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拷問投票

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SF長編小説。二十年後の日本、凶悪犯への厳罰化を求める世論に流され、一部の犯罪者を合法的に拷問することができる拷問投票制度が存在していた。残虐なレイプ殺人事件で娘を失った高橋実は…
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2024年2月の記事一覧

◯拷問投票184【第三章 〜正義と正義〜】

 世間に利用され、決めつけられる痛みは、周りからは想像しにくい。ひとつの感覚として尊重す…

山本清流
4か月前

◯拷問投票185【第三章 〜正義と正義〜】

   ※  裁判員としての重い一票を握っている以上、佐藤龍は、生半可な気持ちで論戦を眺め…

山本清流
4か月前
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◯拷問投票186【第三章 〜正義と正義〜】

 しかし、反対するのも簡単ではなかった。およそ人間の所業とは思えないほどに残虐な犯行だ。…

山本清流
4か月前
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◯拷問投票187【第三章 〜正義と正義〜】

 もともと政治には興味のないほうだった。裁判員としての経験を通して、社会問題についてはじ…

山本清流
4か月前

◯拷問投票188【第三章 〜正義と正義〜】

 佐藤は、拡声器を持たない人々の息遣いが聞こえてくるところまで来て、よりスピードを落とし…

山本清流
4か月前
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◯拷問投票189【第三章 〜正義と正義〜】

   ※  宣伝カーから見えるのは、無関心だった。  蒸発しそうな都会に眉根を寄せながら…

山本清流
4か月前

◯拷問投票190【第三章 〜正義と正義〜】

 はじめのうちは全面的に拷問に賛成してくださいと訴えていたが、そのせいで印象が悪くなっていたらしい。リアルタイムでSNSなどの分析をしていた研究グループから指摘があった。これを受けて、長瀬たちは、直接的な表現を避けることにした。ついでに無関心層の拾い上げのほうに力点を移している。  長瀬は、宣伝カーの後部座席で、静かに目を閉じた。  瞼の裏には、ここ最近、気になっていることがいくつも浮かび上がってくる。拷問投票制度の理論的な問題、平和刑法の会の代表である川島の『なにか』、緊張

◯拷問投票191【第三章 〜正義と正義〜】

 なんで、家族を殺されてきた我々が、まるで自分たちが犯罪者になるかのような気持ちの悪さを…

山本清流
4か月前

◯拷問投票192【第三章 〜正義と正義〜】

 数日前に公表された民間企業による世論調査によれば、国民の十五パーセントが拷問を支持して…

山本清流
4か月前
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◯拷問投票193【第三章 〜正義と正義〜】

 しかし、実は、時代とか環境とかを持ち出すまでもない。  積極的刑罰措置は、百年以上にわ…

山本清流
4か月前
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◯拷問投票194【第三章 〜正義と正義〜】

 SNS上を回っていくと、多様性という聞き飽きた言葉をいまさら実感する。議論の深まりはな…

山本清流
4か月前

◯拷問投票195【第三章 〜正義と正義〜】

 時刻は正午過ぎだった。  長瀬は、ひとり、人通りの少ない歩道脇で宣伝カーから降りた。汗…

山本清流
4か月前

◯拷問投票196【第三章 〜正義と正義〜】

『無作為に選んだ女性を襲って殺害することはけっして許されないが、その行為の責任のすべてを…

山本清流
4か月前

◯拷問投票197【第三章 〜正義と正義〜】

 いま川島を囲んでいる黄色いTシャツの人たちは伝統的な民主主義を批判している。そのことを考えれば、いわゆるリップサービスをしているのではないか。  長瀬には、それが先入観の導いた誤った捉え方だとは思えなかった。川島はやはり空気の読めるリアリストではないか。本音をあまり表に出さないような、まさに政治家みたいなタイプなのではないか。  ……でも、だとしたら、どこまで疑えばいいのだろう。長瀬は、より注意深く、耳を傾けていた。 『わたしたちは、みな、多数派が常に正しいわけではないとい