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雇用創出オムニバス法(7)-リスクベースの許認可の導入【アップデート】

1 はじめに

 「雇用創出オムニバス法(4)」で、雇用創出オムニバス法によるリスクベースの許認可の導入を取り上げた。そこでは、「日本企業がインドネシアで事業を行う場合に、各種の許認可を得ることは避けて通れないプロセスである。そのため、この改正が日本企業のインドネシア投資に与える影響は大きい。もっとも、その詳細については、政令の制定を待つ必要があり、引き続き、今後の状況を注視していきたい。」と締めくくった。

 その後、2021年2月16日、インドネシア政府によって、政令45本、大統領令4本の制定が発表された。これらの細則制定までの状況については、以下の二つの記事をご確認いただきたい。

 リスクベースの許認可の導入については、リスクベースの許認可の実施に関する政令2021年5号が制定された。政府のウェブサイト(https://jdih.setneg.go.id/Produk)でダウンロードできる。政令本文と添付資料1乃至4で構成される。従前のOSS政令2018年24号は取り消された。

※ 政令2021年5号は、リスクベースの許認可に関し、リスクベースでの事業分類と許認可の種類、OSSシステムでの運用方法、監督、制裁といった幅広い事項を網羅しており、特定の業種ごとの個別ルールもそれぞれ詳細に定めている。よって、この政令も全567条で構成されており、大部である。

 以下では、「雇用創出オムニバス法(4)」で述べたことは繰り返さず、政令2021年5号によってアップデートとされた内容について簡単に解説する。

2 リスクベースでの事業分類と許認可の種類

 低リスク事業から高リスク事業までの許認可の種類は、下図のとおりである(雇用創出法8条乃至10条、政令2021年5号12条乃至15条)。

写真① (2)

3 準備段階と運営・商業段階

 さらに、事業は、準備段階(用地確保、建物の建設、機械・設備の確保、人材の確保等)と運営・商業段階(商品・サービスの製造・販売・宣伝等)に分かれる(政令2021年5号17条)。下図は、事業のリスクに応じてそれぞれの段階で確保すべき許認可を整理したものである。

写真③ (2)

(1)低リスク事業

 低リスク事業については、事業識別番号(NIB)が許認可の種類となる。OSSシステム上で、所定の情報を提出すると、自動的に事業識別番号が発行され、これにより、事業者は適法に事業を行うことが可能となる。
 なお、この事業識別番号は、零細・小規模企業によって実施される低リスク事業では、インドネシア国家基準(Standar Nasional Indonesia(SNI))やハラル認証にもなる。(以上につき、雇用創出法8条、政令2021年5号12条)。

(2)中リスク事業

 中リスク事業については、低リスクと高リスクのいずれについても、事業識別番号と標準証書(Standard Certificate)が許認可の種類となる。
 ただし、標準証書については、同じ名称であっても、低リスクと高リスクでは、その中身が異なる。すなわち、低リスクのものは、事業主体が事業を行う上で事業実施基準を充たすことの声明であり、OSSシステムを通じて提出するものである。事業主体は、事業を行う前に、この事業実施基準を充たさなければならない。
 一方で、高リスクのものは、中央政府又は地方政府がそれぞれの権限に基づき、事業主体が事業実施基準を充たすことを認証した上で発行する証明書である。事業者は、事業識別番号に加えて、「未認証」の標準証書を取得することで事業の準備を実施することができる。「未認証」の標準証書とは、事業主体が事業を行う上で事業実施基準を充たし、中央政府又は地方政府の認証を受けるための準備ができていることを記載した声明に基づき発行される。その後、中央政府又は地方政府から事業実施基準を充たすとの認証を得た標準証書を取得することで運営・商業を実施することができる。
 なお、所定の期間内に標準証書(中央政府又は地方政府の認証を受けたもの)を確保できていないことや、事業識別番号が発行されてから1年以内に事業の準備を実施していないことが監督で判明した場合、「未認証」の標準証書は取消しとなる。(以上につき、雇用創出法9条、政令2021年5号13条、14条)。

(3)高リスク事業

 高リスク事業については、事業識別番号とラインスが許認可の種類となる。ライセンスは、中央政府又は地方政府が発行する。事業者は、事業識別番号を取得することで事業の準備を実施することができ、ライセンスを取得することで運営・商業を実施することができる。
 なお、高リスク事業について事業基準や製品基準の遵守が求められる場合には、中央政府又は地方政府がこれらの基準を遵守していることを認証した上で事業基準証書(Business Standard Certificate)や製品基準証書(Product Standard Certificate)を発行する。(以上につき、雇用創出法10条、政令2021年5号15条)

(4)小括

 以上により、事業のリスクが低ければ、簡易な手続で許認可を得て、すぐに事業を開始できる一方で、事業のリスクが高くなれば、中央政府又は地方政府が発行する証書やライセンスが必要となり、より慎重な手続を経なければ、許認可が得られず、すぐに事業を開始できないことが分かる。

3 業種別のリスト

 リスクベースの許認可は、「海洋及び漁業」「農業」「林業」「エネルギー及び鉱物資源」「原子力」「工業」「商業」「公共事業及び公共住宅」「運輸」「健康、薬及び食品」「教育及び文化」「観光」「宗教」「郵便、電気通信、放送及び電子システム・取引」「防衛及び安全」「雇用」の各セクターの業種に適用される(政令2021年5号6条2項)。政令2021年5号の添付資料1乃至4の内容は以下のとおりである。

添付資料1:前記のセクター別に業種ごとに、リスクベースでの事業分類と許認可の種類を整理したリスト

添付資料2:前記のセクター別に業種ごとに、リスクベースの許認可の要件と義務を整理したリスト

添付資料3:リスクベースの許認可のガイドライン

添付資料4:事業基準と製品基準のガイドライン
※これに従い、事業基準と製品基準が制定される。

 ご参考までに、海洋及び漁業のセクターについて、添付資料1及び2を以下に添付する。いずれも、前記の政府のウェブサイトでダウンロードしたものである。

4 その他の留意事項

 リスクベースの許認可は、中央政府が定める規範・基準・手続・評価基準(Norma, Standar, Prosedur dan Kriteria(NSPK))に基づき、中央政府と地方政府によって行われる(政令2021年5号21条)。事業活動の監督や行政制裁についても、前記のセクター別に業種ごとに判断される。

5 開始時期

 政令2021年5号の実施規則は、政令2021年5号の公布日である2021年2月2日から2か月以内に制定される。そして、OSSシステムを通じたリスクベースの許認可は、政令2021年5号の公布日である2021年2月2日から4か月後、つまり同年6月2日に開始される(政令2021年5号556条)。

6 最後に

 外国企業がインドネシアへの投資を検討する際に、外資規制の問題をクリアすると、次は、許認可の取得となる。リスクベースの許認可においては、前記のとおり、セクター別に業種ごとに、リスクベースでの事業分類と許認可の種類、リスクベースの許認可の要件と義務がそれぞれ整理されているため、KBLIに照らして確認することになる。
 ただし、実施規則も定められておらず、開始時期も少し先である。OSSシステムがどのように運用されるのかも、それが出来て使ってみないことには分からないことも否めない。引き続き、今後の動向を見守る必要がある。


※ 本コラムは、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに対する法的助言を想定したものではありません。個別具体的な案件への対応等につきましては、必要に応じて弁護士等への相談をご検討ください。また、筆者は、インドネシア法を専門に取り扱う弁護士資格を有するものではありませんので、個別具体的なケースへの対応は、インドネシア現地事務所と協同させていただく場合がございます。なお、本コラムに記載された見解は筆者個人の見解であり、所属事務所の見解ではありません。

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