みなみこうすけ

俳句のこと、その他。southernhaiku575★gmail.com(★→@)

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飯田龍太『山の木』

『山の木』(立風書房、1975年)は飯田龍太(1920ー2007)の第6句集。龍太51歳から55歳までの420句が年代順に収録されています。 本集からは、主体の日常生活に根付いた句をいくつか見出すことができます。それは繊細な感覚を伝えることもあれば、骨太な抒情や諧謔に転ずることもあるようです。 雪眠りゐる俎板のしづく垂れ 花つけて畦みな眠き帰省かな 水槽に大亀うかび春隣り 秋めくとすぐ咲く花に山の風 繊細でささやかな景をおおらかな言葉遣いで捉えることで、ゆっくりとした時

    • 「澤」2024.05

      「澤」2024年5月号の主宰作品、季語練習帖、潺潺集、澤集から特に惹かれた10句を選び、1~2文の鑑賞を付しました。 電気通せば鳴る電熱器手をあたたむ/小澤實「有為の奥山」 「電熱器」は暖房の子季語と解せばよいでしょう。「電気通せば鳴る」なる措辞からは古ぼけた電熱器のありようが思われると同時に、おそらくひとりであろう主体のかすかな孤独感も感じられます。 ざらざらと鳴るトランシーバー春野きて/中村麻 人の声が入っていなくても雑音が聞こえる類のトランシーバーなのでしょう。「ざ

      • 絵を見にゆく(散文)

        高校の文芸部の同期と一緒にネットプリント「錨」を作成しています。第1号を昨夏に公開し、昨年末に第2号を公開する予定だったのですが、参加者がそれぞれ忙しく、気付けば公開しないままに年度を跨いでしまいました。編集責任者と相談した結果、新たに作成するのであれば原稿も改めた方がよいのではという話になり、準備した原稿を破棄するのも勿体ないように感じたので、第2号に掲載する予定だった散文を加筆修正のうえこの場にアップします。拙い散文ではありますが、ご興味のある方がもしいらっしゃればご笑覧

        • 「澤」2024.04

          「澤」2024年4月号の主宰作品、季語練習帖、潺潺集、澤集から特に惹かれた10句を選び、1~2文の鑑賞を付しました。 花薄の長き束なりほどき生く/小澤實「夕しぐれ」 「なり」のおかげで薄の全容が見え、また「ほどき生く」は薄を乗せたてのひらの感覚を繊細に伝えます。さりげない句ですが、文体と言葉選びの効果を考えさせられました。 これやこの猫ドアからの隙間風/兒玉猫只 「これやこの」という大仰な入りと内容のギャップが微笑を誘います。k音の連なりも楽しい。 基督一行今朝は霞を旅

        飯田龍太『山の木』

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        • 句集鑑賞
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          「澤」2024.03

          「澤」2024年3月号の主宰作品、季語練習帖、潺潺集、澤集から特に惹かれた10句を選び、1~2文の鑑賞を付しました。 いかにしてもバケツの氷はづれずよ/小澤實「防人」 冷え込みの激しい朝の様でしょうか。上五の字余り含めぶきっちょな句形ですが、バケツから氷を外そうと一生懸命になっている主体が思われます。 馬駆つて祖母の逢引草萌ゆる/小日向美春 「馬駆つて」の勢いに感服。時間的にも空間的にもスケールの大きな逢引を、萌えだした若草が優しく包み込みます。 枯山にすれすれの虹太く

          斉藤志歩『水と茶』

          『水と茶』(左右社、2022年)は斉藤志歩氏の第1句集。氏は2015年から東大俳句会に参加し、「麒麟」にも入会されたとのことです(作者プロフィール、「麒麟」二〇二三年春創刊号より)。 本集を読んでいてすぐに気が付くのは、描きたい景がクリアに見えてくる句がとても多いことです。これは、捉えたい様子に対する冷静かつ正確な言葉の選択に拠るところが大きいと感じます。 紐引いて橇の散歩は木の間ゆく(着ぶくれ) 囀やメニューの上に皿置かれ(手にミモザ) キャベツ食ふ虫その穴をくぐりゆく

          斉藤志歩『水と茶』

          全国大学生俳句合宿2023

          9月17日(日)から9月18日(月)にかけて湯宿温泉で行われた、全国大学生俳句合宿2023に参加してきました! 全国の大学から集まった20人強の参加者の方々と俳句を書いては読んだ2日間は、とっても楽しかったです。 せっかく参加させていただいたので、幹事をしてくださった方々への感謝の念もこめて、合宿の感想を書いておこうと思います。 なお、今回の合宿で行われた句会に投句された句は、すべて既発表として取り扱うことになりました。この記事で句会提出句を引用する場合は、この合意に基づ

          全国大学生俳句合宿2023

          飯田龍太『定本 百戸の谿』

          『百戸の谿』は飯田龍太(1920年~2007年)の第一句集で、龍太34歳までの作品をまとめたものです(『飯田龍太全句集』略年譜より)。定本は1976年に編まれたもので、その際句の並びが逆年順から順年に改められ、一部の句への加筆と句の追加も行われました。 本句集には山村での生活を背景に書かれたであろう句が多くあり、それらの作品の伸びやかな呼吸にまずは惹きつけられました。 かりがねに夜霧をながす嶺幾重(昭和二十五年)   壽郎・蕗村・晩童・正洲等とまねかれて宗秋庵に 満月のゆ

          飯田龍太『定本 百戸の谿』

          津川絵理子『和音』

          『和音』は津川絵理子氏の第1句集。氏は本句集により、第30回俳人協会新人賞を受賞されています(『津川絵理子作品集I』著者略歴より)。 津川氏の作品の魅力として、取り合わせの巧みさはよく指摘されるところです。例えば、上田信治氏は以下のように述べています。 「感覚的な歓び」とは、近すぎも遠すぎもしない、絶妙な季語が配されていることへの評価でしょうか。そのような取り合わせの句は、本句集にもいくつか見出すことができます。 あたらしき名刺百枚朝桜(I) 「あたらしき」とあるので

          津川絵理子『和音』