喫茶店にて〜就活説明会帰りの学生〜
ある日の喫茶店にて。
私がホットコーヒーを飲みながら本を読んでいたら、私の横のテーブルに新入社員のような若い顔立ちの男性が2人座ってきた。
時刻は夕方5時過ぎ。
2人の会話が聞こえてきた。
気にしないようにしていても、この2人はいったい何者なのかすでに興味を抱いていたので、
読書をしているフリをして2人の会話に耳をすませていた。
仮に、2人の男性をA男、B男とする。
会話を聞いている途中で、彼らが就職活動中の大学生であると気づいた。
彼らが、合同就職説明会やエントリーシートの話をし始めたからだ。
A男は、大学で野球部出身。
B男も同様に野球部出身のようだ。
A男とB男はお互いに敬語で話し合っていたから、おそらくそれぞれ別の大学に通う学生同士で、
喫茶店近辺であった合同就職説明会でたまたま隣の席に座ってて、意気投合したという感じか。
おそらく、説明会が終わった後に、どこかでお茶でも飲みながらゆっくり話しましょうという流れになって、この喫茶店に寄ったのだろう。
まあ、勝手な想像なんだけど。
彼らが席に着いて、お互いにコーヒーを一口か二口飲んでほっと息をついた後、A男とB男は説明会の感想を話し始めた。
A男とB男はある広告系の会社からもらったパンフレットを見て、
「広告系の人たちって、自分に自信を持ってそうな意識高そうな人多そうですね~」と言っていた。
広告業界で働いている知り合いがいるが、たしかに自分に自信を持っていて堂々としている人ばかりだった気がする。
でも、自分の企画に自信を持っていない人に、仕事をお願いしたいと思うクライアントっているか?
そもそも業界問わずプロとして仕事をする人で、
自分のやる仕事に自信を持たずに取り組んで成功している人っているのか・・・?
クライアントから信頼を得るためにも、
ある程度の自信を持つことは社会人として必要なんだろうなと思った。
A男はB男に自分の置かれている環境を静かに話し始めた。
A男は大学の野球部で活躍していたそうで、大学から野球部のコーチとして大学に残ってくれないかとお願いされているようだ。
だけど、A男自身は、今後のキャリアを考えて会社に就職したいとのことだ。
A男、すごいなあ・・・!
私はスポーツが苦手なので、運動部で活動していた方々に対して、トレーニングから試合までこなしてて体力気力ともにすごいなあと思っている。
ましてやコーチになる人なら、数多くいる部員の中でも実力だけでなく指導力や統率力にも長けているんだろう。
でも、A男の言うように、まずはどこかの会社に就職するのもいいと思うし、
若いうちにいろんな世界を見ることで視野が広がるし、お金の大切さや人間として生きる術も学べるかもしれない。
A男もB男も、どんな業界に進みたいかまだ決めていないらしい。
とりあえず、今日参加した説明会では行きたい会社は見つからなかったそうだ。
会話の途中、A男がイライラしたことがあったとB男に愚痴を言い始めた。
説明会に参加していた男子学生で、スーツではなく普段着で来た人がいたそうだ。
「説明会の案内にもスーツでくるように言われていたのに、あいつは馬鹿じゃないのか・・・!就職説明会だろ!ふざけんなよ!」
B男も「あいつはありえないよ」と言っていた。
中には、そういう人もいるかもしれない。
ほっといたらいい。
別にあなたたちにペナルティが課されたり、迷惑をかけている訳でもないし。
それにしても、普段着で説明会にきた男子学生は、案内を読むのを忘れていただけなのか、それともわざと普段着で行ったのか・・・。
最近は炎上商法っていうやつもあるし、
常識がない人間だと思われてもいいから、とにかく目立てばよく、自分の存在感を会社の人にアピールできたらいいと思って、
わざと普段着で行ったという説もなきにしもあらず…かもしれない。
それとも、気持ち悪いぐらいに黒のスーツに身をまとう学生たちの就職活動への反抗精神なのか。
外見だけじゃなくてもっと俺の中身を見てくれよっていう。
いずれにせよ、その学生の意図がわからないから想像しかできないけど、
単に就職説明会の慣習を何も知らなかっただけということも否定できない。
A男とB男いわく「空気の読めない学生」の話題がひと通り終わった後は、
就職活動での自己PRの話題に移った。
B男は少し不安そうだった。何をどう伝えたらいいのか迷っているらしい。
反対に、A男は「自己PRなんて余裕だ」と話していた。
「俺は大学の野球部時代の活動をテーマにいくらでもPRできますよ。そっちも経験があるから余裕じゃないんですか?」
B男は「そうですね~」と軽くうなずいていた。
A男は続ける。
「僕らは野球部のことを書けばいいけど、他の人はどうするんだろうね?」
「まあ、大学でやった課外活動とか。ボランティア活動とか・・・」
何だか自分たちが大層すごいことをやってきたような言い方だなと思った。
野球部での練習や試合は、われわれが推し量ることのできないくらい大変なんだろうと何となく想像できる。
そこで得た経験は、就職面接の自己PRのネタとしては最適だろう。
でも、私が気になったのはそれではない。
自分たちよりも不利な立場の人を話題に上げることで、
自分らが就活戦線で有利な位置にたっていることを確認したかったような気がした。
社会に出て働いていないにも関わらず、自分たちが野球部で得た経験がすべて社会で通用するような言い方もあって、それも少し気になった。
未来の自分たちを想像するのではなく、目の前の自分たちの周りに起きている出来事にとらわれているにすぎないのだと。
A男とB男の姿を見ていて、数年前の自分もこん感じに周りから見えていたんだろうなあと思う。
社会人生活のことが想像できないから、
学生の頃までに経験したことでしか物事を考えられない。
たとえ就職できたとしても、社会人になってからどう自分がキャリアを積んでいくかが問題で、就職説明会に行って、自分とは関係ない他人のことを心配している場合ではない。
優越感に浸って、ちょっとでも精神を安定させたい気持ちもわかるけど、
前を向いて自分の力を伸ばしていくことを考えていないと、成長していけない。
後ろや下ばかり見ていても成長はできない。
最近になってこういうことを気づくようになってきた。
久しぶりに就職活動中の学生の話を聞いていて、
私も初心の気持ちを忘れず、謙虚に誠実に向上心をもって、日々過ごしていきたいなと改めて思った。
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