「澤」2024.04

「澤」2024年4月号の主宰作品、季語練習帖、潺潺集、澤集から特に惹かれた10句を選び、1~2文の鑑賞を付しました。

花薄の長き束なりほどき生く/小澤實「夕しぐれ」
「なり」のおかげで薄の全容が見え、また「ほどき生く」は薄を乗せたてのひらの感覚を繊細に伝えます。さりげない句ですが、文体と言葉選びの効果を考えさせられました。

これやこの猫ドアからの隙間風/兒玉猫只
「これやこの」という大仰な入りと内容のギャップが微笑を誘います。k音の連なりも楽しい。

基督一行今朝は霞を旅衣【りょい】と為し/柳元佑太
飯島晴子の梨の句のオマージュでしょうが、霞を旅の衣服としてしまうあたりに気品が宿ります。上五の字余りを含む文体も優雅。同時作〈煙突【けむりだし】眞冬怒れる汝に付けむ〉も無遠慮で好きでした。

紅梅や生まれ育ちも京の中/天谷信子
自身の生まれに強い誇りを持つ堂々とした方なのだろうと思います。その自身は、情緒のある「紅梅」の取り合わせからも感じられるようです。

汲み置けば水無音なり春の暮/弓緒
〈いづかたも水行く途中春の暮/永田耕衣〉を思いました。揺れが収まった桶の水面を思いつつ、春の日暮れの感覚をしみじみと味わいます。

左義長や風に炎の横流れ/吉川千早
「横流れ」は炎の強さと風の強さを同時に感じさせ、迫力があります。ちょっと怖い感じも。

喪の家の犬あづかりぬ雪の夜/八木橋やえ子
ゆるやかな交流のある隣同士ほどの距離感を思いました。それほど親しい間柄ではなかった方への弔いの思いが「あづかりぬ」から感じられます。

武蔵野の冬青空に杖を置く/畦倉俊太郎
冬の関東平野の乾き切った空気を感じます。「冬青空に」の助詞が巧みであり、雲一つなく晴れ切った冬空が思われます。

六人も居れば疲れて芝桜/奥井健太
季語から察するに出先の句でしょうか弛緩した文体が主体のうっすらとした疲労感を感じさせます。

せきれいの二月の川を鳴きかはす/矢野明日香
川の両岸で互いに鳴いているのでしょう。徐々に春に向かっていく二月の川の流れや照り返しがうつくしい。