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短編小説

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第5章)…最終章

「まあ、ないもんはしょうがねえな。見つけりゃいいんだからさ」

一郎が何でもないことのように言ったので、僕は少し落ち着きを取り戻した。

「うん…でも…」

「一緒に探してやるからさ、とりあえずここ、片付けようぜ」

僕たちは秘密基地を片付け、火の始末をした。崖の入り口を木の枝や雑草で隠すと、すっかり元通りになり、ここに洞窟があるだなんて誰にも分からないだろうと思った。

「じゃ、探しながら行こう

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。(第2章)

「おにいちゃーん!!おにいちゃんってばーー!!」

そのとき、夏乃の声がして、浅い川をよろけながら登ってくる姿が見えた。

「ママが、おべんとうにするってーー!!」

僕は、お腹がペコペコなのに気がついた。
「じゃあその石、そこの岩の影に隠しておきな。弁当食ったら、またここで待ち合わせしようぜ。」
少年が言った。

「あ、魚!えっと、オイカワは?」
僕は、透明なケースに入ったきれいな魚に、顔を近づ

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【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

【連載小説】ぼくは、なつやすみの『すきま』に入った。 (第1章) ※「水の中の時計」から、改題しました。

あらすじ
【川底に沈む石の力で、自分以外の人々の時が止まった。
夏休みに家族で川遊び、というありふれた一日。しかし五年生の冬里にとって、それは木陰のまだら模様の日差しとともに、キラキラとした忘れられない一日になった…】

「キラキラしてる川、久しぶりにみたなあ」

パパが、魚とりの網を振り回しながら、子供みたいな口ぶりで言った。

小学校五年生の夏休み、僕は家族で川遊びに来ていた。
家から車で二時

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