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ネタの引き出し方

群像2024年8月号の小川哲『小説を探しにいく』を読んだ。

将棋対局のAI形勢判断が小説にもあればいいということについて書かれている。形勢判断は、持ち駒や盤面を評価し、駒の損得を数値化して行われる。

現在の盤面から何億手も探索し、どの手を打ったら勝利へ最善なのかをAI候補手として出す。

この理論を小説にも応用する。将棋の場合は、勝利という目標に向かって最善手を示してくれるわけだが、小説には勝利という概念はない。これを、「読者が面白いと思ってくれるか?」に置き換えて考える。

つまり、これまでの文章を踏まえた上で、次にどんな文章を書けば読者は面白いと思ってくれるか?を探し続けることに置き換えられる。

本連載では、桃太郎を例に説明している。

まず、どのシーンから書き始めるのか。

定石としては、「桃から子どもが生まれるシーン」「鬼が誰かに乱暴するシーン」が挙げられる。しかし、これではベタすぎるので、「刀を作っているシーン」から書き始めるのはどうか?と提案する。

こうすることで、桃太郎が鬼退治をする話なのに、関係のない刀を鍛えるシーンから始めることで読者に疑問を持たせながら話を進める。オチとしては、冒頭で登場した刀が桃を割り、鬼を切るという構成になっている。

また、連載する雑誌を考えて、その雑誌を購読する人の情報を考えた上で最善手を考える。

この考え方がアイデアの作り方の参考になると思った。それに、私が理想とする抽象化の考え方に近い。

ある事に使われている考え方を、別の物事へ応用する。

読書感想文を書いているときも、「あれに似ているかも?」と他の事と結びつけて考えるようにしている。同じ構造だったとか、実は考えていることって同じ?とか、それを発見するのが楽しい。

いざ目の前に問題があって、あれと同じかも?とパパっと解決できるようなことはないが、その前段階として頭の中だけでも仮説を立てる癖をつけたい。

この連載の場合でも、「AI形勢判断を小説に導入したらどうなるか?」が始点になっている。

まず、AIの形勢判断の目的と、それはどのように行われているのかを知ることから始める。

目的はどうやったら勝てるのか。評価判断に使うのは、盤面の状況と持ち駒。これから導き出させる今後の展開をAIが探索し、最善手を導き出している。

では、小説の場合はどうか。目的は「読者に面白いと思わせる文章」を書けるか。形勢判断は、これまで書いていた文章(と掲載する雑誌)。持ち駒という概念は言葉に限りはないので無限と考えていい。

また、読者像をAIに組み込むことでその雑誌に特化した面白さを引き立てる可能性についても、書いている。

たとえば、将棋の世界でも、特定の棋士の棋譜を年代順に読み込ませて、今後その棋士がどういう方向性に進化していくかも研究することができそうだ。最善手ではないかもしれないが、この人はここでこういう手を打つ、みたいなその人の棋風に特化したAIの使い方もあるだろう。

将棋は全くの素人なのでトンチンカンなことを書いているかもしれない。かえって「対〇〇AI」みたいなコピーモドキを作るとドツボにはまる可能性もある。結局のところは、最善手を目指し続けることが誰に対しても勝てる可能性を広げることにつながるのかもしれない。

私にとって、noteに書くことはアイデアを言語化し、保存するための手段と言える。一度言葉にすることで、記憶されることが多い。何かをきっかけに「あー、こんなこと書いたかも?」と瞬時に思い出すことが増えた。

保存という観点では、永遠にサービスがあるわけではない。なので、どこかで手元に置きたいと思いつつも、量が膨大なだけに手をつけてられていない。

しかし、一度吐き出すことで、自分の思考回路にアイデアを抽象化し別のアイデアへ適用させるという導線を作れる。アイデアそのものは残らないかもしれないが、いつでもアイデアを産み出せる思考回路を作っておくことに損はない。

さらにアイデアを実現させられそうか、を試すために小説なんかにするのも面白いかもしれない。そのアイデアが実現しているのはどんな世界か、と一歩踏み込んで考えられれば、さらに面白いことを思いつく可能性もある。また、逆にそのアイデアが実現するために足りないことにも気づくかもしれない。

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