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2021横浜市長選・主要候補のSNS比較分析と活用ポイント:山中氏はどのようにSNSを活用して有権者にアピールしたのか

はじめに

かつてない新型コロナウイルス感染悪化の中で、過去最多の8人が立候補し乱立した横浜市長選挙。投票率は、49.05%。前回を11.84ポイント上回りました。中でも、本命視されたのは、現職の林文子氏(75)、国家公安委員長を辞して出馬した小此木八郎氏(56)、無所属 新人・元横浜市立大学教授の山中竹春氏(48)の3人でした。結果は、50万6392票で山中氏が初当選。次点の小此木氏と、32万5947票で18万票の大差をつけて当選を果たしました。

当選した山中氏のプロフィールはこちら

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「山村部で生まれ育ち、高校時代はラグビーに全力投球。大学在学中、データと数字を根拠に意思決定する「データサイエンス」の方法に惹かれ、それを世の中に還元していきたいと決意。社会人になってからは主に医療や社会福祉の分野に尽力してきました。2014年から横浜市立大学医学部教授に就任。最近では新型コロナワクチンが変異株(デルタ株等)にも有効であるというデータ解析結果をはじめて示し、全国的に注目されました。」

NHKの開票速報によると、山中候補の勝因は、保守分裂で自民党支持層の票が割れてしまったことに加え、政府の新型コロナ対応への不満が批判票となって集中したことが敗因だと報道されていました。得票結果をみると、小此木氏は、IR誘致計画への反対を全面に打ち出し、地元選出の菅総理大臣や自民党の多くの市議会議員、それに公明党の支援を受けて組織戦を展開しましたが、自民党支持層からはおよそ40%の支持に、また、無党派層からの支持はおよそ10%にとどまっています。 

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開票結果(出典:NHKhttps://www.nhk.or.jp/senkyo2/yokohama/17137/skh49787.html?utm_int=detail_contents_news-link_001)

一方で当選した山中氏は、IRの誘致計画に反対し、新型コロナのデータ分析などにあたってきた経験をアピールし、立憲民主党の支持層からおよそ70%の支持を、無党派層の40%台半ばの支持を集めました。結果として、山中氏が新型コロナウイルス対応で高まる政権批判の受け皿となった様子が読み取れます。

今回の両陣営のキーワードを振り返ると、山中陣営は『コロナの専門家・IR反対』を全面的に打ち出したのに対して、小此木氏は『IR誘致反対』を打ち出して展開していました。

では、今回どのようにして、このコロナ禍の中で、キーワード通りのイメージを打ち出し、知名度では勝る小此木氏に差をつけ、無党派層への支持を広げることができたのでしょうか。筆者は、無党派層へのアピールのために欠かせなかったツールにメディアの活用があったと考えています。ネット選挙が得票数に直接的な影響があったかどうかのエビデンスは脇においておくとしても、今回は、過去最大級のコロナ禍であり、緊急事態宣言下においての選挙でした。有権者にとっては、今まで以上にインターネットでの情報取得が多かった可能性も浮かび上がってきます。

そこで今回の記事では、当選を果たした山中竹春氏の”メディア活用”に焦点をあてて一部他候補者の活用と比較しつつ、質的に考察していきます。

(※ネット選挙における得票数への影響や地上戦でのコロナ対策については触れていません。選挙の得票数への影響には様々な要因があり、今回の記事に関しては、一つの可能性としてご拝読いただければと存じます。また、特定の政党を支持する・各陣営を批判する目的とした記事ではありません。)


◎山中氏陣営は、実際どのようにSNSを活用していたのか

まずは、当選した山中氏のSNS活用(Facebook・Twitter・Instagram)における特徴的な活用ポイントをまとめて解説していきます。

◆Facebookの活用におけるポイントについて

 (Facebookページを利用フォロワー707人:いいね595人:8/22時点) 

ポイント①選挙一ヶ月前からFacebookページ運用に着手

これは、Facebookだけに限ったことではありませんが、山中候補のSNS運用は、選挙直前ではなく、一ヶ月以上前から着手して更新を始めていました。一部振り返ってみたいと思います。(facebookでの初投稿は、7月3日)

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(街頭挨拶の初投稿は、7月6日)

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(街頭挨拶タイムスケジュール告知の初投稿は、7月7日)

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(街宣車を入れての挨拶は7月10日)

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(政策に関するビラ画像のシェアの初投稿は7月11日)

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(事務所開設日演説会の告知は7月17日)

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選挙前は、以上の投稿スケジュールとなっていました。
山中候補にとっての選挙期間前における一日の投稿量は、2〜3投稿のペースであり、1日の投稿内容は、「〇〇駅で挨拶をしました」(報告型)の投稿、「明日の投稿スケジュールです」次の日の街頭挨拶の告知が中心です。告知に関しては、必ず前日に投稿されていました(画像付き)。

このように選挙前から投稿を積み重ねることによって、8月8日の告示日を迎えるときには、山中氏とはどんな人であり、どんな考えと政策を持って選挙戦に挑むのか、一定の情報シェアを終えている状態で、告示日を迎えることができます。このポイントの前提としては、選挙が始まってから投稿を始めるのと、選挙前から投稿をしているとでは、フォロワー・有権者にとって候補者に対する見え方、印象の伝わり方が変わってきます。例えば、選挙前の期間から告示までの活動を発信し続けていた場合、それを毎日見守っているフォロワーもしくは有権者にとっては、候補者の情報に少しずつ接点を持つ機会ができます。選挙前からこの候補者は、頑張っているという印象を付けやすいことで、候補者の行動への信頼に繋がる可能性もあります。事前の投稿で候補者の情報に触れた有権者にとっては、いよいよ始まるという選挙に対する心構えができ、候補者への熱意を醸成し始めておくことができます。また、コンテンツのアーカイブ量にも差をつけやすいこともポイントです。一方で、選挙始まってから投票のお願いだけをする候補者をみると、どのようなイメージに写るでしょうか。結局、”選挙の時だけお願いするのね・・・”という悪い印象になりかねないのです。

ここで、他候補者も覗いてみたいと思います。

現職の林候補は、Facebookに着手したのは7月30日でした。 (facebookページを利用フォロワー93人:いいね81人:8/23時点) 告示日を迎えるまでは、公務での内容を中心に発信しています。

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小此木氏は、国会議員としての最終投稿日は、6月11日でした。そして、選挙用にプロフィール画像を更新したのは、8月1日です。この期間は、こちらのページでの投稿はありません。(facebookページを利用フォロワー1276人:いいね867人:8/22時点) 

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そして、テキストを加えた初投稿は8月3日でした。

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その後、告示日を迎えるまで、街頭挨拶に関する報告型の投稿を、一日一回アップしています(例:本日は朝に◯◯駅にて、◯◯議員と、夜には◯◯にて ◯◯議員と一緒に皆様にご挨拶をさせていただきました。たくさんのご声援をいただき、ありがとうございました。)のような投稿です。

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街頭スケジュールの告知をしていないところも山中候補にはない点です。


ポイント②入力できる情報欄はフル活用する

こちらのポイントは、より細かな活用の点です。Facebookページにおいて基本データの各項目欄に入力を行うと、ページトップ左に表示される仕組みとなっております。(画像黄色い枠です)FacebookはTwitterのようにプロフィール画像横に詳しいプロフィールを入力する場所がありません。Facebookにおいて山中候補はこの基本データの詳細欄を活用して、政策・キャッチフレーズ・他SNSへの誘導のためのURLなど、ページを開いた瞬間に伝えたい情報が、一眼でわかるように活用していました。

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基本情報を入力すると聞くと一見当たり前のように感じられる方もいらっしゃるかもしれません。例えば、小此木氏・林氏のFacebookページには、細かなプロフィールが記載されておらず、どのような人物なのか、一眼ではやや伝わりづらい印象になってしまいます。

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候補者は、基本的にTwitterをメインで活用することが増えたために、Facebookページにおいては細部までに情報を入力する候補者は少ないと思いますが、実際に各候補のページを見比べてみた際にどうでしょうか。

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初めて目にした際に、どちらの方が情報がより具体性があり、候補者のイメージが伝わりやすいでしょうか。できれば訴えたいキーワードをトップにおくことによって、候補者像のイメージを際立たせ惹きつけることができます。このように、情報のわかりやすさを具体的に明記して提供することは、どのメディアにおいてもとても大切なことなのです。その情報をわかりやすい言葉で伝えようとしている候補者の姿勢こそが、有権者にとっての政治家としての信頼イメージへと直結してくるからです。

ポイント③固定投稿には、候補者の自らの言葉で語っているテンポのいい紹介動画を採用

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山中氏の固定投稿には、候補者が自らの言葉で語る動画が固定されていました。動画の構成は、1、候補者が考える市政への課題(自身の子育て経験を通じたストーリー)→2、私が考える横浜市政の足りないところ(専門分野を活かせます)→3、なぜ立候補をするのか(科学的根拠に基づいた要素を増やしたいから)→4、自分が目指す横浜市政とは(カジノ頼みの経済ではだめ)有権者が、最も知りたいであろう部分や要素を語っています。全体で約2分間での構成かつ、正面からの撮影アングルではなく、いろんな角度から撮影されていることによって、視聴者の離脱(飽きさせない)を防ぐ工夫がされていました。また、この投稿をする際のテキストは、二言程度のみ、ビジュアルで訴えることを意識しています。Facebookページの設計上、文字を書けば書くほどスクロールしなければ添付コンテンツに辿りづらくなっているからです。

例えば、林候補のFacebookを見てみると、テキスト+WEBサイトへのリンクが表示されています。Facebookは、一定のテキスト量を超えるとテキスト表示が省力され、’もっと見る’というボタンが現れます。

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そして、このボタンと押すとドーンとテキスト全文が表示される仕組みとなっています。そういった場合には、見ているユーザーは投稿するテキスト分量が多ければ多いほどスクロールしなければなりません。添付したコンテンツまで辿り着かないまま離脱してしまう可能性があります。

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また、小此木氏の固定投稿は、第一声動画が投票日まで投稿されています。こちらの動画は、出陣式の際に応援弁士に駆けつけた国会議員と候補者の第一声が入っているものです。実際の候補者のメッセージは、「IRは反対します」という意気込みを語っている内容となっています。

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こちらの動画は、全体で2:20で短めでダイジェスト風にまとめられています。候補者のメッセージは一番最後に編集されており、候補者の考えが知りたい視聴者にとっては、途中で離脱してしまう可能性が高い構成となっていました。候補者の場面でのメッセージは、私は「IR・カジノ反対」で、当選後も態度を豹変させたりしません、という内容です。この動画はページトップに固定されているため、このページに訪れた新規ユーザーはこの動画をクリックする機会が多い中でしょう。初めてこの動画を見た有権者は小此木氏に対して、どのようなイメージを持つでしょうか。”この候補者は、こんなにも偉い議員から応援されている候補者なんだ、じゃあ、私も投票しよう!”という気持ちになるでしょうか。
コロナを一刻も早くどうにかしてもらいたい有権者の立場に立って考えた際に、この候補者はどんな実績があり、このコロナ禍でどのような政策を考えているのか、小此木氏じゃないとできない政策は何か、こういった具体的な点を知りたい有権者は多いのではないかと考えます。できる限り候補者の考えを盛り込んだ、ビジュアルで訴える動画をトップにおいておくことによって、有権者の興味関心を惹きつけることができると考えます。

◆YouTubeの活用について

ポイント①選挙用のメインチャンネルとそれ以外を発信するサブチャンネルを開設し、目的に応じてチャンネルを使い分けて発信する

山中氏は、選挙用のメインのチャンネル(登録者数 382人、2021/07/04 に登録、11,531 回視聴)以外にも、サブチャンネル(登録者数非公開、2021/07/16 に登録、5,300 回視聴)として、「山中竹春の部屋」という名前で開設していました。狙いとしては、硬い政治のコンテンツ以外にも、候補者の人柄を知ってもらう様に、カジュアルにコンテンツを投稿していくサブチャンネルとして活用していた様子です。

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再生数の多いコンテンツとしては、山中氏のペットを紹介する動画「猫大好き!山中竹春のかわいい愛猫親子「ルル&ジジ」」やワクチンの有効性をデータから示した「ワクチン受けるとどうなる?新型コロナの中和抗体研究を」などがよく見られています。こういったカジュアルな動画を通じて、イメージづけたい人柄を切り取って、候補者の生活感、価値観などを有権者にシェアすることができます。

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実際には、選挙期間入る前から、この2つのチャンネルを並行しており、筆者自身も、この活用パターンには驚きました。チャンネルを分けるメリットとしては、一つのアカウントに対して一つの世界観で統一できること、政治カラーを中和させることによって、政治に興味がない層・無党派層に対してもカジュアルにアプローチできることが考えられます。多角的に候補者の魅力を伝えていくことによって、有権者は候補者との共通点を見つけやすくなり、動画視聴者を飽きさせない工夫にもつながります。また、実際にプライベートの素顔を発信することで、より候補者を親近感を感じさせることができるでしょう。

ポイント②選挙用メインチャンネルでは、候補者にフォーカスしているコンテンツを投稿(応援弁士の動画がほぼゼロ)

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山中氏のアカウントでは、全体的に候補者メインの動画が発信されていました。他候補と比べると、投稿本数は少なめであり、毎日何本も動画を出す手法ではなく、「これ!」という1本をしっかり伝えていくことを意識されていたことが伝わってきます。有権者のここがもっと深く知りたい!という疑問に答えるコンテンツや、全ての街頭演説をそのまま上げるのではなく、最も伝えたい街頭演説だけを切りとって一つのダイジェスト動画をいくつか投稿されています。実際にコロナ禍で候補者に直接会えない有権者にとっては、しっかりまとめてくれているダイジェスト動画はありがたいものです。

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また、候補者が考える政策ビジョンをアニメ形式で動画にしているコンテンツもありました。こうしたアニメにすることによって、より候補者のビジョンが伝わりやすくなります。

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こうした政策アニメの動画については、他候補者の松沢成文氏も積極的に取り入れていました。

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松沢候補においては、山中氏と同じく、候補者メインの動画を展開しています。他候補と比較した際にも、特にユニークなコンテンツが多く投稿されています。例えば、横浜の様々な場所にある坂を、全力で登るという、某番組のパロディ動画や、

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愛は勝つ!の楽曲をなぞって、シゲは勝つ!という替え歌動画を披露していました。こちらの動画は、松沢候補のアップされた動画の中ではトップ再生となっています。視聴者を飽きさせないコンテンツを展開した松沢候補は、様々な角度をもって、有権者との接触を試みる姿勢が伝わってきます。

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続いて、林候補においても同じく、候補者メインの動画を展開されていました。2021/07/26 に開設し、11,237 回視聴、主に候補者の政策をコンテンツの中心においていました。

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小此木氏のチャンネルでは、候補者の動画よりも、国会議員による応援動画のコンテンツが多い印象です。候補者の言葉で語っている動画コンテンツが少ないということは、初めてこのチャンネルをのぞいた人にとっては、どんな候補者なのかが伝わりづらく、無党派層への支持が広がりにくい印象となってしまう恐れがあります。

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小此木氏(チャンネル登録者数 117人、2021/08/08 に登録、5,679 回視聴)

これはあくまで筆者の考えですが、現状、政府への批判が高まっているとすれば、極力政治カラーを抑えた発信を考えます。なぜならば、個別の応援弁士のメッセージ動画は、政治や派閥カラーを感じさせやすく、かえって批判や反発を受けやすくなる上に候補者のイメージブランディングにも影響を与えやすいからです。また、応援弁士の動画は、党内での結束意識に繋がるかもしれませんが、新規ファンを開拓する上で効果があるとは限りません。何かしらの応援メッセージをアップするならば、候補者の活動様子+地域住民からのメッセージ動画構成の方がより市民目線に近い政治家として親近感を感じます。

ポイント③視聴者に配慮した離脱を抑える動画編集を

山中氏の動画においては、一眼で内容がわかるサムネイルと、実際の動画では視聴者の離脱をさせない、飽きないための細工がされていました。メインチャンネルでは、候補者の名前を最も強調する様に、かつ選挙テーマカラーに合わせた統一感があるデザイン使用となっており、バラつきを感じさせません。

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また、サブチャンネルでは、今時のYouTuberの様な世界観を意識した、思わずクリックしたくなるようなサムネイルのデザインが施されており、カジュアルな動画が展開をされています。市民にとって身近に感じるフレーズが多く並べられており、新たな無党派層への開拓につながっていくでしょう。

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実際に公式WEBサイトで両者の動画を並べて比較してみると、小此木氏と山中氏の動画では、どのような印象を感じるでしょうか。

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また、同じようにSNSをフル活用していた候補として、元衆議院議員の福田峰之氏の動画活用も特徴的でした。横浜市における各地区に向けた政策を動画にしています。そのほかにも、バラエティあふれるコンテンツが展開されていました。

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また福田氏は、こうしたメディア活用だけでなく、リアルな選挙事務所を開設せずに、オンライン上でのバーチャル選挙事務所を開設していました。こうしたデジタル活用を積極的に取り組む候補者のイメージは、メディア媒体でも話題となっていました。

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◆Twitterの活用について 

続いて、Twitterでの活用を見ていきます。詳しいポイントは、以下の図にまとめてみました。

トップ

ポイント①候補者のアカウントが見られる順番を意識して掲載するキーワードを選択

山中候補のTwitterで特徴的なのは、”具体的かつわかりやすい短いキーワード”が並べられていることです。まず、Twitter活用を考える前提に、Twitterのアカウントが見られる順番を意識しなければなりません。実際に、ユーザーがみる順番は、アイコンやヘッダー、アカウント名、自己紹介文、固定ツイート、最近のツイートの順番です。アカウント名はプロフィール以上に目に入る場所なので、名前だけでなく、アカウント名には名前+自分のツイートの主題をつけることによって、自分が何者なのか?一眼で見つけてもらいやすくなります。その際には、自分のツイート内容に近い要素をアカウント名の後ろにつけておきましょう。よく用いられるわかりやすい例えとしては、アカウント名=作家名と本のタイトル(例:名前@本のタイトル)、自己紹介文=本についている帯をイメージしてかく、ヘッダー画像=本の表紙と見立てて作成すると、全体の世界観がまとまりやすくなります。例えば、実際の候補者のプロフを作成する際には、以下の順に書いていくとストーリーの流れが伝わりやすくなります。

『肩書き(自分が何者なのか?)/自分の経歴(過去→現在→未来の時系列がベスト)/プライベート要素(親近感・人格を出そう)/政策・ビジョン/このアカウントは何を発信しているのか?(メリットを出しつつ書く)』

他にも、珍しい経歴や興味があるジャンルを持っていると、他候補との差別化になります。あまり目にしない経験を入れ込むと、プロフィールが見られたときに、「お?なんだか面白そうな候補者だな」と感じてもらえます。また、プロフィールにハッシュタグを入れている候補者がいますが、文字数の無駄になってしまうので、好みならともかく拡散狙いならのけることをお勧めします。なぜなら、ハッシュタグで検索して最初に表示されるのは、ユーザーではなく多くの場合『話題のツイート』だからです。

ポイント②投票日に固定するトップツイートには、初めて見た人が興味を持つ自己紹介系に

山中候補は、固定ツイートに、自身の紹介とWEBサイトへのリンクを固定していました。

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林候補は、トップに立候補表明をした内容を固定しています。

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そして、トップに表示されている投稿にはコンテンツを載せずに、この投稿に紐付けした形でリンクを貼っています。

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小此木氏は、投票日当日、河野議員と小泉議員との対談をトップに固定していました。動画の冒頭2分をトリミングしたものと投稿し、リンクに飛ばなくても、様子がわかるようになっています。

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固定ツイートには、できるだけ候補者メインの情報に絞ることが大切です。なぜなら、固定ツイートは多くの人に見られるポイントだからです。固定ツイートは自分の看板です。もし伝えたいことがない場合は、プロフィールを書いてみることをお勧めします。一番伝えたい候補者の情報を絞り、シンプルに伝えることは、本当に伝えたいことが伝わりやすくするために必要です。

ポイント③タイムラインは、候補者アカウントの投稿のみに絞る(他のアカウント投稿をRTしていない)

山中氏のTwitter投稿のルーティーンとしては、朝一に、主張型の投稿→現場の実況AM投稿→PM投稿→明日の街頭演説告知という順番に投稿されてるパターンになっています。イメージとしては、以下の画像の並び順になります。

(朝)

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(午前中ー昼ごろ)

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(午後ー夕方)

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(夜)

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山中氏のTwitterタイムラインの特徴としては、候補者の情報のみが並べられている状態で、応援弁士のメッセージ動画や、他議員のアカウントのRTなどはほとんどない状態に整理されていました。

他候補者を見てみると、林候補についても同じく、Twitterタイムラインでは候補者メインの投稿が並んでいる状態でした。投稿ルーティーンとしては、 「〇〇駅前にて街頭活動。次は〇〇に向かいます。」現場かの実況型投稿、街頭演説・オンライン演説会の告知を投稿していました。

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続いて、小此木氏のTwitterタイムラインでは、他議員の投稿をたくさんRTしていました。タイムラインが候補者の投稿以外で埋目尽くされている印象です。例えば、以下のような投稿がずらっと並んでいる状態です。

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初めて目にする有権者にとっては、こんなにも多くの他国会議員に応援されている候補者なんだという印象を受けやすくなることでしょう。一方で、候補者の情報を知りたくても、情報がタイムライン上でかえって見えにくくさせてしまうことにもつながるので、バランスには気をつけながらRTをしなければなりません。もし、第三者の投稿をRTする場合は、政治に関係ないユーザーの応援投稿をRTすることをお勧めします。今回同じ横浜市長選挙に立候補していた田中氏のアカウントでは、フォロワーからの応援投稿を自身のタイムラインにRTしていました。

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応援してくれている支持者から送られてこきた動画をアップしている様子もありました。

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田中氏のように、ネット上で積極的に応援してくれているユーザーを巻き込みながらSNS上で支持を広げ、ネット上での声を大きくさせていく手法もあります。このようにTwitterのタイムラインは、候補者の頭の中、そのものなのです。

ポイント④メインとサブのTwitterアカウントを目的に応じて使い分ける

先ほど、YouTubeでサブチャンネルを駆使しているとご紹介しました。山中氏は、そのサブチャンネル用のTwitterアカウント・Instagramのアカウントを開設されており、メインアカウントとサブアカウント、この2つを使い分けて相互にRTしあいながら、メインアカウントのフォロワーを伸ばしていました。

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投稿内容は、主に、サブチャンネル動画の冒頭1分程度の動画をトリミングしたもの+実際のYouTubeリンクを貼って誘導しているものです。

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なぜ、このように政治コンテンツ以外のコンテンツが必要なのでしょうか。それは、政策や政治カラーのみのコンテンツでタイムラインを埋め尽くすと、無党派層(政治に興味がない支持者など)を掘り起こせないからです。”候補者なんだから、真剣に政策だけ語ってればいい”という意見も多くありますが、政策だけ語っても中々耳を傾けてくれる人がいないのが、今の日本の現状なのです。

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自民党のように組織票を持たない候補者の場合は、無党派層への支持拡大を増やしていくしかありません。その場合は、政治一色のタイムラインにしてしまうと、政治に関心のない層にとっては、初めから見てもらえにくくなる可能性が高いのです。硬い投稿を3つほどしたら、柔らかい投稿を一つ挟む、このコンテンツのバランスにこそ、支持拡大に繋がる要素だと考えています。

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他候補者を覗いてみると、林氏は、選挙以外のコンテンツがない印象でした。小此木氏は、自身の人柄がわかる物語を漫画にしている工夫がありました。

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ポイント⑤街頭演説とせずに、街頭コミュニケーションと表現

山中候補は、街頭演説のことをコニュニケーションと言い換えて、各所を回った様子をアップしていました。筆者にとって、とても印象的な言葉の置き換えだったと感じています。受け手にとっては、「コニュニケーションしてきました」と、「演説してきました・挨拶してきました」とでは、候補者への印象が少し変わってくるのはないでしょうか。一方的な印象ではなく、双方向の意識を持っている政治家のイメージを生み出してくれる可能性があります。

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また、他にもSNSフォロワーとも積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢が投稿の節々から見受けられました。

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ポイント⑥質問箱を活用し、直接質問に答える・耳を傾ける姿勢を見せる

山中氏は、質問箱を利用して、一つ、一つの質問に返事をしてました。選挙期間中には、リプライをもらっても一つ、一つに返す余裕がない場合は、こうした質問箱を利用することを通じて、候補者の考えを積極的にシェアする姿勢を示すことがとても重要です。自分の質問に耳を傾けてくれる政治家なのか、有権者はしっかり見ています。返事やいいねを返すことも同様に、有権者に耳を傾けてくれるというイメージづけに繋がります。

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ポイント⑦コンテンツにあったハッシュタグを厳選して使用する(載せすぎない)

山中氏のTwitterでは、ハッシュタグは2−4個で運用されていました。基本的に、選挙中のTwitterでのハッシュタグは1−3個がベストと言えるででしょう。140字の文字制限の中で、優先すべき言葉はたくさんあるからです。

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他候補者のハッシュタグを覗いてみたいと思います。小此木氏のTwitterでは、議員の名前が並べられていました。演説会に参加いただいた議員の名前をハッシュタグでメイン投稿にコメントする形で載せています。

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ここでツイッターにおける効果的なハッシュタグ数は幾つなのでしょうか、以下の研究文献によると、https://www.quicksprout.com/marketing-trends/(出典:10 Marketing Predictions You Should Prepare for in 2015)Twitterにおいては、「1~2個」が最も効果的な数であるとされています。また、ハッシュタグが付いていないよりも、付いている方がリツイートされやすいとの結果が書かれています。

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平坦な言葉でやりとりされるコミュニケーションツールにおいて、明らかに「この人SNSを盛り上げるために必死だな〜」と印象付いてしまう大量のハッシュタグは、読む人にとってノイズとなることもあります。そもそもが140字しか入力できないTwitterでは、ハッシュタグの存在はより顕著に感じられるはずです。結果的には、「宣伝臭」にならないように選挙においてもあまり欲張らず、重要なワードを1~2個設定するのが最も効果的となるかもしれません。

ポイント⑧テキストと画像のないようがズレないように投稿する際に意識する(違和感のない投稿を)

投稿する前提に、テキスト内容とそこに載せる画像・動画とのギャップがないように書くことが候補者の投稿にとって大切です。特に以下のような、画像+候補者の考えを述べる投稿する場合には、伝えたいメッセージとそのイメージにあった画像を選択することがポイントです。また、真剣に伝えたい内容ほど、カジュアルな絵文字・改行のしすぎは避けることも大切です。文字がぎっしり詰まっていることによって、現場の臨場感あふれる印象が伝わってきます。

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ポイント⑨Twitter Spaces機能を活用し、他議員とのオンライン対談を行う

スペースとは、Twitter上で音声を使ってリアルタイムで会話する新しい方法です。最近Twitterに追加されたClubhouseに近しい、リアルタイムな音声SNSです。clubhouseのTwitter版と捉えていただくとわかりやすいかもしれません。

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Clubhouseでは、あくまでも「声」でのコミュニケーションしかおこなえず、スピーカー同士の会話が進行されるのみです。一方で、Twitter Spacesでは、リスナーも数種類の絵文字でリアクションを送れます。スピーカーにもリスナーにも双方的なコミュニケーションが生まれやすいのことが特徴です。候補者は会話中にリスナーが反応してくれることで話すことを楽しめますし、リスナーは聴いている候補者とゲスト議員の会話に対して何かしらのリアクションを行うことができます。山中氏は、期間中の夜の時間帯にスペースを活用してゲストとともに対談を行なっていました。

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◆Instagramの活用について 

最後に、Instagramの活用についてです。山中氏のインスタグラムの活用について、以下のポイントに絞ってまとめていきます。

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ポイント①ユーザーネームは検索で引っかかる工夫がある

山中氏のユーザーネームには、「yokohama」が入っていました。ユーザーネームはアカウントを検索するとき、ストーリーズを視聴した際の足跡などで表示されます。そのためインスタでは、名前よりもユーザーネームは頻繁に目にするものなので、yokohamaで検索した場合、山中候補のアカウントは引っかかるので目に止まりやすくなります。

ポイント②Instagramの特徴に合わせて、カジュアルに発信

Twitterよりもカジュアルに、記号や絵文字、改行を加えて見やすい工夫がありました。インスタプロフィールを書くときは、無党派層に向けても、興味・共感を得るための情報を書くことが、とても大切です。

ポイント③あらかじめ投稿順序を考えて世界観を統一する

山中候補のポストの順番はあらかじめ決まっている様子でした。候補者(コミュニケーションの様子)→横浜市風景(ハッシュタグのみ)→候補者(コミュニケーションの様子)→横浜市風景(ハッシュタグ+テキスト)で投稿されています。無闇に投稿するのではなく、順序よく投稿することによってコントラストが市松模様状に綺麗に写ります。


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キャプションについては、主に以下の3パターンの構成でした。

上から、横浜市の風景+候補者の思い+ハッシュタグ

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候補者の写真+街頭の様子を綴った内容+ハッシュタグ

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横浜市の風景+ハッシュタグ 

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となっていました。他候補者を覗いてみると、現職の林氏は、主に一枚にコラージュしたものを中心にアップしていました。コンテンツは、主に、街頭演説と告知です。

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小此木氏は、プロフィールはTwitterと全く同じで、コンテンツ画像が、グリットカットされて6枚を一枚絵になる方法をとっていました。投稿一つ、一つにテキスト、ハッシュタグは入っておらず、画像のみで訴える手法です。

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小此木氏と同じく田中氏も、グリットカットの投稿を採用していました。

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そして、グリットカットした一枚絵とは別に、自身の掲げる政策を画像に文字入れをおこない、候補者名と政策をセットで強調されることによって、一眼で伝わりやすいデザインになっています。

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◆山中陣営のSNS活用の総括

最後に、まとめです。今回当選した山中氏のSNS活用においては、Twitterアカウント中心に、Instagram、Youtube、Facebook、LINE、全てを一定のクオリティで保ちながら更新し続けていました。山中氏が無党派層への支持を広げるために行った、他候補者にはなかったメディア活用の特徴を以下にまとめます。

ポイント①地元活動およびメディア運用への着手が早い

ポイント②街頭スケジュールの告知は必ず前日までに行う(画像付き)

ポイント③街頭演説ではなく、街頭コミュニケーションという表現を用いることによって市民との「目線をそろえる」

ポイント④最終日の投稿まで画像とテキストにズレがないように意識する

ポイント⑤政治色を全面に出さずに、硬い・柔らかいコンテンツのバランスを考えて投稿している(メイン垢、サブ垢の使い分け)

ポイント⑥伝えたい候補者イメージを絞り込み、テキストを作成(情報比率を考え、わかりやすさを意識)

ポイント⑦メディア媒体ごとに見せ方を変えている

ポイント⑧自分の言葉でしっかりと語ることができる素材があってこそSNSが生きてくる

神奈川県内では連日のように2000人以上の感染確認が発表されています。市民の関心が「新型コロナ対策」に集まる中で、山中氏は自ら「コロナの専門家」として打ち出しました。今回考察してきたメディア活用の一つ、一つの要素こそが、山中氏を「コロナの専門家」として押し上げる力へと加わり、政府に不安や不満を感じている人たちを、より引きつけアピールができたのではないかと、筆者は考えます。
また、他候補者と比較していく上で感じたことは、候補者のアカウント投稿以外でタイムラインが埋め尽くされることは、本当に発信したいメッセージが見えにくくなる=わかりにくさが生まれる要因につながる可能性があるのではないかというものです。次点の小此木氏に関しては、山中候補に比べて、具体的なメッセージ性が薄く、発信がわかりにくい印象をうけました。「強い覚悟で横浜市政へ」というキャッチコピーから、なぜ出馬に至ったのか、どのような市政を目指していくのか、など市民を納得させるだけの言語化した発信が埋もれしまっていた、もしくはコンテンツ観点において少なかったのです。従来通りの組織票固めであれば、これまでの発信のやり方(他議員からの応援投稿をRTする、応援弁士のメッセージ動画を並べることなど)でコンテンツは良いのかもしれません。
しかし、(繰り返しになりますが、)今の日本全体において、政府・政治に対して国民の批判が高まりやすい背景にあります。従来通りの打ち出し方をした結果、逆効果を招いてしまう可能性が高く、仮にどの政党所属議員であっても、極力政治カラーを抑えるブランディングをとった方が良い可能性があるのです。二連ポスターや応援弁士のメッセージ動画は、政治や派閥特有のカラーを感じさせやすく、批判や反発をよりうけやすくなる上に、候補者のイメージブランディングに影響を与えやすいからです。
コロナ禍で今、求められている候補者は、一刻も早くこの現状を解決してくれる、右でも左でもない、しがらみのない政治家、こういった現状を作り出した政府への不満を受け止めてくれる受け皿のような政治家、そういったイメージ像を感じさせる政治家が民意を集めやすいのではないでしょうか。


終わりに:次期秋選挙に向けて

衆院選では過去最大級のコロナ禍ということもあって、更なるSNSの活用が期待されるところです。8/23時点における衆院選2021・予定候補者のアカウント所持数を見てみると、ほとんどの候補者がメディアを活用しています。コロナ禍によって選挙におけるSNS活用が、効果を評価するものだった印象から、日常から国民とのコミュニケーションをとり、政治家として”説明責任を果たすべき活用ツールであるという認識に変わりつつあるのではないでしょうか。秋衆院選に向けて今こそ、これまでの発信を改めて見直すべきタイミングなのかもしれません。

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衆院選2021・予定候補者913名におけるメディア所持率・所有率の集計データ表より(8/23時点):筆者作成

最後に、今回質的に捉えてきたメディア活用ができることには限りがあります。SNS活用は、元の候補者の素材を魅力的に見せる一つの発信ツールに過ぎず、最終的に政治家として、有権者にわかりやすく、自分の言葉を持って語れるかが、何よりも大事だということを忘れてはなりません。どんなに綺麗にタイムラインを整えても、インターネットの発信力を高めたとしても、最後に武器になるのは「ご自身の言葉」です。よそから借りてくるものではなく、あなたにしかない言葉を語ることによって、聞き手の心を動かせることができるのです。

総裁選挙、衆議院選挙はもう目の前に迫っています。政治家のSNS活用はどのように変容を遂げていくのでしょうか。引き続き、政治家のSNS活用をリサーチしていければと思います。

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