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異世界ホラー『夜行』by森見登美彦

思わず本屋で見つけて手に取った、久々の森見登美彦の作品。

森見先生といえば、新訳「走れメロス」とか「有頂天家族」とか「四畳半神話体系」とか、割とコメディ寄りの作品が多い。

アニメになっているものも多々あって、個々のキャラクターとかが生き生きとしている作品で、私ももうかれこれ10年くらいのファンである。

でもこの作品「夜行」は、タイトルにある様に異世界ホラー。

まだ読んでないけれど、森見先生の「きつねのはなし」と同じくコメディ作品ではなく異世界ホラージャンル。

最後まで読んでもぼんやりしていてハッキリとした謎は残る、そんな作品だった。

極力ネタバレがない様に書いていこうとは思う。

1.登場人物が多い

そう、この夜行はなんだろう…1本の小説というより短編集な感じで話が進んでいく。

おおまかな登場人物を整理していく。

・大橋君→本物語の主軸(主役?)で大学生の時に英会話スクールに通っていた

・中井さん→当時大学院生で少し年上の英会話スクールの仲間

・武田くん→当時大学生で英会話スクールで一番年下の仲間

・田辺さん→最年長の英会話スクールの仲間

・藤村さん→女性の英会話スクールの仲間

・長谷川さん→女性の英会話スクールの仲間で、10年前に失踪する

・岸田道生→画家、夜行シリーズを描く

あらすじとしては、10年前の鞍馬の火祭の夜突如いきなり長谷川さんという女性が失踪してしまう事件があった。

10年ぶりに鞍馬の火祭の夜に集まった仲間たちが、おのおの今までの10年の間で体験した不思議な世界での出来事を語り始める。

そしてその体験の全てに関係してくるのが、画家・岸田道生の夜行というシリーズ作品だった。

と、いうあらすじ。

登場人物が多いので、この人は仲間だったっけ?とあとから最初を読み返さないとなかなか覚えられなかったりする。

岸田道生以外の主要登場人物は、基本苗字で表記されていて名前はあんまりおぼえていない。

その他、各不思議な話のエピソードの中に関連する人物が何名か出て来るのだけれど、それも列挙すると結構な人数が出て来る。

という事でこの人誰だったっけ、と思い出すよりまずは一回短編集だと思って、エピソードを全部読んでから最初に戻ってこの人誰だっけって思い出したりするのがいいかもしれない。

2.よく解らないから襲う恐怖

各エピソードに、特に殺人とか血なまぐさいとかそういう類のサスペンスはあまり出てこない。

幽霊の怖さとか死の恐怖…とかそういうものからくるホラーじゃなくて、薄気味悪い恐怖という名のホラー。

全てのエピソードが不思議に包まれている、という感覚。

全体で読んでみてこの恐怖は、わけの解らないものに人間は恐怖を感じるという事だった。

自分が自分じゃないのか大切な人が本当にその人なのかとか、なんだろう…自分自身の認識がなくなる恐怖、といった方がいいのか。

最後まで自分がなぜこの物語が怖いのか、原因は解らない。

「きつねにつままれる」という言葉が一番妥当かな?って思った。

多分テーマは神隠しにまつわる謎、それに関する伏線、そして最後にたどり着く答え…そんな気がしてならない。

読んでみて怖くて怖くて仕方ないけど、この恐怖がなんなのか知りたいので一気読みしちゃうやつ。

3.各地に旅行にいってる気分になる

今までの森見先生の作品は、基本京都市内から出る事はあまりなかった。

(全部を網羅しているわけではないけれど)

森見先生自体が、奈良出身奈良在住京都大学出身ということで、京都の大学生の物語が多い印象である。

自分自身も京都には2回か3回しか言った事はないけど、四条河原町や鴨川デルタそして鞍馬とか、なんか町の様子が浮かんでくる様なそんな小説だった。

でも今回は、いろんな観光地といわれるところが出て来る。

尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡…

小説を読んでいてその町の景色が綺麗に描かれていて、その場所にちょっと主人公になって旅行にいっている気分になるのだ。

全てホラーでちょっと恐怖を感じてしまう話なのだけれど、実際にちょっとその舞台になった場所を探してみたい…そう思わせる情景描写だった。

そして何よりも思うのが、登場人物がほんとうにごく普通のごく普通に暮らしている人。

日常にありふれている些細な事件から、全て恐怖に繋がっていくからちょっとリアリティがある。

そしてすべての話が本当にあった話なのか、架空にあった話なんじゃないのかと最後まで考えさせられる作品でした。

是非読んで、きつねにつままれて欲しいな…そう思う作品です。

森見先生のシリーズ、集めたくなってくるけど収納スペースが…



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