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パンケーキと私と帝国ホテルの美しい思い出

私にとってのパンケーキとは、トラウマです。一体あれから何年経ったでしょうか。そのとき私はパンケーキがとても食べたかったのは覚えています。おそらく本格的にブームだった5年くらい前だと思われます。あのころは原宿をはじめ、いろんなお店が有名になっていたりと楽しかったものです。

当時一番流行っていた原宿のエッグスンシングスに無理やり母を連れて来店し、全部食べきれずに怒られました。主にあの生クリーム。それ以降も全然懲りてはいなかったので、密かに東京に行くたびにいくつかのパンケーキ屋さんへと繰り出していました。

しかし、何故か一向に自分に合うパンケーキというものに出くわすことはありませんでした。



定義がわからない

実は「私にとってのおいしいパンケーキ」のイメージ像がなかったのです。基本的ににわかなだけだったのでパンケーキというものがどういうものなのかもよくわかっていませんでした。なんかぺらっと焼いたホットケーキじゃないの?みたいな軽い感覚で探していました。

最初に食べたエッグスンシングスのパンケーキが、そういった食感のものだったということもあります。そのため、やや固めの生地でホットケーキ系のものが人気だと思っていました。

幸せのパンケーキというとても有名なお店に行っていながら、あのふわふわのスフレパンケーキを「なんかこれパンケーキっぽくない」と思いつつ食べていました。なんてもったいない。

食べた時にふわっ、しゅわっと溶ける感じとでもいうんでしょうか。あれはちょっと自分の中の辞書ではパンケーキという項目に載っていない食感でした。そういった意味でもう一度食べたいパンケーキではあります。

けれども、本当の意味での「もう一度食べたいパンケーキ」は他にあります。


違和感がわからない

ある日また東京に来ていた私は、そのとき東京メトロに乗っていました。ちょうど帝国劇場へと向かっている最中だったのです。帝国劇場といえば、有名な舞台作品をはじめ実際の俳優さんが目の前で演じているのを見ることが出来るすごい場所です。

どうしてそんな場所にいたかというと、ミュージカルを見に来ていたからです。時間まで最初は劇場内で待とうと思ったのですが、どうもキラキラした感じの会場にいづらいと感じました。

仕方なく、逃げ出しました。すると、道路を挟んだ隣の建物の一階にカフェのような場所があることを発見しました。ここでなんとか一時間くらいは時間をつぶそうと思って入店することにします。


最初に感じた違和感は、妙に足元がふかっとしたことでした。その次に感じた違和感は、内装が帝国劇場とはまた違った輝き方をしているということでした。そして最後の違和感。それは、中にいる店員さんの雰囲気が尋常ではなかったことからでした。

「いらっしゃいませ」
「すみません、初めて来たんですが」
「ご来店ありがとうございます。何をお探しですか
「えっと、パンケーキとか……ありますか」
「ええ。二種類ございます。一名様ですか?」
「はい!」

なにこのめっちゃ親切だし、素晴らしい接客の店員さん。今思えばひとりで建物内で迷っているように見えたから声をかけてくれていたんです。ここで気付くべきだったんです。この建物はあの帝国ホテルだって。


作法がわからない

とりあえず店内に案内された私は、周りを見てびっくりしました。まずフロアの雰囲気がモダン。おしゃれっていうかモダン。そして何よりも談笑なさっている他のお客さんが明らかにリッチ。目立つブランドバッグを持っているとかじゃなく、すごく質のいいものだとかハイセンスなものを身に着けていらっしゃる方々。

ここで何かいつもと違う、普段入っているお店とは客層というかレベルみたいなのが違うと私はようやく気付きました。

通路を挟んで向かいの席のナイスミドルがオーダーメイドとしか見えないスーツを着ているし、その隣の席で語っている女性はやたらと主張する青系のワンピース。柄も斬新かつおしゃれ。多分これはシーズン最先端のブランドものだったのだと思います。

メニューに目を通すと出てくる出てくる、ランチでも3000円など高額な料理の数々。そしてここが天下の帝国ホテルだと気付き、あたふたとしながらなんとか注文をします。のどがカラカラでした。


頼んだパンケーキと紅茶が来たので食べ始めます。帝国ホテルのパンケーキはどちらかというとホットケーキ寄りで、なんとなく親しみがあります。それにアイスクリームが乗っていて、いちごがあって、はちみつが添えてありました。うん、おいしそう。

問題は食べ方がわからないことです。

そう、普通の食べ方なら知ってます。問題なのは「帝国ホテルで恥ずかしくないような」食べ方なんです。私は一瞬恥ずかしさで泣き出しそうになりました。周りにいるナイスミドル、マダムたちは涼しい顔で立派なお作法を駆使して食べ進めています。

結果、食べました。最高においしかったです。けれども食べ方は本当に申し訳ないのですが、一般人のそれでした。一般人というか貧乏人?いや、もとはと言えば田舎者が入ってきてすみませんでした……!とか心の中で叫びつつ、なんとか完食しました。


どうしたらよかったのか

なんとか完食したのはいいものの、まだ開演には時間がありました。とりあえずあと30分程度なので、15分くらいなら休憩させてもらってもいいかなと考え始めます。まあ、ここで早く退店した方が本当は良かったんですけれども。

ひとりでのんびりしていると、店員さんが紅茶のおかわりいかがですか?と来てくれました。私は昔あったミスドでのコーヒーおかわりし放題のようなサービスだと思って、「いただきます」と素直に言って淹れて頂きました。

この紅茶が恐ろしくおいしくて、いつも飲んでいるフォションよりもずっと薫り高くて忘れられません。フォションだって高いのに。何度も帝国ホテルオンラインストアに紅茶の缶ないかな?と今でも見に行くことがあるのですが、ないです。

結局そのお店では紅茶を全部で三杯頂きました。パンケーキも紅茶も大満足だし、自分は全然そんなことないのにお金持ち気分なんてものも味わってしまいました。最高の気分でした。

会計の時に担当して下さった方は、最初にお店を覗いていた時に声をかけて下さった店員さんでした。この方はまた帰り際に「気に入って頂けましたでしょうか」と声をかけて下さったりと、とても感じが良かったため心がぽかぽかになりました。


けれども、地獄はここからでした。帰ってから母に話したところ、何だか空気が怪しくなってきたのです。帝国ホテルに行ってパンケーキを頼んだところまでは良かったのですが、その後の時間つぶしについて容赦なくツッコミが飛んできました。

「紅茶は三杯も飲んだらダメ」だそうなのです。私は勧められたからいいのかと思ってしまいましたが、本当はそんなに飲んだらいけないと。上流階級の作法を知らないということから、京都の「ぶぶづけ」を思い出しました。

そこから自分のふるまいを振り返っては、急に不安になり始めました。いつも通りにとやったことが、とても恥ずかしかったことなのではないかと怖くなりました。あの場のナイスミドル、マダムたちのことを思い出して「うわーっ!」と叫びたいような気持ちになりました。


私にとってのパンケーキとは、トラウマの記憶でもあります。けれども、それは「まんじゅうこわい」のようなものかもしれません。あの格式高い帝国ホテルででさえなければ気軽に行けるのですが、どうしても作法ができなくてあたふたした思いがよみがえります。

けれども、それと一緒に思い出すのがあの店員さんたちの温かさ。何よりもパンケーキの上品な甘さ。はちみつの香気。紅茶の深い味わい。建物全体の重厚な雰囲気。そして帰り際にまわってみた正面玄関の豪華さです。

こんなところに、来てみたい。実際に泊まってみたい。そういう人になってみたい。そんな憧れを抱くきっかけになりました。


ここまで読んで下さってありがとうございました。



ちなみに使わせて頂いたパンケーキの画像、本物です。帝国ホテルで食べたのと同じパンケーキだったので使わせて頂きました!ありがとうございます。


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