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本当の自分と出会える瞬間

先日PCの中身を整理していたら、数年前(といっても2~3年ではありません)に作成した書き殴りのような小説が一部分だけ出てきました。全く覚えていない話だったため、初対面のような気持ちになって読み進めます。

いかんせん実力不足なのでストーリーは矛盾していたり、突然脱線したりといわゆる「難あり」な出来でした。とにかく思いついた勢いそのままに書いたんだな、という印象しかもてなかったくらいです。ただその中で妙に気にかかった台詞がありました。それは「俺らしいって、どんなのだよ」という言葉です。

「そういうの○○くんらしくていいと思う」
「そうかな?」
「うん、そう思う」
「……俺らしいって、どんなのだよ」

少し改変しましたが、大体こんな感じの流れで会話は進められていました。



当時知人に「自分の思っていることがよくわからない」という人がいました。だからこそこの話を思いついたのではないかと思います。自分自身に興味がないとかそういった意味ではなく、自分の感情にふたをしているうちに感情が出てこなくなってしまったということじゃないかと言っていたのを覚えています。

それならその人の本当の姿とは誰が見つけてあげるというのでしょうか。私はなんだか悲しくなりました。なんとなく他人事のように、全てを諦めたかのような響きで発せられたその言葉が、冬の澄んだ空気に消えていくのをどうすることもできませんでした。今思えば、これは言葉にすると「儚い」という感覚だったのかもしれません。


「本当の自分の姿」というのは自分自身では見えにくかったりするものではないかと思います。それは周りの人の方なら客観的に見られるのでわかりやすかったりすることもあります。けれども逆に思い込みで見られて全く違った表現にされたりもします。もちろん自分の方がわかっていることもあれば、考え方によって過小だったり過大評価されているという場合もあるのでしょう。つまり人の目で見ることが全て正しいと言い切れないのでは? と思うのです。

あの知人から「自分の思っていることがよくわからない」という言葉を聞くまでは、私はその人はきちんとした意見を持っている人だと感じていました。ちゃんと相手にも伝えることのできるとはきはきした人だという印象を持っていたくらいです。私からすればものすごく中身の詰まった人に見えていたというのに、本人は全く逆のことで悩んでいたのです。

本人がわからないのなら、あの人の「本当の自分の姿」とはどこにあったのでしょうか。私も試しにいろいろ言ってみたような気がするのですが、ほとんどが「うーん……」といった反応だった覚えがあります。どうやら自分のこととしてしっくりこなかったらしいのです。それを見ていて思ったのは「やっぱり自分の本当の姿や本音は他の人じゃなく、本人が見つけるしかないのかもしれない」ということでした。


どうしてそんなことを思ったかというと、あの知人がその後しばらくしてから感情を爆発させてしまったという出来事があったからです。感情的になったことでいくつも口にしたことがありました。それは我慢しすぎて起こった事故のようなものだったのですが、後になって本人や周りの人の話を聞いたことで、私は知人の本当の姿を垣間見ることができたような気がしたのです。

何度も繰り返されている言葉に「自分の許せないことはこういうことだ」という価値観が見えました。本当はこういう面には優しさを持っていたんだということも見えました。少し考えてから感じたことをやんわりと言ってみると少し驚いたようではありましたが、やっぱり「うーん……」といった様子でした。

このときに、この人はある程度の根拠があっても納得できないんだなと思ったのです。その理由が何なのかは私からは見えませんでしたが、何か妨げになるような考え方を持っていたのかもしれません。長く感情にふたをするくらいですから、深い事情があったのではないかと思います。


その後あの知人とは疎遠になってしまいましたが、あの人が残した「自分の思っていることがよくわからない」という言葉だけはなんだか心の奥の方でちくちくと痛み続けていました。今回発掘した小説で当時のことを思い出してしまって、ひとりでしんみりしてしまっています。試しに「私自身は思っていることを把握できているだろうか?」と自分の胸に問いかけてみます。

ひとつ確かに見つかったのは「そういえば私はこういうことをよく考えているなあ」ということでした。このときのことを思い返さなければ、出てくることのなかった気付きです。もしかしたら「本当の自分の姿」って見つけようとするときじゃなくて、見つかるときには意外と簡単に見つかる場合もあるのでしょうか。

そういえば知人はいつも忙しそうにして、自分の時間が取れていなかったことを思い出します。たとえば心の機微に気付けるだけの気持ちの余裕、感情を受け取れる素直さ、認めることのできる柔軟さなどいくつか条件が揃ったときなど、水泡のようにぽこっと浮かんできて見えてくることがあるのかもしれませんね。


ここまで読んで下さってありがとうございました。




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