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スタートアップが“PMF”を達成したあとにやることは「売れる仕組み」の確立

こんにちは。株式会社マイノリティの代表の柳澤です。

このnoteでは、多くのプロダクトのPMF前後のフェーズを間近で見てきた経験から「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」について解説してきました。

今回で10回目、ついに最終回です。最後は「PMFを達成した後に考えるべきこと」です。

PMFを達成したら、Go to Market

PMF達成した後は即座に「Go to Market」(GTM)の段階に入ります。ここでは自社の商品をどのような流れで顧客へ届けるかを策定し、戦略としてまとめることを求められます。

すでにシリーズAの資金調達で10億くらい調達して、社員も増やして一気に事業を大きくしていくタイミングです。この時点である程度、成長の道筋が見えてきているはずです。

投資家からは売上目標や事業計画を出してくれって言われることが多くなるでしょう。PMF前だと売上予測が難しく、詳細な計画は立てられないですが、PMFを達成して大きな資金調達をすると、GTMの戦略を立て、ちゃんと計画的に売上目標を立てないといけなくなります。

PMF前後でよく出てくる言葉に「ソリューションフィット」というものがあります。PMF前は、プレスリリースを見たアーリーアダプター、つまりトレンドに敏感な上位5%くらいの人からの問い合わせが中心だと思います。

この人たちは新しいもの好きで、自分たちでプロダクトをどう使いこなせばいいか想像できる人たちです。

でも、PMF達成後は、マーケティング予算を投下して、露出を増やし、もっと一般的な層にアプローチしていく必要があります。顕在的なニーズがない人たちに対して、ニーズを掘り起こして提案しないといけません。

そこで重要なのが“ソリューションフィット”です。これは製品やサービスを使うことで働き方が大きく変わったり、生産性がグンと上がったり、コストが削減できたりといった明確なメリットが発生することです。

例えば、月額10万円のSaaS製品を使って、10万円以上のコスト削減や売上増などのリターンが得られるような提案が求められます。

機能面で優れているといったアピールにとどまらず、経営課題の解決や、お客さんの業務にとって絶対必要なものとして受け入れられることが大切です。それがソリューションフィットの本質です。

PMF達成後に取るべき戦略は4つ

PMF達成後に取るべき戦略は、主に4つあります。まずは(1)既存のセグメントでシェアを30%超えるように、とにかく営業を推進すること。これが基本ですね。

次に、(2)既存のお客さんに新商品で追加受注もらうこと。これも王道です。それから(3)既存のセグメントを横展開していくこと。同じ商品を別の業界に提案していきます。

私がキーエンスの新規事業に携わっていたときも同じことをやりました。製造業向けのプラットフォームをつくり、ある程度のシェアが取れたら、今度は建設業界向けのプラットフォーム立ち上げて横展開していきました。まったく同じサービスですが、業界を変えてさらにシェアを取りました。

最後に、(4)クロスセルというものがあります。これはアップセルとは違います。アップセルは既存サービスの上位版のようなイメージですが、クロスセルは違う商品を売るという意味です。

例えば、人事担当者に採用管理システムだけではなく、採用広告も販売するといったイメージです。

マクドナルドを例にあげるとわかりやすいです。ダブルチーズバーガーのセット買った人に、「いまならナゲットもお得ですよ」ってちょっと違う商品を自然に勧めてきますよね。ファストフード店はクロスセルを当たり前にやっています。

マーケティング戦略を立案する

PMF達成後は、とにかく受注効率を上げるのが重要です。

最初は資料のダウンロードや展示会で立ち寄ってもらうところから始めますが、そこからセミナーを開催したり、ノウハウを公開したり、顧客事例を作ったり、ちゃんと商談に進むプロセスを設計しておくことが大切です。

ここまで来て、初めてちゃんとした営業活動・マーケティング活動の形になってきます。PMFを達成しているので、組織的に一気にやっていきます。

以前、BtoBマーケティング戦略の立て方と、売れる仕組みの作り方という記事を書きましたが、まさにこの段階で考えるべきことです。

よかったら上の記事から続く、一連のBtoBマーケティングの戦略立案に関する記事も読んでみてください。

PMF後も、スピードが命

PMFを達成した後は、THE MODELにならって営業を分業化したり、調達した資本を投下したりすれば、大きく間違わない限り、勝ち筋通りにいけるはずです。

でも、ここで気をつけてほしいのは、PMFしたからといって決して油断してはいけないということです。市場環境は常に変化しているので、一度PMFしても常にアンテナを張って、顧客ニーズの変化や競合の動きはウォッチしておく必要があります。

以前書いた英会話サービスのレアジョブの例みたいに、PMF後に大手企業にめくられることもあり得ます。それが起きる前提で進めることが大事です。

では、これを防ぐためにどうするか。企画段階からある程度、業界特化型のサービスとして開発すると参入障壁を高くできます。

例えば建設業というざっくりとした分類よりも、建設業の中のゼネコン向けとか、建設業の中の土木工事向けとか、海洋ゼネコン向けとか、プラント設備工事向けあたりまで細かく見ていく。

最初にPMFするのは特定の領域だけでいいんです。当初のマーケットはできるだけ業界の小分類まで絞り込んだ領域を狙い、PMFを達成したら横展開していくといいでしょう。

小さな市場でPMFを達成して、そこでしっかり顧客理解を深めてから、徐々に隣接市場に展開していくという戦略です。

特定業界の知見が深く機能も特化していると、大手の競合企業が後から参入しにくくなります。後発にめくられるリスクを低くできるんです。

逆に言うと、いわゆる「ホリゾンタルSaaS」と呼ばれる、法人だったらどんな会社でも使うサービスの場合、大手の競合が資本力を武器にガッと参入してきて、模倣されやすいんですね。

先ほど例にあげた英会話サービスも、個人だったら誰でも利用するサービスなので、このタイプに入ります。

僕が昔いたキーエンスの新規事業でも、製造業の中の研究・開発者向けの資材調達サイトを運営していました。これは比較的ニッチな分野なので、いきなり大手企業が参入してくることはないですよね。

ニッチになればなるほど顧客理解が難しかったり、市場規模が大きくなかったりもするので、市場選定とPMFはもちろん難しいですが、一度PMFしてしまえば、あとは競合が参入しづらいのがメリットです。

PMF後はとにかくスピード勝負です。PMFも大変なゴールですが、PMFした瞬間にまったく新しいゲームがスタートします。

ある会社がPMFしたと見るや、多くの競合が参入してこようとします。1年でそれらの会社から逃げ切らなければいけません。その1年が勝負どころで、どれだけ差をつけられるかが重要です。

PMFを達成するのも難しいし、PMFした後も一山あるわけです。調達した資金を使って、競合の追随を許さないぐらい一気に引き離すための戦略も考えなければいけません。だからPMFの前後で戦略も人員配置も大きく変わってきます。

PMFの前後でアプローチは完全に変わりますが、それでも共通しているのは、常に顧客の声を聞き、市場の変化に敏感であることです。

そして、PMF後は思い切った投資と迅速な行動が求められる。このバランスを取るのが本当に難しいんですが、そこをうまくやれるかどうかがスタートアップの成功を左右します。


これまで10回にわたって、「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」を書いてきました。

マガジンにまとめてありますのでよかったらご覧ください。

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