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#66『水を縫う』(著:寺地はるな)を読んだ感想【読書日記】

寺地はるなさんの『水を縫う』
第9回河合隼雄物語賞受賞作です。

※河合隼雄物語賞は、人のこころを支えるような物語をつくり出した優れた文芸作品に与えられる賞です(一般財団法人 河合隼雄財団より引用)

『水を縫う』

読んだきっかけ

あらすじを見て気になった1冊です。性別や続柄による「らしさ」とは何なのか、改めて考えたいと思い今回読みました。また、今年の1月に『川のほとりに立つ者は』を読んだことで、寺地さんの他の作品も読みたいとの思いもありました。

このような方にオススメの本です

  • 考えさせられる作品を読みたい

  • 家族についての作品を読みたい

  • 社会が押し付ける「男らしさ」「女らしさ」に悩んでいる

あらすじ

いま一番届けたい 世の中の〈普通〉を踏み越えていく、新たな家族小説が誕生! 「そしたら僕、僕がドレスつくったるわ」“かわいい”が苦手な姉のため、刺繍好きの弟は、ウェディングドレスを手作りしようと決心し——。

手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている高校一年生の清澄。一方、結婚を控えた姉の水青は、かわいいものや華やかな場が苦手だ。そんな彼女のために、清澄はウェディングドレスを手作りすると宣言するが、母・さつ子からは反対されて——。「男なのに」「女らしく」「母親/父親だから」。そんな言葉に立ち止まったことのあるすべての人へ贈る、清々しい家族小説。第9回河合隼雄物語賞受賞作。

集英社HPより

感想

  • 相手との接し方を考えさせられた

  • 人それぞれが持つ「自分らしさ」を尊重したい

  • 清澄たちのように「清らか」に生きていこう


本作では、性別や続柄による「らしさ」とは何なのか、各章の登場人物の視点を通じて描かれています。『川のほとりに立つ者は』でも感じましたが、本作でも相手との接し方を考えさせられました。本編は約250ページですが、ページ数以上に濃い1冊でした。

よく「男らしさ」のように「〇〇らしさ」というフレーズを目にします。しかし、性別や続柄に関係なく、人間は一人ひとりが違う。だから「〇〇らしさ」の〇〇に当てはまるのは「自分」しかないと思います。そして、仕事や趣味、外見などの表面的な事柄で相手の「らしさ」を決め付けないようにしようと思いました。そのために、相手にしっかり向き合っていきたいです。社会が押し付ける「らしさ」に流されず、人それぞれが持つ「自分らしさ」を尊重できる人になりたいですね。

清澄たちの心情の変化を通じて、彼らのように「清らか」に生きていこうと背中を押してくれました。「清らか」とは、進み続けるもの、停滞しないもの。本作で一番印象的なフレーズでした。


刺繍の表現も素敵でした。清澄の刺繍に向き合っている姿を見ると、何かを行うことに性別は関係ないし、「好きなことを好きではないふりはしない」と思わせてくれます。
そして、清澄と水青の名前の由来がわかる場面は、きっと涙腺が緩むことでしょう。

印象的なフレーズ

教科書を忘れた時に気軽に借りる相手がいないのは、心もとない。ひとりでぽつんと弁当を食べるのは、わびしい。でもさびしさをごまかすために、自分の好きなことを好きではないふりをするのは、好きではないことを好きなふりをするのは、もっともっとさびしい。
好きなものを追い求めることは、楽しいと同時にとても苦しい。その苦しさに耐える覚悟が、僕にはあるのか。

『水を縫う』

「伝える努力をしてないくせに『わかってくれない』なんて文句言うのは、違うと思うで」

『水を縫う』

「明日、降水確率が五十パーセントとするで。あんたはキヨが心配やから、傘を持っていきなさいって言う。そこから先は、あの子の問題。無視して雨に濡れて、風邪ひいてもそれは、あの子の人生。今後風邪をひかないためにどうしたらいいか考えるかもしれんし、もしかしたら雨に濡れるのも、けっこう気持ちええかもよ。あんたの言うとおり傘持っていっても晴れる可能性もあるし。あの子には失敗する権利がある。雨に濡れる自由がある」

『水を縫う』

「でも、今からはじめたら、八十歳の時には水泳歴六年になるやん。なにもせんかったら、ゼロ年のままやけど」

『水を縫う』

「一度も汚れたことがないのは『清らか』とは違う。進み続けるものを、停滞しないものを、清らかと呼ぶんやと思う」

『水を縫う』

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