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「文字で親しむ和菓子」



「事典 和菓子の世界」 中山圭子著・岩波書店 を読んでいます。

本のタイトル通り、開けばそこに奥深い和菓子の世界が広がってゆきます。著者は和菓子の造詣が大変深い御方で、その上見識の広さは和菓子のみに留まらず、この国と諸外国の歴史を見詰めながら、あらゆる角度から和菓子の成り立ちや物語が語られます。歴史を掘れば掘る程に現代に通じる和菓子の原型が詳らかにされていき、私はすっかり本書に魅了されています。

近頃巷でもあんこが流行っていると聞きます。反対に和菓子離れが目立つ為、和菓子の持つ可能性と本来の良さをもっとアピールしていこうと奮闘する話も聞こえて来て、要するに両者は根底で同じ事だと思うのですが、断然和菓子好きの自分と致しましては、あんこは流行り廃りで食すものではありません。年中食べる、日常の癒しなのです。食の基盤なのです。あんこは和菓子のお母さんです。小豆は数ある食物の中でも優等生なのです。

ところで、ここ数年は理想のあんこを求めてあんこ作りに懸命な自分なのですが、お勉強の為にも、食べたいけれど作れない時も、喜んで和菓子屋さんのお世話になります。最近では御座候さんの「御座候(回転焼き)」にお世話になっています。赤あん(小豆)と白あん(白いんげん豆)があるのですが、私はいつも選べないので二個なら二個ずつ、三個なら三個ずつ買います。一個のお値段、なんと税込み95円です。本当にそんなにお安くてよろしいのですかとこちらの方が心配になりますが、デパ地下の店舗であっても同じ値段で実演販売されています。

今回御座候の事を語るに当たって、一度きちんとホームページを覗いて正確な情報をお届けしようと思いました。そして、サイト内を拝見中、ある一文が目に留まり私は目を見開きました。そこには、「御座候と民藝」とありました。

民藝と云えば柳宗悦氏が提唱した日常の手仕事、物作りの精神です。以前私は「日本民藝館」を訪問したお話を興奮冷めやらぬ中書き綴りお届けした事があります。ですから、今度御座候の公式ホームページの中で「民藝」と思い掛けない再会をして、驚くと共に嬉しさが込み上げて来たのです。

御座候さんは、回転焼き作りの道のりは、柳宗悦氏が提唱した民藝の道と重なり、自分達の目標を明確なものにしたと書いておられます。確かに、どちらも人の手から生み出される丁寧な手仕事の追求であるかと思います。妥協なしに自分たちの道を究めて行く。そんな心意気を感じます。

大好物の和菓子について文字で親しみ、回転焼きで味わい、その御縁でホームページを訪ねて、民藝の精神に帰り着くとは全く思いがけない事でした。私には物作りの精神が、ある一つの軸を中心にして巡り巡っているように思え、その輪が目の前へ広がったことに感動を覚えました。

話を本へ戻します。

私は本を買うと、読み始める前にカバーを外して本体のデザインを見ます。そこへ本一冊一冊の拘りがあるからです。紙質、仕掛け、色、デザイン等を眺めるのが好きなのです。「事典 和菓子の世界」のカバーを外すと、まるで求肥に包まれた抹茶餡のような淡いグリーンの本が現れます。そしてこの本ならではのデザインが施されていました。とっても素敵です。もしもお手に取って見られる機会がおありでしたら、是非ともカバーに隠された本のあしらいをその目で確かめてみて下さい。

裏表紙はこのようなデザインになっています。愛らしい、美味しい和菓子が世界を彩っています。

まだ読みかけです。執筆の小休止に少しずつ読んでおりますが、今の所和菓子100個分くらい読み進めたところで紐の栞を下ろしています。全国の和菓子は網羅出来なかったと著者は仰られていますが、私は読み始めて早々この本片手に全国を回りたくなりました。そうして私がまだ知らぬ全国各地の和菓子を出会った端から付け足していくと、きっと広辞苑のような分厚い一冊を持ち歩く事になるのだろうと想像しますと、何だかわくわくします。

土地の数だけ歴史があって、その中で生まれた和菓子がある。「和菓子の世界」とは、全くもって広く深く甘い、奥ゆかしい世界です。

「あなたも今日の手土産に、美味しい和菓子はいかがですか」

                          文と写真・いち


御座候ホームページと関連エッセイを貼り付けます。

御座候の回転焼きです



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