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「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー後編ー」


届けたい山形が多すぎて、三本立てになってしまった今回の旅の話。甚だ恐縮ではございますが、あなたに届け山形!ですから、御覧頂けますと幸いです。



最終日。出発の一週間くらい前に「これだ!!」と思いついた所へ行く。

山形は、果物王国で、ブドウ作りはずう~~っと前から盛んだ。つまり、美味しいワインの産地なのだ。

それからりんごが好物な私。東北制覇を目指して順番に回る中で、いつか国産のシードルと出会えないかと思っていた。行く先々で探しはするものの、元来お酒を飲まない人だから早々見つからない。
シードルとは、りんごのスパークリング、炭酸だ。アルコールを飲まないのならりんごサイダーで良いのでは?
と、私も思う。だけど、探してた。

飲食店で働く私の身近にはワインをはじめお酒が溢れている。業者を通じて海外のワイナリーさんの話を聞くことも多い。
ワイン素人の私が語るのはおこがましいが、ワインは根気のいる、対自然、いや、自然と育む究極の物作りだと思う。そこには長い長い物語がある。そんな背景を知るのはとても好きだ。ワインそのものよりも、その一本が生まれた物語バックグラウンドに興味がある。

そして、私の家族や周りの人々はお酒が好きだ。私が自分からお酒を飲むことはないけれど、楽しい食事会の時は一緒に飲んだりもする。

そしてもう一つ、周囲には内緒にしていたが、山形の旅である人へ誕生日プレゼントを見つけたかった。せっかくお土産を買って渡すなら、誕生日プレゼントにしたい。既に買ってはいたけれど、もっとぴったりなものを!

このあらゆる希望を一気に叶えられる場所があるではないか!

ワイナリーだ!!

そうだワイナリーだとようやく閃いた私は急いで山形のワイナリーを調べた。三日間をフルに使おうと山形発の新幹線時刻は夕方に設定していたが、移動に時間がかかればそれだけ現地の滞在時間が減る。みんなが喜び納得するようなとびきりの国産ワインに出会うには、試飲は外せない。未知なる体験。だけど味見しないで買う事はできないと、何故だか固い決心。

期待を胸に行き着いたのが、「高畠ワイナリー」だった。

最寄り駅は「高畠」 なんと山形新幹線も止まる駅だ。奥羽本線も同じ線路を走っており、私は山形駅から奥羽本線で向かった。乗車時間も30分位、駅からは歩いて10分ほどだ。なんて好立地。
HPを見て、是非とも手に入れたい一本を見つけた。7月10日出荷開始となっている。何たる奇跡!

それでも実際買えるかどうか、ドキドキしながら高畠へ降り立った。

事前に調べた地図を確認して歩き出す。所々に看板もあり、迷わず行けた。橋の向こうに高畠ワイナリーが見える。

曇り空。気温は高く蒸し暑い。思いがけず目の前へブドウ畑。はしゃぐ。

試飲できる場所は何処かな・・・気付いたらショップに辿り着いてしまった。ワインはもちろん、ノンアルコールもジュースも豊富だ。さすが果物王国、さくらんぼやラフランスの名前も並んでいる。

そちらも気になる、でもまずは赤ワインの並ぶ棚へ。
人のためでなければ思いつかなかった今回の訪問。緊張と高揚が入り混じりつつも、なんだか楽しい。メルロー、カベルネ・・・知ってる名前が並ぶ。けれど飲まないと選べない。あそこに店員さんが二人いるなとちらり、ちらり、2度は見た気がする。
どうしようかなぁ・・考えながら見上げていると一人の店員さんが近付いて来た。

この二日間で出来たのだ、今日も出来るぞ私。頑張れ私。
「こんにちは」

店員さんというより、ソムリエだった。胸に輝くブドウのバッジ。
ソムリエがいるのか、それもそうか、ワインを造り、売るんだものな。ソムリエは、ワインのプロフェッショナルだ。ワインの事なら何を聞いても的確に答えてくれる。これは頼もしい方と出会えたと、早速今日の目的を語る。試飲もして買いたい旨告げたため、それなら先に飲んでみますかと。
「はい、ぜひ」

試飲できる場所は別にあって、私が買いたいと思っているワインは一杯500円のサーバーにヴィンテージ違いがあると教わった。全種飲むのは無理だろう・・・6種類の中から3種をセレクトした。

まず、プレゼント候補のシャルドネ。これは白ワイン。このシャルドネを手に入れる事が、この山形旅の最大にして最終目的だ。

何故このシャルドネがそんなにも欲しかったのか――

今年のIWC、簡単に言うと世界のワインコンクールで、日本のワイナリーで唯一金賞を受賞。世界に影響力があるワインコンクールで、ワインのプロが認めた日本産の白ワイン・シャルドネ。

国産ワインは外国産には及ばないというイメージを持つ人は多い。
というのが私の印象で、しかし私はこれまでに国産のスパークリングやワインを飲んで、今はもうそんな時代ではないと思った。美味しい物がある。そのポテンシャルは計り知れない。

知名度を上げると同時に、世界が認めるクオリティのワインがさらに増えていけば、国内外で需要が高まる。生産数は土地の大きさからしてアメリカなどの大陸には及ばないけれど、味は決して引けを取らない。私はチャンスさえあれば国産ワインをあちこちで勧めていきたいと勝手に意気込んでいる人だ。

あらゆるワインを飲んで舌が肥えている周囲の人たちが納得する味なのか、飲んでみなければっ!そして私を安心させて欲しい!

今年金賞を受賞したのは2021。試飲できるのは2020。
2020も色々と受賞の多いヴィンテージだそうで、味の違いはほとんどなく、仕上がりにも遜色はないとのこと。どちらを飲んでも美味しいと、現地のソムリエさんはしっかり自信を持ってお勧めしてくれた。頼もしい。

というわけで、一杯目はシャルドネだ。

今こうして書き起こしながら気が付いたのだけど、これ一人飲みデビューの一杯目だった。

こちらが噂のサーバーだ。

お茶みたいにごくごく飲んだらダメ。じっくり味わう。あと、胃袋に食べ物を。で、ピザを注文。一杯目を飲み切らず、3種類をテーブルへ並べ、ゆっくり吟味する。

店員さんによると閑散期だそうで、客は絶えずやって来るけれど、飲食スペースは貸し切り状態。ワインの名前と味の印象を控えるため、いつもの執筆・取材ノートを広げ、思うままに書き連ねつつ飲む私。


ーこれはー

「おいしい」
これは凄い。シャルドネの芳醇で、厚みのある味わい。落ち着きもある。私は感動した。嬉しくなった。このクオリティならばみんな喜んでくれるだろうと一気に安心する。

素晴らしい!!これが山形の畑で収穫されたブドウからできたのか!!ブラボー!!! ああ、みんなに早く飲んで欲しい――

考えてみたら、これはかなりお得に味見している事になる。高畠ワイナリーの最高ランクワインを、ワンコインで飲めるのだから。

それではそんな白ワインを御紹介させて頂きます。


「2021高畠ワイナリー レ・トロワ・シゾード・オオウラ・エン カミワダ・シャルドネ」

※高畠ワイナリーのHPより拝借させて頂きました。

親子三代にわたって葡萄作りをなされている大浦家。葡萄作りの匠。代々引き継がれてきた葡萄の剪定鋏がラベルのモチーフになっている。名前の「レ・トロワ・シゾード」とは、フランス語で三本の鋏という意味だ。

一見長く、カタカナや英語表記で難しく思えるワインの名前だけど、こうして一つずつ紐解いてみると、急に身近な存在に感じられる。面白い。


後の二杯は赤にした。普段滅多に飲まない赤だけれど、だからこそ味見しなければ違いが分からず、買って帰ってもプレゼンできない。
ソムリエさんがお勧めしてくれた赤と、もう一杯はシラーにした。

残りの3種が気になる。が、今日中に新幹線2本で家まで無事帰宅しなければならない。我慢した。

ショップへ戻って、ソムリエさんと再会。
「飲んで来ましたか?」
「飲んで来ました。3種類飲みましたが、美味しかった。本当に全て美味しかったです」
「ありがとうございます」
「これ、アルケイディア、この赤に感動しました。これが一番びっくりです、美味しかったです」
「それはうちの最高級ワインです」
「ああ」
納得。後から調べると、高畠ワイナリーのフラッグシップにもなっている。正式な名は「高畠アルケイディア セレクトハーベスト」
今売り出されているのは2018、出来の良い年だそうだ。試飲も2018だった。
フルボディで、高畠町産原料ぶどうを使用。その年の最高品質のロットをブレンドして生まれるワインだ。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の厚みのあるワインとなっている。

この赤に出会えたことは大きかった。高畠ワイナリーの素晴らしさを伝えるのに、こんなに適したワインは他に無いと思うほど、素晴らしいワインなのだ。お値段もそれなりだが、どうしてもこれが欲しい。みんなに飲んで欲しい。本当はプレゼントにもしたいのだけれど、まだ探しているものがあるので、一本だけ買う事にした。

そして例のシャルドネについてもソムリエさんと話した。私は率直に、初め口に含んだ時は、若いのかなと思ったと言った。だけど味はしっかりしていて、チーズにも負けない旨味があり、美味しかった。サーモンやサラダともよく合いそうだ。白ワインだけど、赤ワインのように寝かせると良いかもと思った。
ソムリエさんも、寝かした方が良いと思います。2020で今この熟成度なので、2021はまだ若いですから、最低でも1年は待つ方がと。なのですぐに飲むなら2020を買って行かれた方が、味は本当に、殆ど変わりませんよと仰る。

私は迷った。このシャルドネ、早く味わってみて欲しい。だが私も2021は少なくとも1年は待つ方がいいと思う。2020ならすぐに味わう事ができる・・・

「金賞」ワインの販売が始まったばかりのこのタイミングで来れた・・プレゼントするなら2021にこだわりたい気持ちが大きかった。
1年待ってもらおう。

「2021にします。これは2本買います」

そして忘れてはならないのが、シードルだ。ソムリエさんと棚へ移動。
「山形産のふじりんごを使っています」
「ふじ!一番好きなりんごです!!」

シードルはワインに比べると甘く、アルコール度数もそれほど高くない。ソムリエさんはワインの入口みたいな飲みやすいものだと説明してくれた。
「おいしいですか?」
「美味しいです」
シードルは私が一番飲みたい。プレゼントの1本にもする予定で、しかし試飲できないので数秒考えた。だが甘いのも大丈夫な人は美味しく飲めるはずだ。だって「ふじ」だもの。
「シードルは東北でずっと探していたので、私、これは3本買います」

家族へのお土産のワインも買い足し、カートで運ぶカゴはワインだらけになった。途中知らないおじさんがカゴを覗き込み、「参考に・・・」と言って来たので、試飲して選んだんですよ、この赤はオススメです!ぜひ!とすかさずアルケイディアを宣伝。

迷いながらもどうにか誕生日プレゼントとお土産を選び終えた。

現地のソムリエさんからワインに纏わる話を伺う中で、事あるごと口にされていたのが「農家さんの生活」だった。葡萄の生産者である農家さんが暮らしてゆけないと駄目なので――と。
我々はただ好きなワインを造るのではなく、葡萄を作る農家さんの暮らしが成立するように考えないといけないんですと。
理想のワイン作りと、農家さんの暮らしを両立させることに責任を持ち、しっかりと向き合われている。その意識の高さに感服した。


後日、職場でシードルを披露してみんなで味わった。
口に含んだ瞬間は、まるでりんごが転がり込むよう。まさにふじりんごを頬張るような、フレッシュな味わいが広がっていく。後からふじのぎゅっと詰まった蜜を感じた。それなのに喉越しさわやかで、後味もすっきりしている。凄い。なんて美味しいりんごの炭酸なんだ!お酒です!!みんなにも好評。良かった。
素敵なシードルに出会え、とても幸せな気分。

白は寝かせているところ、赤はまだお披露目できていない。そして、誕生日プレゼントは・・・今日渡すのだ。

人との出会いに恵まれ、初めての経験も多かった今回の山形旅。なんだか大きな成長を、この歳でもう早々感じる事もないだろう「成長」を感じた旅になった。山形のおかげだ、ありがとう山形!!山形に、乾杯!!

最後にワインの赤ちゃん(ブドウ)の写真を並べて終わりにする。
すくすく育つんだよ。

ピノ・ノワール樹齢15年







                       文と写真・いち

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