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まもなく、政令・大統領令が成立!?【雇用創出オムニバス法・アップデート】

 雇用創出オムニバス法について、「投資法の改正」「会社法の改正」「リスクベースの許認可の導入」「労働分野の法改正」といった個別具体的なテーマでコラムを掲載してきた。これらの改正について、肝心の部分は、下位法令である政令・大統領令に委ねられている。
 同法185条a.によれば、施行日である2020年11月2日から3か月以内に、政令・大統領令が制定されるとされている。
 すると、2021年2月2日で、ちょうどこの3か月を迎えることになる。2021年1月30日時点では、政令・大統領は制定されていない。もっとも、JETRO関係者を通じて、インドネシア政府の担当者の話を聞いたところ、政府としては、前記の法定の期限内に、つまり、2月2日までに、政令・大統領令を制定させる、との意気込みであるようだ。
 ところで、政令・大統領令の「草案」については、インドネシア政府が立ち上げた特設サイトに掲載されていることはご存知だろうか。

 いわゆるパブコメ制度である。草案を国民に周知することで、さまざまな意見や情報を募集するためのものである。政令・大統領令の制定の透明性を確保することで、制定過程の適法性を担保するねらいもあるだろう。ただ、ひねくれた見方をすると、「きちんと手続を踏んだのだから、あとから文句を言わせない」ということでもある。

 2021年1月30日現在、特設サイトには、政令草案(Draft RPP)として37本、大統領令草案(Draft RPerpres)として5本が掲載されている。例えば、インドネシアへの投資を行う外国企業にとって注目度の高かった「ポジティブリスト」の草案については、2021年1月10日付けで、RPerpres Bidang Usaha Penanaman Modal(英訳:Presidential Decree for the Investment Business Filed)として掲載されている。
 直近のものだと、2021年1月29日付けで、RPP Perjanjian Kerja Waktu Tertentu, Alih Daya, Waktu Kerja dan Waktu Istirahat, Serta Pemutusan Hubungan Kerja(英訳:RPP of Fixed-Term Work Agreement, Outsourcing, Working Hours and Breaks, and Termination of Employment)が掲載されている。これは、労働分野の法改正に関わる政令草案である。この改正の前後で、労働組合のデモが頻発するなど、国民の関心が高いテーマである。私の認識では、この政令草案は、1月29日以前に(昨年12月下旬頃)、特設サイトに掲載されたのち、一時的に確認できない状態となったもので、修正等を踏まえて、最終草案として掲載されたものが、この1月29日付けのバージョンであると思われる。

※ この労働分野の政令草案の時系列を整理されている方がおられれば、教えていただけますと幸いです。

 だが、ちょっと待って欲しい。ギリギリいっぱいの2021年2月2日に制定されるとすると、国民の関心が高いはずの労働分野の政令草案について、国民への周知期間は、1月30日(土)から2月2日(火)までの4日間しかない。国民が、自らの意見を反映させようと思うのであれば、遅くとも、この土日で意見を纏めて、2月1日(月)には、政府に意見を届けなければならない。言うまでもなく、これは土台無理な話である。

 ただ、この労働分野の政令草案については、前記のとおり、1月29日以前にも確認できた、国民の意見も踏まえて出来上がったものが最終草案である、との反論もあるかもしれない。しかし、前記の「ポジティブリスト」の草案は1月10日付けで発表されたものであるし、1月になって発表された政令・大統領令が散見される。

 政令・大統領令の制定を法定の期限内に行うことに固執するあまり、国民への周知のプロセスがおざなりになってはいけない。肝心の部分が政令・大統領令に委ねられているのであれば、なおのことである。このまま制定されてしまうのであれば、政府がコロナ禍に乗じてドタバタで成立させたと批判されても仕方がない状況だと思う。

 インドネシア人でもない私が、ここであれこれと批判する意味はないのかもしれないけれど、せっかくの土日に、あれこれと考えさせられるインドネシア人の身になって、これをしたためました。


※ 本コラムは、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに対する法的助言を想定したものではありません。個別具体的な案件への対応等につきましては、必要に応じて弁護士等への相談をご検討ください。また、筆者は、インドネシア法を専門に取り扱う弁護士資格を有するものではありませんので、個別具体的なケースへの対応は、インドネシア現地事務所と協同させていただく場合がございます。なお、本コラムに記載された見解は筆者個人の見解であり、所属事務所の見解ではありません。

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