洋画「わたしを離さないで」感想
⚠️ネタバレ含みます
あらすじざっと、主に感想と思ったことになります
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まず、「わたしを離さないで」の世界観の最大の特徴は、
「医療の発展のため、最終的には臓器の提供を目的に育てられた人間(子供たち)」の存在が正当化されていること
今の私たちの世界では倫理に反する医療行為ととられることが、さも当然のように淡々と行われています
劇中では「潮の流れ」と揶揄されていました
そして結論からすると、
私はバッドエンドのように思いました
臓器提供者は、幼少期から15歳までを「学校」で(臓器提供のために)健康的に育て上げられます
「学校」はかなり多くあるようで、主人公のキャシー、トミー、ルースの3人はヘールシャムというところで育ちました
世界のこと、自分たちの未来、何もかも知らない幼いときから、キャシーとトミーは一緒に過ごしていくうちに、お互いを思い合うように
キャシーがトミーを振り返って、トミーがにっこり優しく微笑み返すシーンなど、なんて純粋で無垢な愛なのかと、彼らの結末と対比させられて切なくなりました
しかし、2人の幼い愛が大きく育まれる前に、キャシーの親友だった(ちょっと性格のきつい印象の女の子)ルースが、なぜかずっと馬鹿にしていたトミーに手を出します
ルースとトミーは付き合いを始め、キャシーは1人取り残されたまま、ある種の「潮の流れ」のように、3人ともヘールシャムを卒業し、
16歳からの青年期はそれぞれが別の場所にうつり、他校出身の生徒も交えて、シェアハウスのような生活を送ることになっているようで、
主人公の3人は同じ「コテージ」という廃業した農場で、共同生活をはじめます
学校では外出はもちろん禁止、痣すら気にされるほどの管理を受けていたのに、コテージに移ると制限がかなり薄くなり、ずいぶんと社会的な生活に様変わりしたように思いました
臓器提供を前に、最後の「人間らしい生活」を最低限許されているようでした
男女の交際も許されているので、ルースはキャシーに抑圧目的で見せつけるようにトミーとイチャイチャしたり、直接キャシーにマウントをとることも
トミーはなぜかいつもキャシーを気にしていて、ルースもそれに気づいているから余計キャシーにきつく当たっていたのでしょう
それなのにトミーはそのままルースとコテージで結ばれてしまい、3人の「絆」はとても複雑な絡みを見せていく
かとおもいきや、
キャシーは「介護人(臓器提供者の保護者のような役割)」になるためにコテージを離れ、
その後トミーとルースも恋人関係を解消したのち、臓器提供のため3人ともあっさり離れ離れに
介護人になり、働き始めたキャシーはそれでも優しくて、臓器提供を始めたルースを思って病室を訪ね、
ルースを責めるでもなく、過去の話を持ち出すでもなく友達だから、と、無心でルースに親切にするキャシーに、なんと優しいのだろうと思ってしまいました
(ルースも臓器提供で弱っているからなのか、かなり性格が丸くなったなとは思いました)
ルースの提案で3人は再び再会を果たし、
そのとき、あのルースが謝罪するんです
「許して欲しい。2人の仲を引き裂いたことを。人生最大の罪だと思っている」と
トミーがぼんやりとではあるけれど、キャシーを思っているのが、再会して、ルースにはより明確にわかったからかもしれません
そして2人に、ヘールシャムの理事長のような存在の「マダム」と呼ばれる女性の住所を渡します
「(臓器提供者同士の)男女2人の愛情が本当なら、申請すれば臓器提供までに猶予を与えられる」
という噂があり、
それに縋るようにキャシーとトミーはマダムを訪ねていきます
自分の価値を認めてもらうため、あれだけ苦手だった芸術に幾年も捧げたトミーの努力もむなしく、それはもうあっさりと
「今も昔も、猶予なんてものは無いのよ」
と断られてしまいます
そして最終的には3人の全員が臓器提供のための死を受け入れる、という最後でした
ルースはあれだけ掻き乱した短い生涯のそれとは正反対に、それはもう静かに、
トミーは手術台からキャシーに、幼いころキャシーに向けていたあの愛しそうなまなざし、笑顔そのままに微笑んだまま眠りにつき、
いつも取り残されてしまうキャシーにも、臓器提供の通知がきて、閉鎖されたヘールシャムの跡地の草原に向けて、
どうしようもない人生にどうしようとすることもなく、ただ涙を流し、
トミーとルースの死と、自分の死を受け入れるべく嘆く様子はまさに「潮の流れ」に身を任せているように見えました
劇中ではキャシーだけは生き残りましたが、物語としてはそのまま通知に従って臓器提供する流れなのでしょう
最終的にはどうしてもバッドエンドに思いますが、それでもルースのおかげで、
キャシーとトミーが定められた短い生涯のうちの、何十年を乗り越えて結ばれたことが本当によかったな
と思いました
キャシーは、ルースとトミーの関係に対しても、ルースやトミーの臓器提供に対しても、
キャシー自身が臓器提供によって死ぬことに対しても、抗うことはありませんでした
キャシーが唯一抗ったことといえば、猶予の申請のためにトミーとマダムを訪ねて行ったことですが、断られてもなお、食い下がることなく静かに受け入れてしまいました
癇癪を爆発させたトミーをただ抱きしめるキャシーの愛情と、彼女の諦めにも近い静けさは本当に切なかったです
彼女の内に持つ静かな切ない思いが、美しい風景、シーン、劇中音楽と相まってこの映画の美しさやよさをより増幅させていて、
悔しさが途方もなく残るにも関わらず、
美しい形のまま、トミーの影、キャシーの優しさを残したまま、ほんとうに美しい静かな終劇でした
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