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「深さ、ありますね 中田島砂丘」

夏は終わらない、海が見たいと浜松を訪れました。9月の初旬です。

ここのところ冒険へ出掛けようとするとお天気の神様に嫌われてきた私ですが、今日は朝から気持ち良く快晴です。どちらからいうと暑い。要するに猛暑日です。陽気な太陽が朝っぱらから「行こうぜ海!」と張り切ってくれています。私も張り切って外へ飛び出しました。

「行くぜ海!砂丘!いざ浜松へ!!」

浜松を調べてみると、遠州灘に「中田島砂丘」とありました。浜松駅からはバスが程よく出ています。これなら日帰りできます。

「ようし、どんな規模だか見当もつかないけれど砂丘を歩くぞ。そして海だ、遠州灘を眺めよう」

冒険のきまり事は一つ。くたくたになるまで遊ぶことです。

電車内、今日は砂漠を砂丘を歩くんだから体力温存で座ろうと思い乗り込みましたが、満席。二時間以上立ちっ放しでした。体幹トレーニングもしないで出て来たので、その代わりだろうと自分を納得させます。


青空と夏山と、耳には時々サザンを流しながら御機嫌で浜松駅へと降り立ちます。なんて気持ちの良い日でしょうか。全くもって太陽は罪な奴です。

バス。久しぶりに乗りました。押したい。けれどタイミングに身構えます。結局誰かが押しました。

到着。移動だけでお腹が空いたので近くのコンビニへ寄り道しておむすび補給しました。歩くんで、空腹は敵ですから。さあ冒険のはじまりです。

砂丘・・・いきなり砂が立ちはだかります。当然ですが。
一歩踏み出すとぎゅぎゅぎゅっと足が砂に埋まります。

「深さ、ありますね」


右、ぎゅぎゅぎゅっ、左、ぎゅぎゅぎゅっ――ごく普通のスニーカーで出掛けた私です。あっという間に砂まみれになりました。海キャンプも長らく御無沙汰ですので、砂浜の歩き方も忘れかけています。歩きながら思い出します。懐かしかった。


上の写真は砂丘を上って入口方面を振り返ったところです。砂防林のむこうには浜松の町がのぞきます。風が強く、雲の移り変わりが激しい。砂塵からカメラを守る為、手に持ったままの移動は避けていたのですが、空が刻一刻と表情を変えるものですから撮りたくて堪りませんでした。

大きな上り坂を越えると海が見えてきます。遠州灘です。
青い。空も海も、青い――美しいです

ご覧下さい、海です。そこに海があります。砂丘を下ります。海を目指して――また砂まみれになります。



砂漠っぽい写真が撮りたくて、砂の上を視線がうろうろ。筋を引く雲の様子からも、吹く風の強いのが伝わるでしょうか。

いよいよ海へ近付くと、石の群れに出くわします。

傍へ寄るとカラフルなんですね。形も丸っこいの、平らなの、色々です。なんとも愛らしい。遠州灘の荒波に揉まれ、打ち上げられたんだなあと。せっかくなので積んでおきました。わたし、石ころでも遊んでいられる人です。

石の群れの向こうはもう海です。遊泳区域ではないので、波がざばざば、それはもう豪快に打ち寄せます。最初は少し恐怖すら感じました。呑まれたらひとたまりもないなと。これが自然です。

海岸線はどこまでも続いて肉眼では果てが見えません。なんと117㎞もあるんだそうです。長大ですね。

そして振り返れば砂丘です。


日陰はなく、日差しは燦燦と降り注ぎ続けます。歩けるだけ海岸沿いをずうっと歩いてみようかと目論んでいたのですが、暑い。撮影をひとしきり終えて、石の上で暫し休むことにしました。ごつごつした石の上ですが案外座り心地が良い。風があって、波の音が絶えず聞こえます。

ぼーっと海を見ていました。寄せては返す波を見つめていると、まるで生き物のように見えた瞬間がありました。この広大な海に、一体どれだけの意思と命があるんだろう・・・これは地球の呼吸なのか、それとも――

のぼせる前にリュックを背負って立ち上がりました。

もう少しだけ歩いてみようか、そう思って石の多い箇所を選んで砂浜を歩きだしますが、砂丘を越えてバス停まで辿り着き、電車に揺られ、無事家へと帰りつかなければ一人旅も一人前とは言えません。

名残り惜しい気はしますが、適当な所で引き返します。

海よさらば。

ありがとう潮風、太陽。


無事帰宅して、夜になってから腕の日焼けに気が付きました。そういえば普段から顔にしか日焼け止めを塗らない人でした。うっかりしていましたが海の日差しは街とは違う。それを存分に浴びてしまいましたから、赤みを帯びています。これは・・・シャワーを浴びる時、ヒリヒリする!!

そんな体験も何年ぶりでしょうか。いやあ、ヒリヒリというより、チリチリしました。痛いけれど懐かしい。

砂丘を歩き、海を見て、石に戯れ、風と太陽を浴びる、そんな楽しい時間をありがとう。お蔭でくたくたになりました。さてまだ見ぬ自然はそこかしこにあります。一つずつ、この目で見てみたい、触れてみたいと思います。そしてそれを私は執筆に還元するのです。

最後に、本当は表紙画像にしたかった、大変お気に入りの一枚を載せて終わります。全く知らない御二人の後ろ姿がなんとも画になり、先生の「こころ」の冒頭シーンを彷彿とさせたのです。思わずシャッターをきってしまいました。

海へと向かう二人

実は行きのバスで乗り合わせたのですが、その関係性が全く謎です。謎な所が大変面白く、小説だなと感じます。

それではまた

                       文と写真 いち

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