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渦巻く“西側の論理” ねらいは親ロシア政権の樹立か|クレムリンの狂人#1

2003年3月20日。
演壇上で弁舌をふるう1人の男に目を奪われていた。
当時アメリカ大統領だったジョージ・ブッシュだ。

小学3年生だった当時、何を話しているかは分からなかったが、これから人殺しが始まる。それだけははっきりと認識できた。

あれから19年近く。今度はアメリカと長年牽制し合ってきたロシアのプーチン大統領が、戦争を始めることを宣言した。

あのとき感じた恐怖や戦争への怒りが、よみがえってきた。

しかし、日本政府の反応は当時とはまるで違う。
イラク戦争開戦時の首相だった小泉純一郎氏は記者会見において、「アメリカの武力行使を理解し、支持いたします。」と表明している。(その後、日本は自衛隊を後方支援部隊としてイラクあるいは中東洋上に派遣した)

今回、岸田首相は「国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難します。」と厳しく非難した。

同じ自民党政権でありながら、同じく一方的な侵略行為に対してこうも違うのはなぜなのか。

“西側の論理”に支配される日本


この背景にあるのは、“西側の論理”だ。
西側諸国と東側諸国の対立は、第二次大戦後の国際社会の構図そのものであり続けてきた。

元来は資本主義(西)と社会主義(東)に分かれていたが、ソ連崩壊後は東側の有力な国であったロシアと中国が資本主義体制にシフトしたことから、現在はさほど明確な切り分けはない。

ただ、アメリカはロシアや中国を仮想敵国として見ている向きがあり、この2大国以外との軍事的な結びつきを強めていることから、この対立軸は根強く残っている。

その証左に欧州や日本・韓国などアメリカと軍事同盟を結ぶ国々は、冷戦終結後もしばしば“西側の論理”に引っ張られ、アメリカの行動を支持・追認することが多い。

冒頭で取り上げた、イラク戦争と今回のウクライナ侵攻への日本政府の反応の違いはその顕著な例だ。

イラク戦争も、アメリカが根拠なき理由(大量破壊兵器を所持している)を基に一方的に侵攻を開始し、2011年までの8年間で民間人を含む多くの犠牲者を出した。
なお、その後イラク国内では宗派対立が先鋭化したことにより内戦状態に。
西側諸国各地でテロを起こした原理主義組織「イスラム国」の台頭も許した。

これに対し、日本政府はいまだアメリカの行為を「侵略行為」と認めていない(今回のウクライナ侵攻については早々に「侵略行為」との公式見解を発表)
ひとつ違いがあるとすれば、当時のイラクにはサダム・フセイン率いる独裁政権が暴挙の限りを尽くしながら君臨していた、という点だろうか。
しかし、民間人をも巻き込んだ一方的な侵略行為に踏み込んだ事実は一致している。

この矛盾が、中国やロシアとの緊張状態を生み出しているともみれるだろう。

ねらいは占領ではなく傀儡政権の樹立か

現在、ウクライナ首都キエフを中心にロシア軍とウクライナ軍は激しい戦闘状態となっているが、プーチン露大統領は“宣戦布告”の際の演説(2月24日)において「ウクライナ全土の占領は考えていない」と、ウクライナを直接占領・統治する意図を明確に否定した。

さらに、侵攻を開始して一日と経たないうちに首都キエフに攻め入っている状況をふまえれば、ウクライナのゼレンスキー政権を崩壊させて、そこに新ロシア派の傀儡政権を打ち立てることが目的だと考えるのが自然ではないだろうか。

ただ、これは表向きの目的である可能性も残る。
全土占領・統治をゴールとしてしまうと、軍事的リソースの肥大化・戦闘の長期化が懸念される。
それよりも、早々に首都キエフへ攻め入り、政権を崩壊させ、傀儡政権を樹立すれば、ウクライナ全土を実質的なロシアの支配下に組み込むことができる。

こうして侵攻目的を全土占領から政権崩壊と矮小化することで、戦闘の長期化を防ぎ、各国からの批判のトーンを押し下げ、ひいては制裁の強度を弱めさせる思惑があるといった見解も否定できない。

ウクライナ国民の出国禁止令 犠牲拡大させるおそれ

ロシアの一方的な侵攻に徹底抗戦する意向を示しているウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナの18~60歳男性の出国を禁じ、意思にかかわらず戦闘に参加するよう呼びかけた。

しかし、西側の一大軍事同盟であるNATOから武器を供与されているといえども、ロシアとの軍事力や人員の差を考えるとこれ以上の抵抗はいたずらに犠牲者を増やすだけではないかと思われる。

核兵器を保有する大国どうしの戦争に発展することを避けるため、アメリカをはじめとした西側諸国はウクライナへの派兵を行っていないこともあり、現実的な対応としては、西側諸国が足並みをそろえてロシアの行為を糾弾し、徹底した経済制裁(SWIFTからの排除など)を課していくことで、これ以上の侵攻を踏みとどまらせることではないだろうか。

いずれの場合にしても、ゼレンスキー大統領は非常に難しい決断を迫られている。

悲壮感に満ちた宰相の卑劣な決断 決して許されない

侵略はいつでも「平和」や「自衛」の名の下に正当化され、始まる。
かつての太平洋戦争、イラク戦争、今回の侵攻。いずれもそのように正当化されてきた。

2003年のブッシュ大統領(当時)は決意に満ちあふれた表情で国民に語りかけた。
一方で今回のプーチン大統領はどこか覚悟を決めたかのような悲壮感が漂う。
たったひとりの宰相の卑劣な決断により、自国含め多大な犠牲を生む戦争行為。
決して許されるべきではない。


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