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救いの御子は 御母の胸に #10

 プロペラ機しか離着陸できない小さな空港からタクシーに乗って父の生家に向かった。父の遺品の整理か何かだったと思う。長兄、次兄、それから姉が後ろに乗って、僕は助手席に乗った。
「先祖代々からのあの山がよ、ひとつ、ふたつ、あ、いや、いくつやったかね」
「いやいくつでん、兄しゃんよ、こげんなーんもなかイナカじゃ二束三文ですばい」
 父の遺した全貌をあれこれ予想しながら、野人の子らはその島においてさえ、父の死を悼むことを忘れバランスシートの組み立てに夢中だった。タクシーのラジオは中身のないおしゃべりをのんきに続けていたが、兄たちの話よりよほど嘘がないと思いながら聴いていた。
 姉は、時々
「ここでいくら言うても、なんも意味なかよ」
とか、
「どうせ返さないかん借金の一部にしかならん」
とか、兄貴たちを牽制した。そのたびに兄たちは一瞬だけ不愉快そうに会話をやめたが、またすぐに楽しそうに話し始めた。

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