北村巌

社会主義を目指すものの観点から主に現代資本主義経済の分析を載せていきます。社会主義論に…

北村巌

社会主義を目指すものの観点から主に現代資本主義経済の分析を載せていきます。社会主義論についても考察をしていきたい。社会主義協会の月刊誌「社会主義」、労働大学出版センター「まなぶ」、「唯物史観」などに1980年代から掲載した論考も収録。

最近の記事

世界経済(2024年7月)

月刊「社会主義」2024年7月号所収 減速しつつある米国景気 米国の景気拡大ペースは概ね減速傾向にあるが、直ちに不況入りする兆候は今のところ出てきていない。米国の実質G D P成長率は、コロナ禍によって2020年に▲2.2%と大きなマイナス成長となったのち、2021年は5.8%と急回復し、2022年は急回復の反動もあって1.9%に減速したものの、2023年は再びやや加速して2.5%と推移してきた。米国の実質G D Pの潜在的成長率は、人口や資本ストック、技術革新の速度などか

    • 月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第19回 日本企業の海外進出

      日本企業の外国進出動向 経済産業省『海外事業活動基本調査』(2022年度実績)によって日本企業の海外進出の状況をみると、海外に進出した日本企業は、本社が6903社、現地企業で24415社が操業中で、現地の常時従業者は557万人です。これらの現地法人があげている純利益は過去最大の16兆500億円まで膨らんでいます。  大企業を中心に、日本資本は、日本全体の労働者の1割程度にあたる数の外国人を現地で雇用し搾取して利益を上げているということになります。  東南アジアへの企業進出は、

      • 月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第18回 円安の原因と影響

        月刊「まなぶ」2024年6月号所収 円の実質実効レートが歴史的安値圏 外国為替市場で円安がつづいています。財務省による円買い・ドル売り介入も行われたようで、急激な円安はいったんは収まったように見えますが、円の水準が非常に低水準になっていることには変わりありません。  それぞれの国の通貨の為替市場における相場の評価を測る手段に、実効為替レートという指標があります。  これには名目ベースの指数と物価調整をした実質ベースの2種類があり、後者は前者を物価指数の比で調整することによっ

        • 日本の株価上昇の意味するもの

          「社会主義」2024年5月号所収 日経平均がバブル期の史上最高値を更新 3月3日に東京株式市場の代表的な株価指数である日経平均225種が1989年12月28日の史上最高値3万8957円44銭を超え、4万0109円23銭となった。上場企業の1株あたり利益も、一株あたり株主資産も当時より遥かに大きくなっているので、バブルの程度は当時よりは軽いと言えるが、バブル的な株高であることには違いない。  日本の株式市場は、2013年以来概ね上昇を続けてきた。国内的な要因としては、超金融緩

        世界経済(2024年7月)

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第17回 貿易と国際分業

          月刊「まなぶ」2024年5月号所収 外国貿易の動向と役割 私たちが手にする消費財の多くが輸入品になってきました。国内で最終製品になったものでも、輸入された原材料や部品がごく普通に含まれています。一方で、日本も外国への莫大な輸出を行っています。貿易統計(財務省)によると、2023年の輸出額は100兆8738億円、輸入額が110兆1956億円となり、9兆3218億円の輸入超過、つまり貿易赤字となっています(図)。日本の2023年の名目GDPは591兆円で、輸出はその17%、輸入

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第17回 貿易と国際分業

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第16回 企業の設備投資

          月刊「まなぶ」2024年4月号所収 景気を左右する設備投資動向 設備投資というのは、一般的には企業による建物や設備、つまり、生産手段の購入を指します。企業にとって事業活動を行うのに欠かせないものであり、企業のバランスシートの資産(※1)の大きな部分を占めるものになります。設備投資を行うかどうか、どのような設備投資を行うべきかを決定することは、企業の重大な意思決定になり、収益性を決める元になるとも言えるでしょう。  資本主義経済において景気循環を引き起こす大きな要因は、設備

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第16回 企業の設備投資

          TSMC誘致に盛りあがる熊本 日本は、なにに「投資」しようとしているのか

          月刊「まなぶ」2024年4月号所収 台湾の半導体受託製造業TSMC誘致で盛りあがる熊本。地域経済への期待も高まっています。 TSMCによる熊本の2工場新設は総投資額が3兆円規模になるとされています。金額の面からは大規模な工場建設ですし、生産能力の点からも新鋭工場と言えるでしょう。今回の半導体工場新設による雇用は、2つの工場を合わせて、おおよそ3400人と発表されています。新規に生まれる雇用なので、地元の雇用状況にはプラスに働くでしょう。2024年1月時点での熊本県の有効求人

          TSMC誘致に盛りあがる熊本 日本は、なにに「投資」しようとしているのか

          アメリカ民主社会主義者の動向

          月刊「社会主義」2024年3月号所収 4年ぶりの対面集会となったシカゴ大会 2023年8月4日〜6日にアメリカ民主社会主義者(以下、DSA)の2年毎の大会がシカゴで開催された。2021年はオンラインでの開催だったので2019年以来、4年ぶりにシカゴで約1000人の代議員を集めた開催となった。 DSAは政党ではなく社会主義を標榜する活動家の集団との位置付けであり、地域ごとに非営利団体の体裁をとり、その全国団体を作っている。2016年の大統領選挙において左派系のバーニー・サンダ

          アメリカ民主社会主義者の動向

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第15回 個人消費と貯蓄

          月刊「まなぶ」2024年3月所収 GDPの6割程度を占める個人消費 個人消費というのは、権利義務の主体となる能力を持つ自然人としての個人という主体が行う消費活動を指します。貨幣経済の中での事柄ですから、主に個人が生産物やサービスを購入して利用することを指します。  内閣府の国民経済計算では「家計最終消費支出」という表現で個人消費を扱っています。会費や寄付などで活動が賄われる「対家計民間非営利団体」の消費支出も合計した「民間最終消費支出」をおおよそ個人消費とみなす場合もありま

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第15回 個人消費と貯蓄

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第14回 日本における個人所得の分布

          月刊「まなぶ」2024年2月号所収 拡大する格差1980年代以来、世界的にも所得や資産の格差の拡大が続いています。資本主義であれば、必然的な現象とも言えますが、1970年代以前には所得や相続への累進税制や比較的高い法人税によって、格差拡大に歯止めがされている時期がありました。 しかし、70年代末ごろからの新自由主義的な経済政策を主張する政治勢力の台頭で、英国のサッチャー政権、米国のレーガン政権、日本の中曽根政権、西ドイツのコール政権などにより、累進課税のフラット化や法人税減

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第14回 日本における個人所得の分布

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第13回 日本の企業部門

          月刊「まなぶ」2024年1月号所収 二重構造 日本の企業部門の最大の特徴は二重構造でしょう。大企業が多くの中小の下請け企業を利用して、コスト削減を図り利益を増加させるという行動を取ってきました。 下請け企業も営利企業ですから、製品やサービスを独占企業に安く買い叩かれると、コスト削減のために労働者を低賃金で長時間労働させる、さらに孫請けを搾り取るといった行動を取ります。  このため、大企業や公共部門と民間中小企業の労働条件には大きな格差が生まれており、労働者が分断されやすい状

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第13回 日本の企業部門

          過剰資本の受け皿として財政赤字が拡大 - インフレ収束に向かう世界経済(2024年)

          月刊「社会主義」(社会主義協会)2024年1月号所収  ロシアによるウクライナ侵攻のショックによって2022年春に大きな原油価格上昇が起きた。欧州への主な原油、天然ガス供給者であるロシアへの経済制裁が世界のエネルギー需給を逼迫させるとの懸念が広がったためであった。これに端を発したインフレ加速は、1年半を経過して世界的にはほぼ収束してきた。ウクライナでの戦闘状況はこう着状態で、問題は解決されていないが、ウクライナ側に立つ諸国によるロシアへの経済制裁は、金融面を除けばあまり大き

          過剰資本の受け皿として財政赤字が拡大 - インフレ収束に向かう世界経済(2024年)

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第12回 日本の産業構造

          産業間の取引を捉える サプライチェーンという言葉があります。原材料、部品から製品が完成するまでの流れを示す言葉です。最終財の完成に至る生産の各段階は鎖のようにつながっていると見ることができます。  しかし、経済全体で見ると、単純な直線的な関係だけでなく、各産業がお互いに供給し合って分業をしていることがわかります。例えば、製鉄会社は鉄鋼を生産し、それを建設材料や機械 に加工する会社があります。作られた機械の一部は製鉄会社自体の設備としても使われるでしょう。多くの産業がお互いに依

          月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第12回 日本の産業構造

          (ノート)人手不足問題から考える人間社会の再生産

          「人手不足」の背景 現状の比較的良好な景気動向を反映して、さまざまな業種で「人手不足」との声が聞こえるようになってきました。不況で街に失業者が溢れているより、人手不足の方が良いのでしょうが、多くの産業での人手不足は経済の足枷になることも事実です。景気が回復しても若年人口が減っているため、景気拡大の天井が低くなってしまっています。もちろん、不況になれば、失業も増え、経済全体としては人手不足ではなくなるということも忘れてはいけません。  現在の労働市場の統計を見ると、9月の完全失

          (ノート)人手不足問題から考える人間社会の再生産

          (メモ)資本主義と拡大再生産

          そもそも人類にとって「拡大再生産」は今後も必要なことなのでしょうか? 先進資本主義国では、資本主義のもとで工業の発展が「生活水準」を向上させることに役立ったのは事実でしょう。十分な食料の確保、適切な衣類、快適な住居、便利な交通手段など物質的な生産力の発達なしには得ることはできません。しかし、人間は物質的な消費を無限に行えるわけでも行う欲望を持っているわけでもありません。食べることができる食料の量には限界があるし、衣服を着る体も一つ、住居は広いに越したことはありませんが、限界は

          (メモ)資本主義と拡大再生産

          資本の論理を徹底させてきた岸田経済政策

          月刊「社会主義」(社会主義協会)2023年11月号 巻頭言 岸田流「新しい資本主義」の改訂岸田政権は、2021年10月に「新しい資本主義」という一見綺麗な言葉を掲げて登場し、安倍政権からの政策転換となるのではないかとの期待を一時的には国民に抱かせた 。しかし、選挙目当ての綺麗事でしかなく、2年経った今、大した成果も示せないまま多くの国民の失望感を誘い、政権への支持率を大きく落としている。マイナンバーカード普及のために健康保険証を廃止しようとしたり、消費税のインボイス制度導入

          資本の論理を徹底させてきた岸田経済政策