日常に「積極的無音」をしのばせて。

心がどことなく寂しさを感じたり、
不安に押しつぶされそうになった時、
私はカメの歩みで外へ出る。

イヤフォンも財布も携帯も持たずに、無音で。
いや、嘘。携帯だけは持って行く。
以前、携帯を持たずに出た先でうっかりコーヒー屋さんにカギを忘れてしまい、大変な思いをしたからだ。

毎月やってくるホルモンバランスの波をイマイチ乗りこなせない日も、
私はこの「積極的無音」の時間を求めて外へ行く。

陽の光が暖かい。
先週はコロンと蕾だらけだったしだれ梅が、今日はふんわり満開になっている。
子どもたちの笑い声が響き、
年老いたカップルが手を取り合いながら、ゆっくりと歩を進めている。
そんな中に自分を放り出すと、心を重くしていた鉛がすーっと溶けて
次第に足取りも軽くなる。

そして。
なぜかふとアイディアが思い浮かぶのもこの「積極的無音」の時間中だったりする。

私たちは日頃、もしかしたら自分でも気づかないうちに自分の感性に靄をかけてしまっているのかも知れない。
音という人工的な音を耳から詰め込み、
脳内をありとあらゆる情報で支配し、
気付けばそれらの情報の中に埋もれ、忘れ去られてしまった自分の思い。

そんな思いがゆっくりと芽を出す時間。
そんな芽に陽を照らし、水をやる時間。
それが、「積極的無音」の時間を確保するということなのかも知れない。

春の陽射しの中目を瞑ると、まぶたがかすかにあたたかい。
やわらかな日の光とは対象的に、我こそはとさえずる鳥たちの初音がけたたましい。

幸せは、日常のかすかな瞬間にふと差し込んでくる。
穏やかな春の太陽のように。
雨のあと、頬をくすぐるそよ風のように。

ともすれば感じそこねてしまいそうなそれを、私はあわてて胸いっぱいに吸い込んだ。

自分よ、
今日も生きていてくれて
ありがとう。

Peace.