サムシンエルス

八ヶ岳の自然の中で、主にエッセイを書いています。日常のさりげない出来事から思いが膨らみ…

サムシンエルス

八ヶ岳の自然の中で、主にエッセイを書いています。日常のさりげない出来事から思いが膨らみ、あなたの心のどっかに私の書くものがひっかかってくれたら、嬉しい。思いが通じるその瞬間のために、恥ずかしがらずに、書き続けます。一度読んでみてください。

最近の記事

原点は存在する ー 詩人 谷川雁の思想

もし、詩人の創り出す言葉に言霊があるとすれば、間違いなくその詩人の詩は思春期の私のうちにも突き刺さった。 難解なメタファーに翻弄されながらも、私は詩という表現の中にある痛快さにしんから心打たれたのである。 それが谷川雁である。 谷川雁はその詩「東京へ行くな」でこう宣言する。 ふるさとの悪霊どもの歯ぐきから おれはみつけた 水仙いろした泥の都 波のようにやさしく奇怪な発音で 馬車を売ろう 杉を買おう 革命はこわい なきはらすきこりの娘は 岩のピアノにむかい 新しい国の

    • 戦場のヨナス

      出会い 1924年、秋、ドイツのマールブルグ大学でひとりの若者とひとりの少女が出会っている。 若者の名はハンス・ヨナス 少女の名はハンナ・アーレント。 ふたりは大学時代を誰よりも一緒に過ごした。一緒に勉強し、一緒に食事をし、一緒に将来を語った。 同じユダヤ人であることから親近感を持ち、急速に仲は深まった。 美しい少女は一方で傷付きやすい敏感な女性だった。 若者は少女を守る事に一生懸命だった。それは恋心だったかもしれない。 ある日少女が風邪をひき、大学の講座を休んだ。 若者

      • 今こそアヒンサーという旗をかかげろとは、幻想なのか?

        今頃になって、死んだじいちゃんの事を思い出している。 じいちゃんと言っても、自分自身もじいちゃんになりかけているのだから、もうずいぶん、昔の事だ。 父方のじいちゃんは、私が中学生の時に死んだし、一緒に暮らしていたわけでもないから、特に際立つ思い出があるわけではない。 ただ、このじいちゃん、会うたびに、誰かに似ている、と子供心にいつも思っていた。   じいちゃんは根っからの百姓で、決して豊かな暮らしはしていなかったけれど、それでも父を含む七人の子を育てた。 父は高等小学校を

        • 漂泊のアーレント

          老人のエロティシズムとは、深くて、ひねくれていて、泥い。 そう書いたのは、かくいう私自身である。 ここでの投稿、「老人のエロティシズム」の最後に、そう記した。 人気のない私の投稿だから、そりゃあ、大した話題にもならず、それに内容もよく見れば、ただのエロおやじの戯言なので知られていないのは仕方がないが、私はそこで谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」を取り上げた。 自分は変態ではないか、とその時危惧した思いが、谷崎の存在で救われたことも、そこに記した。 エロティシズムと言えば大袈裟

        原点は存在する ー 詩人 谷川雁の思想

          家畜人ヤプー 再び

          著名な宇宙物理学者、ホーキング博士はかつてこう言っていたような、記憶がある。 AIが人間の領域を侵すようになってきたら、人間は宇宙の他の星を探して地球から逃げなさい。 その一方で、地球のように人類が住める星が宇宙にはどのくらいあるのか、と問われて、博士は、2500と平然と答えている。 だが恐らく我々が宇宙人に遭遇することも、そんな星を見つけ出すことも、本当はその確率は限りなく低いことを、博士のみならず、我々だって知っている。 我々は結局、地球以外では生きていけないのだ

          家畜人ヤプー 再び

          老婆の休日

          給料がなくなるという。 少なからずショックだ! 私のパート先での事である。 だが決して倒産するわけではない。 業績はすこぶる好調のようだ。 詳しく言うと、なくなるのは給与明細書である。 これまで毎月給料日の少し前になると、袋に入った明細書が配られていた。 それがなくなり、明細を知りたければ、手持ちのパソコンかスマホで 自主的にIDと暗証番号を打ち込んで調べろというのである。 大げさに言えば、汗水垂らして毎日やっている己の労働の実体がまた遠くに追いやられた感じなのである

          ふたりの将棋指しは「命」(めい)に殉じたのか?

          「いのち」と呼ばず、「めい」と呼ぶ。 東洋の思想に「天命」「知命」「立命」というものがある。 人は誰しも生まれながらにして天から与えられた素質能力「天命」がある。それを知るのが「知命」 知ってそれを完全に発揮していき、その人生の中で自分を尽くすのが「立命」である。 そうすることが己の存在意義にもかなうものでもある。 しかし、これがなかなか難しい。 「命」を知ることなく漫然として終える人生が多い。 私も同じだ。まだ、「命」を知らず、迷ってばかりの人生だ。 ふたりの将棋指

          ふたりの将棋指しは「命」(めい)に殉じたのか?

          四月になれば彼女は

          不意にギタリストの指が止まった。 それまで気軽にリクエストに応えて、映画音楽から懐かしい青春歌謡まで器用にこなしていたのに、あるリクエストを聞いて、指が止まった。 「明日に架ける橋、ねぇ、どうだったかなぁ、楽譜はあったかなぁ」 それまで楽譜などなくても暗譜で数々の曲を弾いてきたのに、急に歯切れが悪くなった。 10人入ればいっぱいになる、ジャズ喫茶である。 そこに13人が入ってクラッシックギターでのライブコンサートが始まった。 私以外は皆、顔なじみらしく、そこのお店の

          四月になれば彼女は

          もうひとつの「菜の花忌」

          「桜桃忌」といえば、太宰治。 「河童忌」といえば、芥川龍之介。 というように、作家の命日を悼む日がある。 それでは、「菜の花忌」といえば、誰かご存知だろうか? ネットで調べれば一番に司馬遼太郎の事が出てくる。 言わずもがな、国民的作家である。 菜の花が好きだったという故人にちなんで設けられたらしい。 実は、それ以前にも、ある詩人を偲んで「菜の花忌」が設けられている。 それが長崎県諫早市出身の詩人、伊東静雄である。 伊東静雄については、私も、ここでの投稿、「ふたりの詩

          もうひとつの「菜の花忌」

          若いピアニストは演奏を終えた

          彼はそのまま鍵盤の上にうずくまるような姿勢でなかなか動かない。 聴衆も拍手のタイミングを失っている。 コンサートと言っても小さなカフェでの小さな手作りのコンサートである。 ようやく立ち上がった彼は聴衆を前にして、いつものようにもじもじと手を動かし、視線も覚束ない。 聴衆は固唾をのんで彼の言葉を待った。 彼は意を決したように、話し出した。 「今日の演奏をもって、私はこのような演奏会を辞めたいと思います」 たどたどしく絞り出した彼の言葉に、聴衆はざわめいた。 その日の

          若いピアニストは演奏を終えた

          ハビタブルゾーンという奇跡

          「いよいよ世界の終わりだよ」と、友人の Iさんが言う。 いつものことだ、と聞き流したいところだけど、そうも行かない事情もある。 この間の大阪湾に迷い込んだクジラもそうだし、今、世界中の至る所で動物たちの異常行動が見られる。北極海のイルカたちは同じ地点をぐるぐる回ってるらしい。 それに動物だけでなく、イヌイットの連中も、太陽の位置が明らかに変わってると証言している。 「いよいよポールシフトが始まるよ」と、Iさんは溜息をついた。 オカルト好きなIさんの言葉を そのまま真に受

          ハビタブルゾーンという奇跡

          虫の生命(いのち)

          男の中の男になりたいと思っている。 この歳になってまだそんなことを、と自分でも呆れてしまう。 そのくせ具体的なイメージははっきりとしていない。 ただ古人でそんな男になりたいとぼんやり思っている人はいる。 それが、頭山 満、である。 日本にとって、とても重要だった明治から昭和初期に命をかけ、西洋の列強諸国の侵略から国を守るため、シナやインドや朝鮮、果ては中東、アフリカの独立運動に尽力した、愛国者である。 頭山満の評価はさておき、私は彼の普段のエピソードが好きである。

          虫の生命(いのち)

          水に流して

          いえ、後悔してない 私は何ひとつ後悔してない 私に起きた好いことも悪いことも 私には同じこと いえ、後悔してない 私は何ひとつ後悔してない 代償を払って過去は精算した もう忘れ去ったわ 私には過去なんてどうでもいいこと いろいろな思い出 火をつけて燃やした 悲しみも喜びも 今はもう必要ない 過去の恋は精算した 震える想いと共に 永遠に追い払った またゼロからやり直すわ いえ後悔してない 私は何ひとつ後悔してない 私に起きた良いことも悪いことも 私には同じこと いえ、後

          春を待つ人

          「ふきのとうが出ていたよ」 「ふきのとうが出ているねぇ」 「え!もう?」 「そうそう、今年は早いらしいよ」 「寒い寒いと言ってても、春は何処かで芽生えてるんですねぇ」 クランボンが笑ったよ、という出だしの宮沢賢治の童話「やまなし」は好きだけど、その一節ではない。 オジイとオバァ3人のダベリである。 「今年はふきみそでも作ろうかな」 「いいね」 「ふきみそをピザに入れると美味しいんですよ」 「苦そうやん」 「それがいいんじゃない、大人の味・・・」 「そうか、アンチョビだっ

          路上に落ちているもの

          路上にはなんてたくさんの物が転がっているんだ! 何気なく受けた会社の健康診断の心電図検査で不整脈が出て、経過観察になった。近頃体調が悪いのは加齢のせいだと思っていたが、ちゃんとした理由があったのだ。 こんな時素直に現実を受け入れ、じゃあ、どうしようかと転換できるのが、数少ない私の長所の一つで、安静を言い渡されていたが、そこは天邪鬼な性格、少し軽めの運動でもして、その反応を自分で記録しようと考えたのだった。 スイスイすいと近くのスパ付きの施設で、水泳でもはじめようと思っ

          路上に落ちているもの

          縁起があるから面白い?

          言わずとしれた、私はミーハーである。 別に若い連中に相手にされたいと、おもねいているのではない。 お笑いが好きで、バラエティが好きで、テレビドラマが好きだから、GYAOを愛用している。 もはや真心などというものは、現実の世界にはないのだと思い違いをしていて、それを味わいたいために、ドラマをよく見る。 一方で、年寄りのくせに軽薄な奴だと思われたくない自意識もあって、ドラマ好きは公表していない。もっとも特に無名の私のことなど誰も興味のないことだろうけど。 実は最近巷で話題

          縁起があるから面白い?