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書籍『新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?』

クレイグ・スタンフォード (著), 的場知之 (翻訳)
出版社
青土社‏
発売日 2019/3/22
単行本 400ページ



「目次」

まえがき

第一章 チンパンジーの観察
野生チンパンジーを観察する
チンパンジー観察の歴史
ジェーンの陰で
マハレ
チンパンジー研究の西部進出

第二章 食料と離合集散
離合集散
毎日の食事
食料、メス、社会構造
食料とメスの行動の結びつき
寝床
音声コミュニケーション
離合集散の理由

第三章 政治とは流血なき戦争である
アルファとはどんな存在か
賢いグルーミング
シェイクスピア的なオスたちの物語
服従のシグナル
ホルモンと支配性
ストレス
メスの順位
チンパンジーの順位は生まれか育ちか?

第四章 平和のための戦争
生まれつきの殺し屋?
もっとも忌まわしき殺し:コミュニティ内の暴力
戦争の惨禍:コミュニティ間の暴力
最初の戦争
なわばりをめぐる殺しの理由
なぜオスたちは隣人を襲撃するのか?
子殺し
関係修復

第五章 セックスと繁殖
性皮腫脹
選り好みと配偶者選択
集団交尾とコンソート交尾
オスによる選択はあるのか?
コミュニティ間移動の意思決定
繁殖能力の衰え
ヒトの性行動と近年のチンパンジー研究

第六章 チンパンジーの発達
遊び
孤児
おとな未満
老化と死

第七章 なぜ狩りをするのか
狩りをする類人猿
なぜチンパンジーは狩りをするのか?
狩りに栄養以外の要因はあるのか?

第八章 文化はあるのか?
道具
チンパンジーの考古学
蜂蜜と昆虫の採集道具
道具と利き手
道具、文化、地理

第九章 血は水よりも濃い
一・六%の違い
チンパンジーという種

第十章 類人猿からヒトへ
チンパンジーと初期人類
チンパンジーは過去の理解にどう役立つか:ホモ・ナレディの場合
わたしたちは何を学んできたのか?
チンパンジー研究はチンパンジーを救えるか?

原注
参考文献
謝辞
訳者あとがき
人名索引

公式サイトより


内容紹介

 ここまでわかった! これまでにない贅沢で学際的な成果
 200頭近くからなる巨大な集団、ゴリラと共存する集団、メスも狩りをする集団、5つもの道具を組み合わせる集団……。特色のあるフィールド調査の蓄積が、チンパンジーの多様性と普遍性を次々に明らかにしていく。そして、最新のDNA解析技術は、これまでの定説をどのように覆したのか? チンパンジーのすべてがここにある。
 日本人研究者も多数登場。

帯より


レビュー

 チンパンジーは最も人間と近い遺伝子を持つことから、その研究は化石人類を知る上で非常に重要な位置を占めると考えられているが、その最近の研究をまとめたのが本書である。
 本書は主要分野ごとに順を追って解説する形を採用しており「チンパンジーに関する知識ゼロの一般人」にも楽しめる構成となっているのが嬉しい。
 ※翻訳も非常に読みやすい

 1章~10章の大枠は、「チンパンジーの観察」「食料と離合集散」「政治とは流血なき戦争である」「平和のための戦争」「セックスと繁殖」「チンパンジーの発達」「なぜ狩りをするのか」「文化はあるのか?」「血は水よりも濃い」「類人猿からヒトへ」となっているが、「こちらは人間の研究に関する書籍の目次です」と言われても全く不自然に感じないであろう状況を呈していることからも、まさにチンパンジーは「隣人」と呼ぶにふさわしい存在であると感じる。
  ※「目次」詳細は上記にぺタリンコしたリンクより参照のこと
 「原注」と「参考文献」に64頁が割かれているため実質、約320頁が本文となるが、目を見張る新情報の数々には「一体これだけの情報を得るのにどれほどの時間と労力が費やされたのか……」と、しばし茫然としてしまう程であった
 

 チンパンジーには生息地や集団、個体によりそれぞれ特徴があり

 私たちはこの半世紀をかけて、固体や個体群の特徴を無視して典型的なチンパンジー像を語るのは間違いだと学んだ

と本書は語る。
 しかしこれは論理的な思考が可能な人であれば直ぐに分かるはずの至極当然なことであり、「チンパンジー研究者達はそのような基本的な知見を得るのに半世紀も費やしたのか……」と苦笑してしまったのだが、残念なことに人類の多くは数千年に渡りそのことを「認識(理解し意識)することの出来ない」状態にあったし、今もって出来ていない。そしてそのことが現在に続く各地の混乱を招き続けている要因の一つとなっている。
 そのような状況を踏まえて考えるなら、チンパンジーの研究やその結果、そして研究者たちの発言から学ぶことは、もしかすると多くの人々が考える以上に「人間(というサル)とその社会にとって重要な事柄」であるのかもしれない。

 
 最後に
 本書は最終章(10章)にて「ブッシュミート・クライシス」にも触れており、類人猿等の肉がパリ、ブリュッセル、ニューヨーク等にまで売られていることを指摘する。
 またアフリカでは、(たぶん先進国の)林業会社に勤める労働者や鉱山労働者は銃を与えられ、自分の食料は自分で賄えと指示されていて、それにより野生の霊長類が食料となり、そういった狩猟等が各地で頻発することにより、野生生物たちが恐ろしいスピードで姿を消している状況を危機感を持って伝える。
 そしてそのような状況となってしまった背景には、日本人である自分のこれまでの人生も少なからず影響をもたらしてしまっているのだという事実を、忘れないように、そしてその罪から目を逸らさないように、生きてゆきたいと思う。

 ※少し前にレビューした仏教国のタイ映画『トム・ヤム・クン』には、マフィアの経営するブッシュミートレストランが怒りを持って描かれており、そういう部分も、『トム・ヤム・クン』を好きな理由のひとつとなっています


 

ブッシュミートに関する動画


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