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#36『食堂かたつむり』(著:小川糸)を読んだ感想

小川糸さんの『食堂かたつむり』

小川さんのデビュー作
で、2011年にはイタリアの文学賞であるバンカレッラ賞料理部門賞を受賞しました。


あらすじ

おいしくて、いとおしい。
同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。
山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。
巻末に番外編を収録。

「BOOK」データベースより

感想

  • さまざまな素敵なメニューに僕の心も満たされた

  • 大地の恵みによって生かされていることに感謝しようと思った

  • かたつむりのように少しずつ前に進んでいけばいい


物語の舞台は、主人公の倫子が経営している、お客様が一日一組だけの「食堂かたつむり」
倫子は、失恋に加えて何もかもを失った後に故郷へと帰り食堂を開きました。


倫子さんが作るさまざまなメニューはとても素敵で、読んでいる僕の心も満たされました。

料理はすべて天然の素材から作られたもので、人工的なものは使われていない。メニューはお客様とのやり取りを通じて決める。

食べたお客様には不思議と何か良いことが起こりますが、これはお客様が幸せになってほしいという倫子さんの想いが込められているからだと思います。料理は技術以上に誰かのためにという心を込めることが大事。

倫子さんとお客様がどちらも幸せになる様子から、誰かのために何かをすることは大小関係なく尊いものと思いました。

終盤は、その倫子さんの想いの総決算のようなもので感動しました。


僕たちは大地の恵みによって生かされている、そのことに感謝しようと思いました。

肉や魚などの食材は当たり前のようにあるのではない。裏では動物たちが犠牲になっている。そのことが示されているような終盤のある出来事は、読んでいて胸が痛くなりました。
食べ物を粗末にしない、それをこれほど力強く教えられたことはなかったかもしれません。でも、決して悲観する必要はないことも述べられています。何気なく行っている、食べるという行為を大切にしたいです。


倫子さんの姿から、何があっても少しずつ前に進んでいけばいいと教えられたような気がします。

何もかも失っても、悲観することなく今の自分ができることをする。ないものではなく、あるものに目を向ける。かたつむりのように少しずつでも前に進む。その積み重ねが自らの心を前向きにさせて、誰かにとっても良い影響を与えるのだと思います。

また、僕は日常の些細な出来事にも幸せを感じられるようになろうと思っています。本作でも倫子が素敵な景色を見て幸せになる瞬間があるのですが、そういったのを大切にしたいですね。

印象的なフレーズ

家財道具も調理器具も財産も、持っていたものはすべて失くした。けれど、私にはこの体が残っている。

『食堂かたつむり』

人は、いつも澄んだ気持ちでなんかいられないと、思う。
みんな、濁り具合の程度の差こそあれ、心の中を満たしているのは泥水だ。
どこかの国のお姫様にだって、本当に憶測だけれど人には言えない汚い言葉が頭をよぎる瞬間があるだろうし、牢獄で一生を過ごす死刑囚にだって、顕微鏡で何倍にも拡大しなきゃわからなくても、光に当たればキラッと輝く、宝石の欠片は存在すると思う。

『食堂かたつむり』

もともと食材は、ごぼうの皮にも、もやしのひげにも、スイカの種にも、命が宿っていると信じているのでなるべく無駄にはしないのだけれど、相手がエルメスなら、その思いはよりいっそう強まる。

『食堂かたつむり』

料理は、自分以外の誰かが心を込めて作ってくれるから心と体の栄養になるのだ。

『食堂かたつむり』

「うん、ボクらは本当に端っこの人間で、だけどこういう僕達を認めてくれたり、心を込めておいしい料理を作ってくれたりする奇特な人もいる。今は、そういうことに感謝しようよ。茨の道を嘆くのではなくて。端っこでも慎ましく生きてたら、素敵なことはきっと起こるから」

『食堂かたつむり』

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