter 2

          ブルームーンセレナーデ chapter 1

          レイコとユウサクの店のはじまり ハワイ、オアフ島。 海に面して立つ小さな白い建物は、人々の記憶の中で今も生き続けている。 賑やかな笑い声とコーヒーの香りが、目を閉じれば波音とともに蘇る。 その店の名前はブルームーン。 人々に沢山の思い出を残した店の物語。 🌙 「レイコ、ここにしよう」 ユウサクはカウンターの中から、入口に佇むレイコにきっぱりと言った。 数ヶ月かけて何件も物件を見てきて、初めてユウサクが乗り気になっていることがレイコには嬉しかった。 物件を見に行っても厨房

          ブルームーンセレナーデ chapter 1

          友よ⑥

          翌朝のテレビでは昨日とは比べものにならないくらい、鹿児島のニュースが大々的に報じられていた。 画面には事故現場の様子が映し出されていた。 機長 勝田衛(四六) 十五歳の時から知る友の名に冠されていたのは死の文字だった。 長沢からも、久美子からも連絡はなかった。 私からも二人に連絡をしなかった。 勝田の名前をテレビで見、聞くことは不思議な感じだった。 私の知っている勝田とは結びつかなかった。 起こったことの詳細は、テレビが教えてくれた。 事故の朝、勝田は入間基地から飛び立ち

          友よ⑤

          四十六歳 東京の桜が満開になったとテレビのニュースが伝えていた日のこと。 朝から天気の良い日だった。気温も上がり、窓を開けて春の心地よい風を胸いっぱいに吸い込んだことを覚えている。 家事を片付けながら、つけっぱなしのテレビがなにやら騒がしいことには気が付いていた。  九州の山中で自衛隊機の事故があったようだった。 しかし気にとめる事もなく、何度もテレビの前を行ったり来たりして、洗濯物を干したり、掃除機をかけたりして出かける準備をした。 いつも通りに会社に行き、広い社食でお

          友よ④

          三十歳 三十代になるとそれぞれの生活が安定していくことと引き換えに忙しい毎日となり、高校時代のことを思い出す機会は減っていった。 それでも同級生の誰かが結婚する、子供が生まれたとなると連絡がくる。 お祝いはどうする、なににする、と。 たいていは長沢がみんなの意見をとりまとめ、買い物をし発送の手配をしてくれた。 受け取った方からは、幸せいっぱいの笑顔の写真が添えられた便りが届く。 長沢は私たち四人のリーダーであり、同級生みんなのリーダーでもあった。 高校時代と今とを繋ぐ役目

          友よ③

          二十一歳 三度目のチャレンジで長沢が医学部に合格した春、渋谷で久美子と三人で長沢の合格祝いをした。二十一歳の大学生の誕生だった。 長沢の実家は祖父の代から続く病院で地元の名士であるが、そのことを窮屈に感じていた長沢は 「家を継ぐよりしばらくは東京で若いナースにちやほやしてもらおうかな」と、おどけてみせた。 その頃勝田は東北にいると聞いていた。 長沢の合格祝いの席で久美子は婚約を発表した。 短大を卒業して就職した会社の先輩と結婚すること。大阪に転勤になる未来の夫について行

          友よ②

          高校時代 別の中学から進学してきた四人。 長沢、勝田、久美子、私。 意気投合するのに時間は必要なかった。 気が付けばなにをやるのも一緒になった。 高校三年間で毎年あったクラス替えでも四人はずっと同じクラスだった。 体育祭、文化祭、修学旅行や夏のキャンプ。 部活だけは別々だったけれど、いつも一緒に校門を出て帰る、そんな三年間だった。 高校時代の写真にはいつも四人の笑顔がある。 長沢が、彼女が別の高校の男子と手を繋いで歩いていたと聞いてしょんぼりしていた日は、校庭の隅っこの

          友よ①

          二〇一六年四月、航空自衛隊入間基地。 友よ・・・ 長沢が、泣いていた。 二十八歳 「お前、車の卒検落ちたやつが、飛行機ば飛ばすとや。あー、おそろしか、俺は乗らんぞ」 長沢がいつもの調子で軽口を叩いても、勝田は笑っていた。 「俺も、お前のようなヤブには死にかけても診てもらわんぞ」 と勝田もやり返し 「お前は東京に十年もおって、まだ標準語ば喋りきらんとや」 と、お国言葉を流暢に操る長沢を見て勝田はまた笑う。 懐かしい顔が揃ったこの日は高校を卒業してちょうど十年目の同窓会。