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文化芸術への考え方-新型コロナウイルスに伴う劇場の対応【ドイツ】

落ち着かない日々が続きます。
ここドイツでは、3月16日より、新型コロナウイルス感染症拡大阻止のために、オーストリア、スイス、フランス及びデンマークとの国境において、主に商業目的を除き、入国制限が設けられています。(*ドイツ国籍者及び滞在資格を有する外国人は対象外)物流が規制されることはないとはいえ、日本と同様、物品買い占めの影響により、スーパーマーケット等の品薄状態は数日続く見込みです。

こうした影響が、演劇業界にも及んでいることは周知の通り。他国に違わず、ドイツ語圏においても、新型コロナウイルスの蔓延を受けて、劇場やコンサートホールが軒並み閉鎖を余儀なくされています。

3月9日には、日本の厚生労働大臣に当たるGesundheitsministerのJens Spahn氏により、原則として1000人規模での集会を禁止するという基本方針が打ち出されました。

※追記:3月16日にドイツ連邦政府により、劇場、オペラ座、コンサートホール、美術館や映画館やその類の閉鎖が勧告されました。これにより全ての劇場は休業を余儀なくされます。(参照はこちらから)

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こうした中、各劇場もその対応に追われています。劇評サイトnachtkritik.deでは、各州の公共劇場の対応が随時更新されています。こちらから。各州・劇場によりその期間に違いはありますが、例えばベルリンでは、多くの劇場が4月19日、つまりイースター休暇明けまでを、ひとまずの目処としていることが言えるでしょう。(もっとも状況は日に日に変化していくので、さらなる延長も考えられますが。)

劇場が閉鎖になるということは、演目を見る予定だった観客への影響はもちろん、そこで働く俳優や演出家、プロダクションにも大きな影響を及ぼします。とりわけフリーシーンで活動するアーティストにとっては、公演における収入がなくなってしまうために、大きな問題となってくるものでしょう。

無論、このように公演や稽古が中止になったり劇場が閉鎖になった場合の芸術家たちの給与に関しては、雇用契約内容によって変わってくるようです。しかしながら、仮に契約上記載がない場合でも、ドイツ民法616条によれば、労働者が勤労可能である場合は、劇場が中止に対する代償の支払いが義務付けられていることがうかがえます。これは劇場で雇用されているか、ゲストとして招聘されているかに関わらず、同様の措置が取られるようです。(参照はこちら

またこうした劇場の閉鎖を受けて、多くの劇場などが、オンラインによる公演映像の配信を予定している模様です。(日本からも見ることができるかもしれません、要チェックですね。)上演プランはこちらから確認することができます。

とはいえ、芸術家にとっての問題は金銭面だけではなく、作品の発表の機会が奪われることでしょう。これまで3度ベルリン演劇祭(ドイツ語圏における昨シーズンの注目するべき10の作品が選出)に選出されている、演出家のChristpher Rüping氏は、15日twitterにてこのような発言をしています。

(以下引用、筆者訳)
„劇場が当分の間、観客に対して閉じられるということは、芸術家たちにとっても閉じられるということだ。もはや稽古もできず、止まってしまうだろう。我々(芸術家)が会うことを許されなければ、ライブストリームのための新しいフォーマット作りも、無論できるはずもない。“

言うまでもなく、芸術家に対する金銭的な援助は重要なことですが、どの国においても、失われてしまう上演の機会、またこうした文化・芸術の波が停止してしまうことは、どういうことなのか。今一度、考え直してみるいい機会になるのかもしれません。

以下、ドイツ文化相のMonika Grütters氏は3月11日の記者発表における発言をご紹介します。

(以下引用、筆者訳)
「私にとって自明なのは、この状況が文化・創造産業において大きな重荷になるということで、特に小規模事業やフリーランスの芸術家たちを大きな苦境に陥れるということである。」「この状況が私たちに気付かせることは、文化というのは良い時期にのみ享受される贅沢品ではないということだ。むしろ私たちは、この文化を一定の期間諦めざるを得ないときになって、我々に文化が必要なもの(意訳:文化が私たちにとって欠けているものである)であることに気づくのである。」
「この状況下においてもなお行事の中止を推奨するのは、この異常な緊急事態に際して、我々はそれをせざるを得ない状況にあるからである。」「芸術家及び文化施設は、目下の生活を取り巻く状況や、文化・創作及びメディア分野における制作について、以下のことを信頼してもらいたい。私は彼らを見殺しにはしない!私たちは彼らの不安に注目し、(彼らに対する)援助制作や流動的な支援に関して、文化産業と創作の特別な要望を考慮するために尽力していく。」

具体的な政策に関しては今後また議論がなされるでしょう。しかし、少なくともこの発言が、ドイツという国の芸術・文化に対する認識を示すものと考えられるのではないでしょうか。どう思われますか。(了)


※追記2:この記事を書いている最中(16日)に、今年のベルリン演劇祭の中止が発表されました。今年は岡田利規氏の作品がノミネートされた歴史的な年だっただけに残念でなりません。