月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第15回 個人消費と貯蓄

月刊「まなぶ」2024年3月所収

GDPの6割程度を占める個人消費

 個人消費というのは、権利義務の主体となる能力を持つ自然人としての個人という主体が行う消費活動を指します。貨幣経済の中での事柄ですから、主に個人が生産物やサービスを購入して利用することを指します。
 内閣府の国民経済計算では「家計最終消費支出」という表現で個人消費を扱っています。会費や寄付などで活動が賄われる「対家計民間非営利団体」の消費支出も合計した「民間最終消費支出」をおおよそ個人消費とみなす場合もあります。政府や企業の消費や投資も含めた国内総支出に占める家計最終消費支出の割合は、おおよそ6割になります。
 家計の支出動向は、5年ごとに行われる全国家計構造調査(旧全国消費実態調査、総務省)が基礎統計として利用されています。これは、世帯を対象として、家計の収入・支出及び貯蓄・負債、耐久消費財、住宅・宅地などの家計資産を総合的に調査しています。最近では2019年に調査が行われました。
 私たちひとり一人がものを消費(購入)するには元手(個人所得)が必要です。一国の経済全体の個人消費の動向は個人所得、とくに税金や社会保険料などの負担を差し引いた可処分所得の動向と深く関係しています。しかし、可処分所得がすべて消費に回るという単純な関係にはなっていません。たとえば、経済成長の高い国では、家計の貯蓄が企業の投資を支える構図になっていることが多いといえます。企業は内部留保による再投資だけでなく、銀行からの借入れや証券発行による資金調達で企業投資を増やします。高い成長率に見合った比較的高い金利や配当を見込んで、個人が預金したり証券購入をしたりして資金が供給されるのです。
 日本では、1980年代まではかなり家計貯蓄率が高く、その個人貯蓄が企業投資や住宅投資、公共投資の資金を支えていたという状況がありました。
しかし、資金の国際的移動が自由になると、個人貯蓄がつねに国内投資の資金提供役になるとは限りません。世界経済全体では貯蓄=投資になりますが、それぞれの国では、経済状態や発展段階の違いによって貯蓄と投資の不均衡が起きます。資金移動が自由であれば、投資が旺盛なのに貯蓄が足りなければ海外からの投資や借り入れで資金不足をまかなえますし、貯蓄が過剰なら外国に資金提供することになります。 

個人のライフプランと消費

 ライフプランという観点からの個人消費を考えてみましょう。消費は大抵の場合、所得水準に対応して行われていますが、多くの人にとって、消費や貯蓄は1年限りで完結するわけではなく、不確実性はあるものの、ある程度は先を見通し、計画されるというものでしょう。消費をコントロールするというより、可処分所得と消費との差である貯蓄をコントロールすることで、消費の予算を制約し、買うものを選択しているケースの方が多いかもしれません。ほとんどの人は、子どもの教育費などで将来消費が増加する可能性や失業で所得が得られなくなるリスクに対して貯蓄をする、あるいは保険をかけるということを行っています。日本など多くの現代の資本主義国では、公的年金や雇用保険、医療・介護保険などの制度があります。しかし、そうした公的制度だけに頼るのではなく、不足分を補うために自力での貯蓄を求める傾向も根強くあります。
 老後の備えとして住宅を取得することも、それ自体は「投資」ですが、勤労者の多くは住宅ローンを借り入れて返済していくので、ローン返済は貯蓄ということになります。住宅取得は、個人のライフプランの中で大変大きな位置を占めているでしょう。

「個人企業」が行う投資

 国民経済計算では、持ち家住宅の取得は、家計ではなく、「個人企業」が行う投資と考えます。仮想の個人企業を考え、住宅を取得して「家計」に賃貸するという仮想の取引を想定するのです。じっさいには家計も個人企業も同一の世帯を指しているのですが、賃貸料相当分を家計による個人消費(これを帰属家賃と呼びます)と考え、住宅投資活動と離して考えるのです。
 帰属家賃の額はかなり大きく、2022年度では48兆4333億円と家計最終消費支出の15.7%を占めています。
 

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