月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第19回 日本企業の海外進出

日本企業の外国進出動向

 経済産業省『海外事業活動基本調査』(2022年度実績)によって日本企業の海外進出の状況をみると、海外に進出した日本企業は、本社が6903社、現地企業で24415社が操業中で、現地の常時従業者は557万人です。これらの現地法人があげている純利益は過去最大の16兆500億円まで膨らんでいます。
 大企業を中心に、日本資本は、日本全体の労働者の1割程度にあたる数の外国人を現地で雇用し搾取して利益を上げているということになります。
 東南アジアへの企業進出は、1980年代から本格化しました。大企業の生産部門がそれぞれの立地条件に合わせて生産拠点を展開し、多国籍企業化していったのです。とりわけ、賃金の低い労働力や土地などの経済資源が安いことが誘因でした。2000年頃からは中国の改革・開放政策を反映して中国への企業進出も本格化しました。
こうして日本の大企業内の分業が国際的になっていったわけです。
 欧米への進出の場合は、当初は輸出のための販売拠点作りであったのが、1980年代以降は、貿易摩擦を回避するための現地生産へとシフトしていきました。特に米国では日本車の輸入増大を抑制しようとする政治的な圧力が強まり、日本メーカーは輸出数量を自主規制するとともに、現地生産する事で解決しようとしたのです。
 近年は大企業だけでなく中小企業の海外への生産拠点進出も盛んになりました。資本金別の企業数(上記統計、2022年度)で見ると、資本金5000万円以下の企業数が2223社、5000万円超・1億円未満が1900社、1億円超・10億円未満1156社、10億円超100億円未満1099社、100億円超525社となっています。中小企業、中堅企業もかなりの数の企業が海外に進出しています。
 大企業の海外進出に連動して、その関連企業として当該国へ進出する中小企業も多く、中小企業が全て自律的に海外進出をしているわけではなさそうです。


非製造業のウエイトの増大

 日本企業の海外への進出では製造業による生産拠点や販売拠点づくりに加えて、非製造業の進出も増えています。
 進出している本社の数(前記統計、2022年度)で見ると、製造業の4136社に対して非製造業2767社となっており、全体の40%が非製造業になっています。20年前の非製造業の企業数は全体の33%ほどでしたので、割合が上昇しています。
 進出先での常用雇用者数(2022年)でみると製造業の264万人に対して非製造業209万人とより非製造業のウエイトが高くなっていることがうかがえます。また地域別にはアジアの比率が高いのも特徴です。

活発になった国際間企業買収

 日本の大企業の海外進出は、単純に現地法人を設立して工場や販売拠点を作って稼働させる方法から、すでに事業展開している外国企業を買収することにシフトしてきています。
 企業買収を繰り返すことで巨大な企業に成長した例としてソフトバンクがあげられます。もともとパソコンソフトの流通業者であったソフトバンクはすでに90年代から積極的に外国企業への投資を行ってきました。成功例としては中国のネット通販アリババへの投資(2000年)があげられます。
ボーダフォン日本法人の買収(2006年)によって携帯電話事業に参入し、米国の携帯電話を中心とする通信会社スプリント(2013年、のちにTモバイルに合併)を買収して米国への進出も行いました。そのほか大規模の外国企業買収として英国の半導体設計企業アーム(2016年)の買収などが挙げられます。
 日本企業による大型の外国企業買収としては、日本たばこ産業による英国たばこ大手のギャラハー買収(2007年、1兆7000億円)の規模が大きかったのですが、その後も数千億円から1兆円規模の買収が毎年数件続いています。
 日本企業による外国の大規模企業買収は、日本以外の地域での売上高を増加させる市場多角化の傾向が強く、世界市場における寡占化の狙いを持ったものが多いと考えられます。
 一方、外国企業による日本企業の買収も徐々に増加しています。経済産業省「外国企業と日本企業の協業連携事例集」によれば、外国企業から日本企業への出資である対日M&A等は、3年移動平均で10年前と比較して、件数は約3倍、金額は約5倍となっており、件数は過去20年間で最高水準であるとしています。世界中の多国籍企業にとって、国際間での企業買収や合併は、世界市場での競争に勝ち市場を制するための有力な手段と位置付けられています。


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