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鬱について

君のおなかに顔を埋めてゐるやうな やはらかきやはらかき鬱

鬱の歌です。以前にもこんな歌を。

とりとめもなくなつかしい手触りのたとへば耳たぶのやうだ 鬱は

とらえどころのない「やわらかい鬱」・・

次のは、明確に迫って来る「硬い鬱」・・

広重の雨その明確な直線の鋭く鬱は差し迫りにき

驟雨いま晩夏の道を白く打ち すばやく耳ゆ滑り入る鬱


もう昔々のことですが、「薔薇って書ける?」と安田成美が尋ねるCMがありましたが、鬱という字なかなか難しい漢字です。

鬱は、ごちゃごちゃしていて、いかにも鬱っぽい感じがしますが、本来、鬱は「しげる」とか「盛んな様子」を表す字であるようです。

少し気になって、3年に一度くらいしか開かない『広漢和辞典』を調べてみました。解字は次のように記されています。

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ここでは、立ちこめる香りの状態が「蒸す・蒸れる」の意味に転じていくと読めますが、「むすぼれる」というのは、結ばれてほどけない状態になることですから、植物が盛んに茂るさまが「鬱蒼」と表現されるように、「暗くふさがる」という変化へのニュアンス自体が「盛んなことに」内蔵されているということになるのかもしれません。

鬱も、懸命に生きること自体が持つ両義性の一側面だと了解すればいいのだと思ったりします。


まったくちなみに、漢和辞典を引いたついでに、一番画数の多い字は何だろうと総画索引に当ってみると、次の字が出ていました。「ライ」の籀 文ちゅうぶん(中国古代の書体)で、勿論、日本で使われてはいませんが。

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