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訪問STのちょっとエエもん紹介④~京都の和菓子・嚥下調整食編(やわらか羊羮)~

皆さん、いかがお過ごしですか。

言語聴覚士(ST )の八田です。
私は、在宅療養されている方のお家に訪問して、リハビリテーションを提供しています。

さて、訪問STのちょっとエエもん紹介第4弾です!ご紹介です。今日は、京都の和菓子職人さんが作った飲み込みがしやすい「やわらか羊羮」です。

「京滋摂食嚥下を考える会」

「京滋摂食嚥下を考える会」は、「京都」と「滋賀」の医療関係者・介護関係者による多職種連携の集まりで、有志の会です。「いつまでも、食事を楽しめる京都、滋賀」をモットーに活動しています。私もこの会の世話人をしています。


和菓子プロジェクト

2013年「京滋摂食嚥下を考える会」は、京都生菓子共同組合に協力を依頼し、嚥下調整食の和菓子を開発する取り組みを開始しました。

このプロジェクトの背景には、病院や施設で提供される嚥下調整食のおやつの大半がゼリーやプリン等の洋菓子であり、摂食嚥下機能が低下した方にも和菓子を提供したい、京都の伝統的な和菓子技術を生かし、飲み込みやすさと美味しさが両立する和菓子が作れないかチャレンジの気持ちがありました。

医療介護関係者×和菓子職人

プロジェクトは、京滋摂食嚥下を考える会に所属する、言語聴覚士、管理栄養士、調理師を中心に多職種が参加し、まず、和菓子職人の皆さんに、摂食嚥下障害とは?について知っていただくところから始まりました。摂食嚥下調整食の概要とその必要性をお伝えし、食物の物性や摂食嚥下障害者が飲み込みがしやす物性について情報共有を試みました。

飲み込みがしやすい食品の物性

和菓子には、餅菓子に代表されるように窒息リスクがある性状の物が多いが、和菓子職人の方々には、「飲み込みがしやすい物性」についての情報はなく、それまでは全く注意を払う事なく、お菓子が作られていました。

その後、「嚥下調整食」や「物性」の情報に基づいて試作された和菓子を「考える会」の専門職が評価し、改善すべき点をフィードバックして、また次の試作が行われるという作業を繰り返し行いました。

和菓子には、それまで使用されていなかった嚥下調整食品(とろみ調整食品、ゲル化剤)の使用が試みられた他、強度の弱い寒天や葛を合わせて使用することで、凝集性の改善、離水の減少が実現しました。また、糖度、酵素使用量を調整する事で、付着性を低下させる等の工夫がなされ、徐々に飲み込みがしやすい物性の和菓子が作られるようになった。
その他にも材料の選定や加熱の方法等、和菓子作りの様々な技がプロジェクトの中で共有されました。

患者さん、利用者さんの口へ

2014年3月に京都府内の介護老人施設6箇所で700個ふるまわれました。この頃は私はまだ病院に勤務していましたが、月に1~2回法人内の施設に嚥下評価&相談に行っていた事もあり、この日は、介護老人保健施設で、皆さんに羊羮を召し上がっていただくお手伝いをしました。

味については、あっさりとした甘味で、和菓子を食べる機会の少ない入院、入所の方々に大変好評でした。

「この味は一生忘れません。」
「優しい味やね。」
「病人にはもってこいやな。」

介護者の方々からは、「食べた感じや見た時の反応がとても良かった。」「いつものおやつより美味しいと喜ばれた。」「口を大きく開けておられた。」との感想がありました。

現場での聞き取りで、「和菓子を食べると昔を思い出します。」との声が複数あり、古い記憶の想起に繋がる可能性が示唆され興味深かったです。

京都の和菓子職人が一生懸命作ってくれたという物語性も、味覚、嗅覚の衰えた方の美味さに一役かったかもしれないと思います。


やわらか羊羮

・「やわらか羊羮」は、誤嚥・窒息等のリスクを考慮して軽度の嚥下障害のある在宅高齢者や施設入居者を対象と考えていますが、きちんと嚥下障害の評価、対応が出来る専門職の介入で重度の嚥下障害のある方にも召し上がっていただけたケースの報告も聞いています。

・「やわらか羊羮」は、増粘剤を使用せず、寒天の種類と配合の工夫で、口当たりの良さ、滑らかさを出しています。

・物性については、市販のプリンに比べて若干固めで咀嚼が促されやすく、崩すとヨーグルトに近い状態までやわらかくなります。
ただ、ごくわずかにざらつきがあり、それがムセの原因になる方には摂取困難です。市販のプリン、ヨーグルトを少量お楽しみで摂取できる方には、摂取できる可能性がある事がわかりました。

・2016年秋には「やわらか羊羮」を、2017年には、「みたらし団子」等も販売出来る体制が整いました。

おわりに

今後も日々の訪問リハビリ業務でも、地域の活動である京滋摂食嚥下を考える会社の活動でも、「食べる事を楽しむ機会の提供」を継続していけたらと思っています。


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