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#32『光のとこにいてね』(著:一穂ミチ)を読んだ感想

一穂ミチさんの『光のとこにいてね』

2023年(第20回)本屋大賞ノミネート作品で、第168回直木賞候補作でもあります。
本屋大賞には、昨年の『スモールワールズ』に続いて2年連続でノミネートされました。


あらすじ

――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。

――二人が出会った、たった一つの運命
  切なくも美しい、四半世紀の物語――

文藝春秋BOOKSより

感想

  • 陰の存在が強く出ていて、儚さを感じさせた

  • 自らの意思で道を開こうとする2人は弱くはない

  • ボリュームがありながら、行間が気になる作品と思った


結珠と果遠の2人は、小学校2年生の時に果遠が住む団地で出会います。
住む場所も家庭環境も違い、決して交わることはなかったであろう2人。
家族とも友達とも違う付かず離れずのような関係のまま、時が過ぎていきます。

結珠と果遠の2人の関係は、「友達」や「運命」など何か1つの固有名詞では片付けられないと思いました。
それは本作を通じて、人間誰しもが触れられたくない部分や決めつけて欲しくない部分があることを学んだからだと思います。
また、2人が同じ場所で過ごしている時は、幸せそうに見えてそれだけではない。何か儚さを感じさせるものがありました。

『光のとこにいてね』というタイトルですが、「光」よりは「陰」の存在が強く出ている作品ではないかと思います。


中盤の「捨てるのはいっつも弱いほう」というチサさんの言葉が頭から離れませんでした。
この言葉は、果遠のこれまでの人生にも当てはまっています。

それだけにラストの展開は考えさせられるものがありました。
でも、2人は様々な出来事がある中で自らの意思で道を開こうとしていたのかなと思います。だから、2人は決して弱くはない。

そして、これからもきっと、光のとこにいてくれる。付かず離れずのような関係は終わることはないと思ってます。
感動よりは、「きっと大丈夫」と安心感に似た不思議な気持ちになっていました。


本作で印象的な登場人物は藤野さんです。

寡黙ではありますが、素敵な方だなと感じました。
僕も同じようなタイプなのですが、彼の寄り添い方、言葉のかけ方は見習いたいと思っています。


不快感はありませんが、実は読了後も消化しきれない部分があります。

2人とその周りの方々は複雑な事情を抱えているのですが、ついていけない感じがあったのは否めません。何重にも絡み合った糸、みたいな感じでしょうか。

ボリュームがありながら、これほど行間が気になることも今までなかったかもしれないです。凪良ゆうさんの『流浪の月』を読んだ時を思い出しました。他の方がどう感じたのかも気になって仕方ないです。時間が経ってから改めて読むと感じ方も変わりそうな予感がします。

印象的なフレーズ

「家がとか親がとか、そういう理由ならちょっと立ち止まって考えてみてもいいんじゃないかなって思って……どうだろう」
(中略)
「周りが敷いたレールに乗っかるのはすごく楽だから。でも、一度レール上で思考停止してしまうと、途中で進行方向を切り替えるのはすごく難しい」

『光のとこにいてね』

「お前は強くてやさしいから、弱い母ちゃんを捨てられない。捨てるのはいっつも弱いほうなんだ」

『光のとこにいてね』

「物心両面とか言うけど、実際『物』の側に『心』が引っ張られるケースって多いと思うな」

『光のとこにいてね』

逃げたって解決にならない、なんて言う人は想像力がない。逃げは立派な解決策なのに。
「瀬々はわたしじゃないし、わたしの所有物でもない。生まれた瞬間から道は違っていて、今は太い一本に見えてるけど、ちゃんと枝分かれしてるんだよ。だんだん距離が開いて、手もつなげなくなる日がくる。それまで、瀬々の行く先にある障害物や穴をできるだけ処理してあげたいけど、ひとつ残らずは無理だし、道を決めたり、代わりに開拓したりなんてありえない」

『光のとこにいてね』

社会に出て見たらわかる、結婚したらわかる、人の親になったらわかる……そういう予定じみた言い回しは卑怯だし、親が子に使うのは呪いに近いと思う。子どもはいつか親の人生をなぞるミニチュアだとも言いたいのか。

『光のとこにいてね』

「ただ、あなたがこれから出会っていくたくさんの人たちのことを、断片的な要素だけで決めつけてしまわないでほしい。直は私の家族だけど、だからって私の人生について何もかも打ち明けようとは思わない。それはママも同じだろうし、あなたにもあなただけが大切に思うものや秘密があって当然だよ。心の中の家に誰をどこまで入れるかは直が決めていいの」

『光のとこにいてね』


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