【詩】闖入者

夜も夜になった。築五十年の木造建ての自宅に戻ってくると、三和土のコンクリートの上に見知らぬ運動靴がきれいに並べられていた。明かりをつけた。紐が切れて、表面には二、三の穴があき、怠惰と時で黄ばんでしまった歯みたいに汚れている。それと見知らぬフケの散乱。首を伸ばして、闇に溶け込まれた廊下の奥へと言葉の釣り糸を投げたが、虚しく終わった。聞こえてくるのは、宇宙の果てからやってきたかのような寂しさに満ちた蝉々の悲鳴だけ。フケを辿り、リビングへと足を進めた。手探りで明かりのスイッチを押した。パッと現れた、シンクの前で、岩のように盛りあがった肩を縮めている背中の男。残像を漂わせながら振りかえり、ゾンビの一歩手前まで腐敗した顔を見せた。


道に迷ってしまいまして


行き先はどこですか。


明るいところが好みです


だったら寝るといいでしょう。そのうち朝が来ますよ。


ベッドを貸してください


どうぞ俺のベッドで。


死にかけた人を突き返すことの感触は、住居侵入罪とかいう法律で武装したところで薄まらない。肉体が裂けるような拷問を回避したかった。男をベッドへつれていって寝かしつけた。望んでリビングのソファに横になった。間もなくして隣室のベッドから男のいびきが空気を揺らしながら近づいてくる。ふいに心配になってきた。このまま朝を迎えたとき、あの男は起き上がれるのか。俺は赦しを請いながら、両手で左右の耳を塞いだ。揺れる空気は手の皮膚を透かし、筋肉を避けて、骨に伝達され、耳の内側から、男のいびきが絶え間なく響いてくる。いずれ意味を成してくる。


道に迷ってしまいまして


道に迷ってしまいまして


朝なんか来なければいい、どこかで言われたことがある。そのとき巧妙に始まった拷問はいまだ完成には程遠かった。いつかやってくるのに、待ちきれない。自らの肉体を強引に朝にさらして燃え尽きた人々の、どのみち燃え尽きていた顔々の、ゾンビのように崩れていたこと。いずれ意味を成してくる。


道に迷ってしまいまして