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「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー前編ー」

それじゃあ語ろう、山形の続きを。

2023年7月、山形は高瀬地区の紅花まつりを訪ねるため、私は2泊3日の山形旅へ出掛けた。愛しの紅花については既に存分に語ったので、今日は2日目の山寺の話をしよう。

芭蕉の句でも有名な「山寺」。正式名称は「宝珠山立石寺」という。私が初めて訪れたのは、昨年11月で、今回は2回目となる。一応下に前回の訪問を紹介します。


さて、山寺駅のホームへ立つと、すっかり夏色に衣替えした山寺を抱くお山が目の前へ聳え立っている。あれへ今から登るのかと思うと、前回同様不思議な心持ちがする。山の上の方、中央やや右寄りに屋根の付いた建物がちょんと見えるのだが、あれが天辺にある「奥之院」付近の見晴し台だ。奥之院で挨拶を済ませたらあの見晴し台へ寄って反対からの景色を撮影しようと企んでいる。雨が降ったり止んだりしているが、昨日ほどの土砂降りは避けられそうだ。
足がはやく行こうと張り切っている。

最初の階段を登りきって受付で入山料300円を払った先にこの看板がある。

修行だそうだ。

私は前回も一つ飛ばしなんて野暮をせず、一段一段踏みしめて階段を登ったわけだが、残念ながら煩悩と共に生きとし生ける人間なものだから、この日も頭の中は御多分に漏れず煩悩でいっぱいだった。

煩悩1・写真を好きなだけ撮りながら登って下りる。
煩悩2・下りたらあのお蕎麦屋さんの美味しかったずんだ餅をもう一度食べたい。
煩悩3・麓の和菓子屋さんへももう一度寄りたい。
煩悩4・うまくいけば高瀬駅で下車して今日も紅花畑を見にゆきたい、今日は晴れ間が出る気がする。

神様、仏様、これが人間の頭の中です。

白状するなら山寺へ来た一番の目的はお蕎麦屋さんのずんだ餅だった。出来立ての本物の味にこだわってお持ち帰りをしていない、おかみさんの作るずんだ餅をもう一度食べたいと、何なら8割方それで頭はいっぱいだった。1割は濡れた石段で滑ったり転んだりしないようにと気に掛けていた。残りの1割ははしゃぎすぎてカメラを落とさないように気に掛けていた。

昨日の雨で濡れたスニーカーと乾ききらなかった湿っぽいジーパン、そんな不憫な装備だからこそ気合を入れて、頗る元気で絶好調、石段を登って降りるのは楽勝だと、不謹慎にも・・不謹慎なのかしら、分からないけど正直に思っていた。

よし、登ろう。山頂付近の、奥之院のある場所から、或いは見晴し台から見下ろす山形の雄大な自然。その景色を眺めるためには、1000段の階段をひたすら登らなければならない。因みにこの石段の数はどこから数えるかで表記に200段前後の差があるから、とにかく1000段位登って降りると思ったらいいと思う。

それでは素敵な階段の数々を御覧下さい。あ、カメラは気まぐれに、右へ左へ、上へ下へと興味が逸れますのでご注意ください。

早速。苔の種類も豊富。




はい、ありますね、ポスト。夕べホテルで書いたんです、今回は三通ほどカタンと、落として来ました。

郵便屋さんは凄いなあ。無事届きますように――

そして道の先はもう、奥之院。

振り返っても霧がかってお山の姿が見えない。しかし風がある。雲が流れている。






見晴し台へと向かう階段。

写真後方、真横に線路が走り、その中央にあるのが山寺駅だ。


ズームなしだと遠い。しかし夏山、見惚れる。壮大で美しい、深い緑色。


登ったら、下る。よりみち、満載。

山椒の実




下山して、出口の案内に沿って歩くと、この門に辿り着く。帰宅して調べてみると抜苦門というそうだ。中央には「祈願・福徳」、左は「祈願・長命」、右は「祈願・出世」と書いてある。何を願ってどの門をくぐるか・・・いずれにしてもくぐれば参詣者の苦悩が抜けるのだとか・・・。

元気いっぱい山寺へ足を踏み入れた私。実際何も考えなくても足が動いて最後まで元気に石段を踏みしめた。ただ下山時、膝は笑っていた。

楽しかった。

麓に帰って来た私はお腹が空いた。頭の中を8割がた占めていたずんだ餅は――お店が開いているかどうか、この地へやって来るまで分からなかった。
で、開いてなかった。残念だった。

だが仕方がない。食べたかった割に切り替えは早かった。だって仕方が無いんだもの。お蕎麦屋さんはいっぱいあるから、今日はまた別のお店のお蕎麦を食べて見ろってことだろう。しかしその前に和菓子屋が目に留まる。
ああ、先に寄って行こう。

山寺のお饅頭、食べ応えのあるゆべし、小豆の味がする固いもろこし、きんつば・・・目移りしていると斜め後ろから店番のおばあちゃんが声をかけて来た。

「僕、何年生?」

おおっと!?まじですか?!めっちゃ久しぶりに言われたわその台詞。と内心で思う。
「もっと上です」
「中学生?高校生?」
ええーー!!小学生に見えてたのー?!うそでしょ、それはおばあちゃんちょっと、小学生に悪いよ。何だか物凄く種明かししにくい状況を作られてからおばあちゃんにちゃんと「40手前です」って言った。
「ええっ!若くみえるねぇ~」

去年も来た事、和菓子の美味しかったことなど話しつつ、勧められるままに試食を味わいつつ吟味して和菓子を決め、レジでおつり要らないですと言った。十円だったのだ。たった十円だった。だけど少しでも貢献したくて、思い切ってそう言ったのだ。ところがおばあちゃんは「いいのいいのっ、遠くまで帰るんだから」と、反対に私にさらに試食を食べさせようとする。その上御自由にどうぞと用意されていたお茶を手ずから淹れ始めてくれるではないか。お茶は好物な私。
「――じゃあちょっと、頂きます」
「飲んでいき、飲んでいき」
おばあちゃんは湯呑を一つ、(私のだな。)二つ・・あ、おばあちゃんも一緒にお茶する感じですか?

それで和菓子屋の片隅で、ベンチに腰掛けて、我々はお茶休憩に入った。偶々次のお客さんが入って来ないものだから、二人でゆっくり小休止だ。

どうしたんだろう、今回の旅は人との交流が多いぞ・・何が起こってるんだろう・・不思議な気持ちと、だけど全然気負う必要が無くて、現地のお話を聞くのもとっても楽しかった。

お孫さんの学校と東京の離島の学校の交流の話や、紅花の話、あそこの店のずんだ餅が食べられなくて残念だった話――世間話をしながら啜るお茶が散々汗をかき、空腹の体に染み渡る。淹れ立ての熱いお茶の美味しい事。湯呑が空になるとおばあちゃんがすかさずもう一杯飲んでいき、水分は沢山摂らないとと立ち上がってまた手ずから二杯目を下さる。それじゃあと飲む。お茶が好きなのだ。そしてこのお茶物凄く美味しいのだ。どこの茶葉ですかって喉元まで出かかった。

二杯目を飲み終える頃、お客さんが入って来た。
「ごちそうさまでした。美味しかったです。ありがとうございました」
私はしっかりと礼を述べて、おばあちゃんの和菓子屋を後にした。

次はお蕎麦だ。蕎麦が食べたい。好物なのだ。幸い喉は潤った。どこでお蕎麦を食べようか・・・で、声かけられて、メニュー見て、冷たい肉蕎麦が有名だけれど私はお腹を冷やすのはリスキーだったので、あったかいのがいいと言った。
「そしたら芋煮と冷たいお蕎麦のセットにしたらどう?これならあったかいのも食べられるよ」
「それにします!」
店内に入ってテーブルにつく。懐かしい雰囲気の漂うお店だった。

偉い。珍しくちゃんと写真撮った。芋煮と小そばセット、玉こんと冷奴、漬物つき。うまい。本当に美味しいのだ。芋煮は牛肉とふんだんに入ったキノコがいい出汁を作り、大きな里芋がごろごろしていて食べ応えがある。しかし味付けがしつこくない。そばも同様に素朴な味わいで、きゅっと冷たく、平打ち麺がつゆとよく絡む。

「ごちそうさまでした。美味しかったです」
レジで店員さんに礼を述べて、ここでもおつり要らないですと言った。たった二十円だった。それでも言わないと渡されるし、ちょっとだけど山形に貢献したかった。だけどここでも「いいえ、大丈夫ですから」って何だか慈悲深い瞳できっちりおつりを渡された。ううむ。因みに昨日の紅花の時は受け取って貰えた。紅花のために使って下さるそうで、来年に向けて、少しだけ気持ちを託せたと嬉しく思っている。

お腹が満たされた私は山寺駅へ向かい、電車が来るまで少し時間があった為、隣の広場にある大きな芋煮会の鍋を見に行った。いつか芋煮会にも参加してみたい。河川敷に混ざりたい。人が多そうなんだけれど・・秘かなる夢だ。

最後に一枚だけ。山寺駅で電車を待ちながら、あれ、さっきあそこ通って降りて来たけど、あの岩、でかすぎやしないか??!の写真。一体誰が置いてったんでしょう・・天狗?

山形の何が好きって、ありのままなところだ。自然もそう、向き合う人々もそう、何だか真面目で、けれど気さくで、全然押しつけがましくない。私はこの山形の旅で、そんな山形のぬくもりに何度もでくわし、助けられた。自分の知らない所で随分導かれたのだと思っている。

二日目の紅花の話は割愛して、その後山形城付近をぐるぐる歩き回った挙句、山形と云えばお餅なのにどうしてもお餅に出会えずに、お腹ペコペコでラーメンを食べてホテルへ帰ったのだが、このラーメンがまたとても美味しかった。

しまった。山寺の写真をふんだんに添付したら長くなった。
仕方がない。

後編へ続く!!

                          文と写真・いち

こちらが高瀬地区の紅花まつりのお話です。

後編はこちらです。




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