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日記

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山本清流の日記です。日記の内容としては、範囲を限定しないつもり。限定したとしても、例外が絶対に出てくるから、あらかじめルールはつくらない。そのとき、書きたいことを書く。
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2023年4月の記事一覧

【詩】闖入者

夜も夜になった。築五十年の木造建ての自宅に戻ってくると、三和土のコンクリートの上に見知らぬ運動靴がきれいに並べられていた。明かりをつけた。紐が切れて、表面には二、三の穴があき、怠惰と時で黄ばんでしまった歯みたいに汚れている。それと見知らぬフケの散乱。首を伸ばして、闇に溶け込まれた廊下の奥へと言葉の釣り糸を投げたが、虚しく終わった。聞こえてくるのは、宇宙の果てからやってきたかのような寂しさに満ちた蝉

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【日記】映画『ジョーカー』の感想。3回目の視聴。

 今日は、昼頃、なんとなく『ジョーカー』を観たくなり、Amazonプライムビデオで吹き替え版を観ました。

 ちょっと前にアカデミー賞で主演男優賞を受賞した作品です。観るのはこれが3回目でした。

 その感想を少し。

 ストーリーとしては、なんらかの精神的な疾患を抱えた主人公が、社会の中で孤立し、不満と怒りを膨らませて、人殺しの道に没してしまうというものです。

 主人公には妄想っぽいところがあ

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【詩】アインシュタインは勝てない

アインシュタインは
喧嘩したらたぶん負ける
アインシュタインを倒すことができるのは
たとえば僕の同級生のあの女子とか
あの男子とか
あの先生とか
道端ですれ違う人たちもきっと勝てる
三日前にコンビニに寄ったとき
レジの店員さんに「ありがとうございます!」と
めちゃめちゃ元気な声を出していた主婦も
きっとアインシュタインをボコボコにできる
あんなに真面目に理論を組み立ててきたのに
容赦なくボコボコに

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【詩】感受性、終わる

傷つくために散歩したのに
太陽が温かくて
鳥は囀り
花は歌い
雲は流れる
道徳は抱擁し
悪事を拷問する
愛は立ちあがり
見知らぬふたりから漂う
戦争は捨象され
汚い言葉が失踪する
敵がいなくなった平和を
感受性の導きだと正当化する
おぞましさを持て余しながら
なにも響かなかった
あのとき
の釜茹でのような日常を
未熟だと否定する
正しさを
僕は拒んだ

【詩】教室

五年前に交わした約束をまだ口の中に残していた。さすがに発酵してしまった。内部からこみ上げてくる腐臭に我慢しながら、届けたくて、届けたくて。おとなしく影になり、おかげで静かだという称号を得たことに、ちっとも満足はなかった。どちらかといえば不満。ズタズタと内臓の内壁を削り、掘削された石油で動いていた。枯渇したのは三日前だった。内部に動力源を失った肉体は弱弱しく悲鳴を上げたきり、ほとんど臨死状態になった

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【詩】つながり

チェンソーで手首を
滴り落ちる血
味わうあなた
泣いているのは
わたしの欲望を
まずいと言わない
あなたの優しさ
笑っているのは
孤独が流れたから
乾いた地に魚の死骸
腐臭が心地よく
悲しみを払ったから





わたし
三秒の命を
なまなましく生きた

【詩】詩を書く気分じゃない

詩を書く気分じゃないが
なんか日課になってるので
詩を書く気分じゃない
という詩を書くことにした
しかし
いま書いているのは
詩を書く気分だからだ
矛盾
ならば
これは詩ではない何か
詩の外側にあるもの
詩という重さと息苦しさへの
せめてもの反撃
あるいは反乱

【詩】わたしたち

彼らのテーブルのリンゴを
彼らのテレビに映る笑いを
彼らのイヤホンから流れる音楽を
彼らの本に書いてある言葉を
必ず返すからと譲ってもらって
いつか返さないといけないことの
寂しさを振り払えずにいた

いずれ時が経ち

あなたと出会い
わたしたちが生まれた

わたしたちのリンゴを
むしゃむしゃと食べる喜び
わたしたちのテレビを
げらげらと笑い飛ばす夜
好きな音楽は違ったけれど
あなたのよく聴く曲は

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【『拷問投票』制作日記15】詩を乱発して、ごめんなさい。

 みなさん!

 詩を乱発して申し訳ない。なんだ、急に、という感じですよね。

 いやぁ、まことに、ごめんなさい。

 なんせ、暇なんです。もう働きたいくらいなんですが、バイト先の準備が整ってないようでして……。

 暇ですと、意識が過去にしか向かないみたいなんですが、あいにく僕の過去に面白いものはありません🤣

 その残念な感じを、詩を書いてカバーしてます。

 しかも、詩を書きますとチャット

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【詩】自己紹介

あなたは人間だと言われて傷ついたので

ああそうですかはじめて言われましたと笑ってみた

あなたは優しいと言われて傷ついたので

黒板に大きく『夜露死苦』と間違った書き順で書いてみた

あなたは生きていると言われて傷ついたので

ここだけの話ですが実はろくろ首なんですよと耳元で囁いてあげた

もしかしたら少し意外に感じるかもしれないけれど

僕は宇宙人とローマ人のハーフの1567歳のろくろ首で

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【詩】炎

ライターを落としたら燃え尽きますぜ
プンと悪臭のする部屋でぼうと炎が浮いている
ゆらゆらと揺らめいて部屋の上限の狭さを教える
落としましたらどうなりますか
燃え尽きましたらどうなりますか
汗の滴る口から言葉を放卵した
俺もあなたも死にますぜ
死にましたらどうなりますか
やってみればわかる
内臓から絞り出された涙がガソリンに化ける
垂れ流された汚物が養分となり床を肥やす
ぼうと炎が騒がしい沈黙を

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【詩】宇宙飛行士

宇宙の外側に無があると教えてくれた先生が「厳密に言うと、無さえない」とミステリアスな言葉をこぼしたのが僕の動機だった。さまざまな本を読み、肉体を鍛え、強力に引き留めようとする故郷を後方に追いやった。ゼロという難解な名を与えられた宇宙船は、ついに宇宙を抜け出した。目が覚めたのは、戻ってきたときだった。外側に旅に出ていた僕は眠っていたわけではない。記憶がなくなったわけでもない。存在しないということを認

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【詩】書きたい

ああ
書きたい
血みどろのやつ
人がたくさん死ぬやつ
ホラーというか気味の悪いやつ
サイコキラーの悲しみを書きたい
クラシックのような殺人の協奏曲も
洪水も苦しみも神の不在も汚い言葉も
そのままに書いたら怒られるのだろうか
不快に感じた読者が僕の人間性を疑うのか
それは嫌なので温和に妥協しておきたい
きれいな言葉で誤魔化して保険を
わざわざ顰蹙を買ったうえ
評価されなかったら
なにになる
書けない

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