弁護士 大川恒星

大阪弁護士会/(弁)淀屋橋・山上合同/人事労務案件が得意/米国留学とジャカルタのLaw…

弁護士 大川恒星

大阪弁護士会/(弁)淀屋橋・山上合同/人事労務案件が得意/米国留学とジャカルタのLaw Firmの研修を経て、外国人労務・インドネシア法務・国際取引に注力/詳細はhttp://www.yglpc.com/professionals/okawa_koji/noteは個人の見解

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雇用創出オムニバス法(8)-最低払込資本金額の増額?!

1 驚きの朝 4月29日(木)の朝、いつものようにパソコンを開き、メールチェックをしたところ、BKPM(インドネシア投資調整庁)側からのメールを見て、一気に目が覚めた。  そのメールによれば、雇用創出オムニバス法の細則の一つである「リスクベース事業許可実施に関する政令2021年5号」の細則として、いくつかのBKPM令が公布された、とのことだった。  ふむふむ。インドネシア法のあるあるで、法律の下位法令として、政令、大統領令、大臣令といったように、次から次へと細則が出る。こ

    • インドネシア契約法(3)-契約解除に裁判所の手続が必要?!

      1 はじめに インドネシア企業が契約に違反した場合に、契約を解除し、又は損害賠償を請求することがある。インドネシア契約法では、契約を解除しようとする際、違反された側にとって負担の大きい、特殊な手続を踏むことが求められる。以下では、その内容とともに、それを回避するための対応策について解説する。 2 契約解除に求められる特殊な手続 以下の事案を見ていただきたい。  日本企業・A社の社長は、ジャカルタへの出張時、インドネシア企業・B社から、〇〇ルピアで△△という製品を購入するこ

      • インドネシア契約法(2)-インドネシア語で契約書を作成?!

        1 はじめに インドネシア企業と取引を行う場合には、インドネシア語で契約書を作成しなければならない。インドネシア企業との取引で念頭に置くべきルールではあるが、インドネシア企業との国際取引において、英語だけで契約書が交わされるなど、怠りがちなルールでもある。以下では、このルールについて解説する。 2 言語法 インドネシアには、契約に関する特別なルールがある。  「言語法」である。正式には、国旗、国語及び国章並びに国歌に関する法律2009年24号という。以下の言語法31条を見

        • インドネシア契約法(1)-どのような場合に契約は成立するのか?

          1 はじめに マガジン名を「インドネシア法について、あれこれと」としながらも、最近は、「雇用創出オムニバス法」の記事に偏っていた。そこで、趣向を変えて、「インドネシア契約法」をいくつかのテーマに分けて取り上げたい。  初回のテーマは、「どのような場合に契約は成立するのか?」である。 2 日本とインドネシアの契約法は似ている?! 契約法は、主に民法に根拠をおく。民法とは、市民間のルールを定めたもので、市民間の契約のほか、物に対する権利(例えば、不動産の所有権)などを定めている

        雇用創出オムニバス法(8)-最低払込資本金額の増額?!

        マガジン

        • インドネシア法について、あれこれと
          14本

        記事

          雇用創出オムニバス法(7)-リスクベースの許認可の導入【アップデート】

          1 はじめに 「雇用創出オムニバス法(4)」で、雇用創出オムニバス法によるリスクベースの許認可の導入を取り上げた。そこでは、「日本企業がインドネシアで事業を行う場合に、各種の許認可を得ることは避けて通れないプロセスである。そのため、この改正が日本企業のインドネシア投資に与える影響は大きい。もっとも、その詳細については、政令の制定を待つ必要があり、引き続き、今後の状況を注視していきたい。」と締めくくった。  その後、2021年2月16日、インドネシア政府によって、政令45本、

          雇用創出オムニバス法(7)-リスクベースの許認可の導入【アップデート】

          雇用創出オムニバス法(6)-ポジティブリストの導入

          1 はじめに 「雇用創出オムニバス法(2)」で、雇用創出オムニバス法による投資法の改正を取り上げた。そこでは、「雇用創出オムニバス法によって、インドネシア投資の枠組みが大きく変更される。その詳細については、大統領令の制定を待つ必要がある。」と締めくくった。  その後、2021年2月16日、インドネシア政府によって、政令45本、大統領令4本の制定が発表された。これらの細則制定までの状況については、以下の二つの記事をご確認いただきたい。  投資法の改正については、大統領令20

          雇用創出オムニバス法(6)-ポジティブリストの導入

          待望の政令・大統領令の制定!しかし、制定日・公布日のバックデート?!【雇用創出オムニバス法・アップデート】

          待望の政令・大統領令の制定 雇用創出オムニバス法による改正内容の詳細の多くは、政令、大統領令といった細則に委ねられており、施行日である2020年11月2日から3か月以内に、つまり、2021年2月2日までに、細則が制定されるとされていた(同法185条a.)。そこで、インドネシアビジネスに関心を持つ人達は皆、今か今かと細則の制定を待ちわびていたのである。  この3か月を過ぎて、現地でも、「3か月の法定期限はどうなったんだ?」といった声が聞かれるようになった頃、2021年2月16日

          待望の政令・大統領令の制定!しかし、制定日・公布日のバックデート?!【雇用創出オムニバス法・アップデート】

          まもなく、政令・大統領令が成立!?【雇用創出オムニバス法・アップデート】

           雇用創出オムニバス法について、「投資法の改正」「会社法の改正」「リスクベースの許認可の導入」「労働分野の法改正」といった個別具体的なテーマでコラムを掲載してきた。これらの改正について、肝心の部分は、下位法令である政令・大統領令に委ねられている。  同法185条a.によれば、施行日である2020年11月2日から3か月以内に、政令・大統領令が制定されるとされている。  すると、2021年2月2日で、ちょうどこの3か月を迎えることになる。2021年1月30日時点では、政令・大統領

          まもなく、政令・大統領令が成立!?【雇用創出オムニバス法・アップデート】

          noteを始めました【自己紹介】

           大川 恒星(おおかわ こうじ)と申します。大阪の弁護士です。  2015年1月から弁護士として働き始め、2019年夏から、アメリカのUCLA(University California Los Angeles)ロースクールに留学しました。コロナ禍で色々とあったものの、昨年5月に卒業し、10月にニューヨーク州司法試験を受験しました(なんとか無事に合格)。今はインドネシア・ジャカルタの法律事務所で研修しながら、インドネシアの法律・言語を全力で学んでいます。  日本の弁護士登

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          雇用創出オムニバス法(5)- 労働分野の法改正

          1 はじめに 本コラムでは、労働法(労働に関する法律2003年13号)を含む、労働分野の法改正を取り上げる。インドネシアの労働法は、労働者保護に手厚い。その反面、使用者にとっては厳しい内容に頭を抱える、現地の日系企業の担当者も少なくないと思われる。  日本の労働法も比較法的には労働者保護に手厚く、例えば、筆者が留学した米国の労働法制と比較すれば、使用者にとって厳しい規制となっている(米国だと、例えば、「解雇自由の原則」を採用する州も存在する。)。が、インドネシアの労働法は、日

          雇用創出オムニバス法(5)- 労働分野の法改正

          雇用創出オムニバス法(4)- リスクベースの許認可の導入

          1 はじめに 本コラムでは、主に「リスクベースの許認可」を取り上げる。これは、雇用創出オムニバス法(7~12条)によって新たに導入されたものである。日本企業がインドネシアで事業を行う場合に、各種の許認可を得ることは避けて通れないプロセスである。そのため、この改正が日本企業のインドネシア投資に与える影響は大きい。 2 リスクベースの許認可(1)従前の許認可の仕組み インドネシアでは、2018年7月から、OSS(Online Single Submission)システムが導入さ

          雇用創出オムニバス法(4)- リスクベースの許認可の導入

          雇用創出オムニバス法(3)- 会社法の改正

          1 はじめに 本コラムでは、会社法(株式会社に関する法律2007年40号)の改正を取り上げる。雇用創出オムニバス法(109条)によって、会社法の一部が改正された。この改正は、零細・小規模企業の設立の促進に向けられたものであり、(零細・小規模企業には当たらない)日本企業のインドネシア投資に与える影響は小さいと考えられる。むしろ、日本企業のインドネシア投資の障壁の一つであった、最低投資総額と引受・払込資本金額の最低額に関する規制は改正されていないため、この点では、外資規制の緩和は

          雇用創出オムニバス法(3)- 会社法の改正

          雇用創出オムニバス法(2)- 投資法の改正

          1 はじめに 前回のコラムでは、雇用創出オムニバス法の成立過程とその概要について取り上げた。本コラムでは、投資法(投資に関する法律2007年25号)の改正を取り上げる。雇用創出オムニバス法(77条)によって、投資法の一部が改正された。この改正は、日本企業のインドネシア投資にも大きな影響を与える。 2 投資法とは 投資法とは、インドネシアの国内・外国投資を規律する基本法である(全40条で構成される。)。外国投資については、投資金額の多寡にかかわらず、投資法による外資規制を受け

          雇用創出オムニバス法(2)- 投資法の改正

          雇用創出オムニバス法(1)- 雇用創出オムニバス法の成立過程とその概要

          ※ 筆者が所属する法律事務所のホームページ上で2020年11月初旬に掲載したものをnoteで再掲しています。 1 はじめに インドネシアのジョコ大統領が、2020年11月2日、「雇用創出オムニバス法」に署名したことで、同法は成立し、同日、公布と同時に施行された(186条)。同法案が同年10月5日に国会で可決されたのち、まもなく30日が過ぎようとしていたときだった。インドネシアでは、法案は、国会で可決後30日以内に、大統領が署名することで成立する(ただし、大統領が30日以内に

          雇用創出オムニバス法(1)- 雇用創出オムニバス法の成立過程とその概要

          インドネシア法の概要

           インドネシア法は、多元的である。オランダによる植民地支配の影響や民族的・文化的・宗教的な多様性を背景に独特な法体系となっている。  ①制定法、②慣習法(アダット法)、③宗教法(主にイスラム法)の3つに分けられる。 ※ 島田弦編『インドネシア 民主化とグローバリゼーションへの挑戦』旬報社(2020年)30~38頁の分類に従った。 <インドネシア史の概要> ※ 外務省ホームページより一部抜粋 <民族> ※ 「政治統計2015年度」を参照  全人口の約4割を占めるジャワ族をは

          インドネシア法の概要