アメリカ民主社会主義者の動向

月刊「社会主義」2024年3月号所収

4年ぶりの対面集会となったシカゴ大会

 2023年8月4日〜6日にアメリカ民主社会主義者(以下、DSA)の2年毎の大会がシカゴで開催された。2021年はオンラインでの開催だったので2019年以来、4年ぶりにシカゴで約1000人の代議員を集めた開催となった。
DSAは政党ではなく社会主義を標榜する活動家の集団との位置付けであり、地域ごとに非営利団体の体裁をとり、その全国団体を作っている。2016年の大統領選挙において左派系のバーニー・サンダースを支持する学生を中心とする選挙運動が盛り上がった。D S Aは、その運動の受け皿となって大きくメンバーを増やし、一時は10万人近くに組織を拡大した。その後は運動のモメンタムが下がり、コロナ禍以降の3年間ではメンバー数が減少し、現在は72,000人となっている。こうした情勢の中でどのように組織の立て直しを図るのかが問われた大会であった。
大会ではD S Aの中心となる全国政治委員会(NPC)が選出されるが、今回は16人(+YDSA2人)の枠に対して41人の立候補があり、左派とされる分派から立候補した人々が若干の多数を占めることとなった。分派に属さない委員が1人、右派とされるグラウンドワーク6人、社会主義多数派2人、左派とされるパンと薔薇派3人、レッドスター3人、マルクス主義団結グループ2人、反シオニストグループ1人という結果となった。DSAの路線問題として大きい課題は民主党との関係をどのようにしていくかであり、民主党との関係を重視する右派とDSAそのものの独立性を重視する左派の力関係で、今回は左派がわずかに優位に立ったようである。
大会で通過した決議のいくつかをみていこう。まず青年部的な存在であるYDSA(Young DSA)に対する予算20万ドルが、承認された。前回は同様の提案が反対多数で否決されていたので注目される変化である。YDSAの主力は学生や大学院生であるが、昨年以来、大学のために働いている学生や大学院生の労働組合への組織化とストライキによる闘いが広がっており、この中でYDSAは150%の組織拡大を果たしたという。2016年に学生だった世代から次に受け継いでいく動きになっている。これが多くの代議員にYDSA育成に関心を持たせた背景だろう。
また、財政問題に関連してメンバーに収入の1%を会費として収めるよう勧奨する決議が採択された。現在のDSA 会費は月15ドルを標準として、低所得者は低い額でもOKとし、また収入の1%を自己申告して納めるという方法も従来から用意されている。今回の決議は、その最後の選択肢=収入の1%納入を多くのメンバーに選択するよう勧めるというものである。これは、今回から全国政治委員会及び全国労働委員会の共同議長をフルタイムの専従として組織運動を強化するという決議とも結びついている。従来から個別課題への寄付の呼びかけも頻繁にあるが、DSAにとって財政的な強化は組織維持・拡大のために相当必要になっているようだ。実際に、現状では全国組織の財政は年間数百万ドルの赤字となると見積もられている。
また、労働運動関係の決議において、Labor Notesという労働運動再生を目指すメディアとの協力関係を削除し、組合指導部との関係優先を否定するという部分の削除を求めた右派グラウンドワークスからの修正案を否決し、従来の一般組合員重視の戦略を変えないという路線を明確にした。
選挙運動に関しては、DSAが独自のインフラを築くべきとする決議案が3/4の支持を得た一方、候補者の推薦について政党的な選択を行うべきとする修正案は5割にわずかに届かなった。組織問題では、全国政治委員会の人数を現在の16人から51人に拡大するという提案は、62%の支持を得たが、規約改正に必要な2/3 には届かず実施されなかった。
大会では、本会議のほかに教員の代議員の交流会も行われたということで、産業ごとの横のつながりを志向する動きもあるようだ。
 

国会議員団と内部論争

 D S Aに所属する下院議員は4名で、全員、民主党会派に属している。アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(35歳、ニューヨーク州)、コリ・ブッシュ(47歳、ミズーリ州)、グレッグ・カサール(35歳、テキサス州)、ラシダ・トライブ(47歳、ミシガン州)の4名である。ただし、2022年の選挙でグレッグ・カサールはD S Aの会員ではあるが公式の推薦は受けておらず、Working Families Party (WFP)の推薦を受け、民主党の候補として当選した。
このほかに、ジャマル・ボウマン(47歳、ニューヨーク州)が元D S A会員の下院議員であるが、2022年にD S Aを離れている。ボウマン議員のD S A離脱は、彼が2021年9月にイスラエルへのミサイル・システムを供与する10億ドルの予算に賛成したことに対して、D S A内から批判が高まったことが原因である。D S Aはイスラエルのシオニズムによるパレスティナ侵略には強く反対してきており、中でもパレスティナ系であるラシダ・トライブ下院議員は活発にイスラエルによるパレスティナ占領に反対する活動を行なってきた。両者には対応にかなりの差が生まれた。
ウクライナへのロシア軍の侵攻は、D S A内で対応について大きな内部論争を起こした。ロシアの侵攻を非難し即時撤退を要求することでは一致しているが、アメリカがウクライナに対して行う軍事援助については意見が割れた。ウクライナへの軍事援助に反対するグループはバイデン政権による軍事援助を含む予算案に賛成したD S A所属議員に対して公開の説明会を開くよう要求した。さらに2023年秋の鉄道労組のストライキをバイデン政権が大統領権限で仲裁という形式で止めた時に、それを支持した数人のD S A所属議員に対しても批判が起きた。
批判派は、D S Aをより政党の組織に近づけるべきであると主張している。それによって議員の活動を組織の活動として統制すべきだという考えである。米国では連邦議会や州議会で、共和党も民主党もいわゆる党議拘束はしない。批判派はもう少し組織的な対応をとる組織を作ることがより一般会員の意見を反映する民主的な組織になると主張している。
D S A所属の4人の下院議員は、下院内では他の8人の民主党議員とジャスティス・デモクラッツという12名のグループを作っており、次回選挙でもこのグループに入る候補者を立てる公算である。またD S A所属議員は他の4人の民主党議員とスクァッドという8名の非公式グループを作っている。このどちらにもD S Aを離れたボウマン議員が加入しており、このグループ内でも常に意見の相違は生じているようだ。
 D S A内の各派は、いずれは大衆的社会主義政党を建設すべきであるということではほぼ一致している。しかし、その時期や条件、どのような道筋を通るべきかでは急進的な意見と慎重な意見があり、またそれぞれの中でも意見は多様であるようだ。今、すぐにD S Aを政党にせよ、という主張は見当たらないが、政党的な組織原則に徐々に移行させるべきだという具体的提案は出てきているという段階である。
 

労働組合運動への関わり

 D S Aの2016年以降の急速な組織拡大が、当時の学生を中心としたバーニー・サンダース支持運動から派生したため、労働組合運動との関係強化は課題であった。D S Aは、スターバックスやアマゾンなどこれまで組織化ができていなかった新しい企業での労働組合結成のために動いている多くの活動家を支援、連帯している。スターバックスの場合、店舗ごとに組合結成(労働者の過半数の賛成投票で成立)が行えるため、20数人程度の店舗の組織化がコツコツと行われている。2023年末までに371店舗、9250人が組織化された。労働組合としてはスターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドが中心であるが、実際にオルグ活動を行なっている中心にはD S Aの若手活動家が多い。現在、スターバックスだけでなく、組合結成投票の申請が非常に増えてきたため、投票を管理するNLRB(全国労働関係委員会)は現在のスタッフ数では追いつかない状態になっており、NLRBの予算を増やさせることも課題となっている。米国全体の労働組合組織率は回復していないが、これまで組織化に手がつけられていなかった分野に組織化の広がりが生まれている。
また、Y D S Aの活動家が中心となって学生や大学院生の労働組合への組織化を行っている。米国の大学の場合、大学院生は学部生の授業の補助教員として働くケースが多く、学部学生でもパートタイムでさまざまな学内の仕事を行っている場合が多い。この多くは低賃金でカバーされてきたが、高い授業料をまかなうことさえままならず、不満は高まっていた。それを背景にU A W(全米自動車労組)がそうした大学院生などを労働組合に組織している。2022年暮に、カリフォルニア大学システム(U C L AやU Cバークレーなど)で48000人の大学院生やポスドクがストライキに参加した。2022年の大学でのストライキは15件に上った。そして2022年以降、22の大学で労働組合が新たに組織された。もともと産業別の自動車労組が大学の学生労組を組織するというのは奇異に聞こえるかもしれないが、U A Wの執行部体制の変化とそれを維持しようとする動きが連動しているのではないかと思われる。
2023年もストライキの波は続き、テンプル大学、イリノイ大学(シカゴ)、ラトガース大学、イリノイ州立大学、ミシガン大学、ワシントン大学、カリフォルニア州立大学など有名大学で次々と長期ストライキが打たれ、概ね組合側の要求が通る結果で数年間の新たな労働協約が結ばれることとなった。
かつて米国の学生運動といえばベトナム反戦など平和と民主主義を求める運動が主体であったが、2016年のバーニー・サンダース支持運動の盛り上がりあたりから自分たちの経済問題が関心の中心になってきたようだ。またこうした学生、院生の動きはスターバックスなど飲食・小売業での労働組合結成の動きとも連動している。
 

最低賃金引き上げ運動

 米国における最低賃金制度は、連邦レベルでは2009年からずっと7・25ドルのまま凍結されていて、多くの大都市では実効性を失ってきている。しかし、最低賃金は自治体ごとに決定できるので、大都市ではかなり上昇している。例えば、2024年のニューヨーク市の最低賃金は16ドル、カリフォルニア州も16ドルであり、ワシントンD Cは17ドルとなっている。一方で、南部の多くの州では連邦の7・25ドルのみの場合が多い。労働組合運動が強いかそうでないか、という事情が大きく影響している。
州として最も高いワシントン州は16・28ドルであるが、シアトル市では零細企業を除き19・97ドルに引き上げられている。昨年はシアトルの南側に隣接するタクウィラ市で住民投票によって、3年間でシアトル並みに最低賃金を引き上げることが決定された。
シアトルの西南側にあり、ボーイング社の大工場があるレントン市では、現在はワシントン州の最低賃金16・28ドルが適用されている。しかし、レントン市はタクウィラ市と同様に実際にはシアトルの経済圏であり、最低賃金をシアトル並みに引き上げるべきだという運動がD S Aを中心に組織された。
2022年暮れにレントン市もカバーしているシアトルD S Aにおいて、レントン市における最低賃金引き上げ運動団体Raise The Wage Rentonを支援することが決議された。シアトル並みに最低賃金を引き上げるという提案を住民投票にかけるための署名運動が2023年初から開始された。D S Aは、パートタイムのスタッフを配置するとともに、最低賃金引き上げを掲げたレントン市の市会議員候補者を擁立した。署名運動は労働組合などの賛同を得て教員組合などを中心に取り組まれたほか、D S A会員が、大規模店舗の店頭での宣伝活動や個別訪問による署名活動を行なった。個別訪問の署名活動には毎週週末に数十人がシアトル市内からも参加する取り組みとなった。個別訪問による署名活動は実際にはD S Aが担ったと言ってよい。D S Aの市会議員候補は、地区ごとに1名枠のため民主党の予備選挙で敗退したが、署名は住民投票を行うのに十分な数を集めることができ、今年2月13日を最終日とする住民投票が行われ、最低賃金引き上げを通すことに成功した。

住宅問題への取り組み

 米国の産業構造変化を反映して、人口の中部から西海岸や南西部への移動が続いている。この動きは主に西海岸において深刻な住宅不足問題を引き起こした。人口の増加、特にI T産業の賃金が高いため、それに乗じた賃貸料の引き上げや住宅価格の高騰が起きた。これによって、ホームレスも増加したと推測されている。
2010年以降で最も激しい変化が起きたのがシアトルやポートランドである。それまでのシリコンバレー企業がシアトルやポートランドという北に位置する都市の地域に進出し始めたからである。シアトル地域にはもともとマイクロソフトがあり、大企業としてはボーイング社が古くから存在しているが、ここにグーグル、アマゾン、フェースブックやそれに連なるI T企業が数年のうちに進出した。賃貸料も住宅価格も高騰し、シアトルやポートランドでは路上や公園でテント生活をおくる人が増加してしまった。
賃貸料の高騰の背景にはアパート所有企業によるオンラインソフトウェアを利用した暗黙のカルテルの存在があると推測されている。これはリアルページという「適正」な賃貸料を計算すると謳った家主向けのソフトウェアであるが、現在、賃貸居住者により、これが賃貸料を不当に高くしているとして連邦集団訴訟が取り組まれている。
こうした住宅問題の深刻化を背景としてシアトルにおいて、社会住宅建設運動が取り組まれている。これは公共住宅の一形態として、収入に応じた家賃を支払う自治住宅(社会住宅)を建設しようというもので、House Our Neighborsというボランティア団体が主導して2022年に住民投票のための署名活動が行われ、これにD S Aが全面的に協力して署名を成功させ、さらに住民投票で勝利した。市の機関として社会住宅建設のための委員会が設置されたが、資金をそのように調達していくかなど課題があり、実際に建設が実現するのには時間がかかりそうである。

パレスティナ連帯の運動

 2023年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲攻撃に端を発したイスラエル軍によるパレスティナ・ガザ地区への無差別爆撃や地上侵攻が行われている。すでに現在時点(2月10日)で28000人のパレスティナ市民がイスラエル軍によって殺されており、まさにジェノサイドの様相を呈している。
 D S Aは米国の各所でパレスティナに連帯し、アメリカのイスラエルへの軍事援助反対の行動を行ってきた。各地で橋の一時占拠(マンハッタン、シアトル)によるアピールや港湾でのイスラエル向け物資積み込み阻止の座り込み行動が取り組まれた。特に、イスラエルによるパレスティナ弾圧に反対するユダヤ系市民による「平和運動のためのユダヤの声」運動と連携しており、反ユダヤ主義とも明確に一線を画している。イスラエル支持の民主党議員への抗議行動も取り組まれ、下院軍事委員会に属するアダム・スミス議員の事務所に対しては、D S Aの行動としてイスラエルへの軍事援助停止と即時停戦を求めるデモと座り込みが行われた。事務所内での座り込みに加わった数人が逮捕されたが、すぐに釈放され、アダム・スミス議員はD S Aとの話し合いに応じる、としている。
 こうした抗議行動にはD S Aの多くの若者が参加しており、運動の高揚を通じてD S Aは組織拡大のモメンタムを再び得ているようだ。近年活動に参加していなかった会員が今回のパレスティナ連帯運動を通じて活動に戻ってきたり、学生を中心に組織拡大ができ始めたりしているようである。
 国際司法裁判所への南アフリカによる提訴と判決などもあり、当初はハマスのテロ行為への嫌悪からイスラエル支持に傾いていた米国世論は次第にイスラエル軍による大量殺人への批判に傾き、即時停戦を求める声が強まっている。
 D S A所属議員などパレスティナに連帯する議員に対して、イスラエルを支持するロビー団体であるアメリカ・イスラエル公共問題委員会は、民主党内で同じ選挙区にいわゆる刺客候補を送り込むことを表明し、その支援に数百万ドルを注ぎ込もうとしている。今後の予備選挙に向けて相当の競り合いが予想される。
 D S Aではウクライナ問題や鉄道ストライキ問題などで内部論争が激化したが、今回のパレスティナ連帯活動では、D S A所属議員やこれらの進歩派の民主党議員は即時停戦の主張で一致しており、D S Aの一般会員の活動への参加にも回復の兆しが出ている。11月の選挙に向けては団結力が強まっていくのではないだろうか。

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