月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第18回 円安の原因と影響

月刊「まなぶ」2024年6月号所収

円の実質実効レートが歴史的安値圏

 外国為替市場で円安がつづいています。財務省による円買い・ドル売り介入も行われたようで、急激な円安はいったんは収まったように見えますが、円の水準が非常に低水準になっていることには変わりありません。
 それぞれの国の通貨の為替市場における相場の評価を測る手段に、実効為替レートという指標があります。
 これには名目ベースの指数と物価調整をした実質ベースの2種類があり、後者は前者を物価指数の比で調整することによって物価上昇の違いも反映させて為替相場の評価を行う指標です。為替レートは多くの他の通貨との間で成り立っているので、こうした方法で当該通貨の位置を測ろうとしているのです。
 ちなみに日本銀行が計算している円の実質実効レート指数(グラフ)は、2024年3月で70・94まで低下しており、現在は1971年のニクソンショック以前の1ドル=360円の固定相場時代よりも低い状態にあるということです。
 物価を考慮した時に、現在は極端な円安になっています。多くの国で比較しやすいビッグマックの値段でみると、現在米国では平均5・7ドルですが、日本では480円です。両者は1ドル=約84円で同等の値段になります。現在1ドル=約155円なので、相場はこれより84%もドル高・円安になっているわけです。

 ここまで円安になった原因を見ると、まず、2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにインフレが世界的に広がりました。欧米の中央銀行が金融緩和を修正して利上げで対応したのに対し、日銀はむしろこのインフレを歓迎するかのように超金融緩和をつづけました。そこで、日本と米国や欧州との金利差が拡大し、資金が日本から米欧に流れ円安が進んだのです。むしろ、日銀は円安によって輸入物価上昇を通じた国内の物価上昇をねらったと言えるのかもしれません。今回の円安は、日本経済の弱さによるものというよりも金融政策のあり方によるものです。

円安の国内経済への影響

 円安の影響は貿易面ではまず、輸入物価と輸出物価に表れます。日本の場合、輸入はそのほとんどがドルなど外貨建てであり、円建てでの輸入は少ないため、円安はそのまま輸入物価の上昇に結びつきます。また、日本の場合、輸入に依存している原油など天然資源価格の動きが大きく反映されることになります。輸入物価指数の推移を見ると、円安と原油価格上昇が同時に起きた2022年は大きく上昇し、7月には前年同月比で49%の上昇率となりました。こうした輸入物価の大幅な上昇は、国内の物価にコスト面から徐々に上昇圧力を加えてきました。
 こうしたコストプッシュ型の物価上昇は、もともと日銀がめざしたはずの需要サイドへの刺激による需給ひっ迫による物価上昇とは異なり、経済には悪影響をもたらすものです。
 一方で、輸出物価も為替レートに影響されるものの、円建て輸出も多く、為替レートの影響で価格が修正されていくのにはかなりのタイムラグがあります。

国際収支の構造的な要因

 2022年以降の極端な円安は日本の金融政策に起因するものですが、長期的にみた場合にも、円が購買力に比較して低位に推移する可能性があります。
 人口の超高齢化により、労働力人口の割合が低下したため、国内経済全体で供給より需要が大きくなる傾向が出ています。そのため、貿易収支が赤字になる可能性が高くなりました。ただし、投資収益が大きくなっているので所得収支の黒字が大きいため、当面、日本の経常収支(貿易収支+サービス収支+所得収支)は黒字を保っていくと予想されます。
 為替レートに影響を与える資金需給という点では経常収支が黒字であり、金融取引が中立であれば、経常収支の黒字分だけ自国通貨の買いが売りを上回り、為替レートは強くなると考えられます。ところが、投資収益のかなりの部分が国内には還流せず再投資される構造になっているため、この部分はじっさいに自国通貨を買う要素になりません。日本の経常収支黒字(2023年度25兆3390億円)は、かなり大きいと言えますが、すべてが円買い要因にはならないわけです。貿易赤字が増加していけば、構造的に円を低位置にしてしまう可能性が高くなります。
 

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