マガジンのカバー画像

短歌・詩・俳句

169
短歌・詩・猫を中心とした川柳などを掲載しています。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

鬱について

鬱について

君のおなかに顔を埋めてゐるやうな やはらかきやはらかき鬱

鬱の歌です。以前にもこんな歌を。

とりとめもなくなつかしい手触りのたとへば耳たぶのやうだ 鬱は

とらえどころのない「やわらかい鬱」・・

次のは、明確に迫って来る「硬い鬱」・・

広重の雨その明確な直線の鋭く鬱は差し迫りにき

驟雨いま晩夏の道を白く打ち すばやく耳ゆ滑り入る鬱

もう昔々のことですが、「薔薇って書ける?」と安田成美が

もっとみる
秋の歌

秋の歌

秋が奏でるヴィオラの音の寂しさに木々の葉は揺れるしかない

この明るさの中へ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかねて
琴はしづかに鳴りいだすだらう

これは八木重吉の詩ですが、平明な言葉、繊細でつぶやくように慎み深く、でも秋の清明な空気や美しさを見事に表現しています。
いい詩だなあと思い、趣向を真似て冒頭の歌を作ってみました。

もう一首。

柿ひとつゆわんと熟るる青空を 頬杖をつき秋が

もっとみる
立冬

立冬

ぬくぬくと猫ひざにゐて白秋忌

寒くなりました。
今日はちょっと小休止させてください。

この写真は今年の富士山の初冠雪。
生きているといろいろなことに出くわすもので「初冠雪(9月7日)取り消し問題」とかありましたね。これは「本当の初冠雪(9月26日)」の方。下の方に少し白く見えるのは蕎麦の花です。

これはちょっと前、白秋忌(11月2日)の頃。
蕎麦の白い花が消えて実がついているのがお分かりにな

もっとみる
石

家を出ると
首のない男が歩いていた

思わず
あとをつけてみる

くたびれた犬のような足取りだから
あとをつけるのは造作もない

四つ角を右に曲がり
煙草屋の前を通り過ぎ
街はずれの川原まで来ると
男は
腕の時計を見ながら
ポケットからペンを出し

それを大事そうに
ベンチの上に置いた

そして男は川の方を見やると
ほっと息をつき

そこにそのまま石になった