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短編小説

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2023年5月の記事一覧

【短編小説】思い出in the sky

【短編小説】思い出in the sky

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ズドォン、と大砲が放たれたような轟音が披露宴会場に響き渡って、一秒前までの明るい喧騒が嘘のように静まり返ってしまった。
風のない会場内で、ひとりだけ、踊るお姫様みたいにひるがえっていたウエディングドレスの下には、床に張り付いたように男性が倒れている。仰向けで。ちょうど私の位置

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【短編小説】おもんな

【短編小説】おもんな

リーンゴーン、と鐘の音が鳴り響く。

おめでとうありがとう、感謝の想いが声になって錯綜する。

チャイムが押される時みたいに、僕の心を疎外感が襲う。ああまたか、とため息が出る。

奈落はすぐそこにあって、僕は結局そこから逃げられない。

結婚式の雰囲気にのまれそうになる。

きもちわるい。

そう言えたらどれだけ楽なんだろう。

ただ羨ましいんでしょ、と言われたらそうなのかもしれない。

幸せいっ

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【短編小説】ほしかったもの

【短編小説】ほしかったもの

最近、欲しかったものを考えながら電車に乗っている。

子供の頃、床にのたうち回ってせがんだのに手に入らなかった女児アニメのおもちゃ。

給食で、休みの人がいたから余っていたゼリー。

私の方が先に好きになったはずの先輩。

ガタガタと車内で揺られながらぼうっとそんな事を考えている。

手に入らなかったものは、ずっと綺麗に私の心臓の奥でふつふつと輝いている。

でもそれは、きっと、手に入らなかったか

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【短編小説】怒りとの待ち合わせ場所

【短編小説】怒りとの待ち合わせ場所

『ヒトはなぜ自殺するのか』という本を手に取ったのは、自殺してしまった人が近くにいて、なぜそんな選択肢をとったのか分からなかったので彼の気持ちがどうにか知りたくなったという、たぶんとても一般的な理由だった。

読み終わった後に思ったのは、「これを読んで、死ぬ人の気持ちが理解できる人とできない人に二極化するだろうな」という確信だった。

一番最後に紹介されていた、サンフランシスコの橋から飛び降り自殺し

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