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#38 望む未来を描く質問 - 解決志向アプローチ -

ここでは、「解決志向アプローチ」の考え方について、一緒に学んでいきたいと思います。ここまで、問題を抱えて悩んでいる人のネガティブな感情を和らげ、プラスのことを考えられる状態までのプロセスを3つのステップを通してみてきました。

相手のネガティブな感情を深掘りしていくのではなく、そんな状況であるにもかかわらず、崩れずにいれている本人の強さを深掘りしていくというお話でしたね。今回の記事では、プラスのことを考えられる状態になった相手に対して、望む未来を描いてもらうためにどのような質問をしていけばいいかについて紹介していきたいと思います。


「問題」から離れて考える

まず、望んでいる未来を描いていくために大切なことは「今の問題に引っ張られずに考えられる」ということです。どうしても、人間はネガティブなものに引っ張られてしまう生き物なので、望む未来について考えようとしても、結局、本当のところは望んでいない、現実的な未来を描いてしまうということが多々あります。僕自身、ひきこもりの子たちに対して、望む未来について面談中によく伺っていましたが、やはり「ちゃんと仕事に就いて、週5日働いて・・・」と、現実的な回答が多く、その話を深掘りすればするほど、逆に苦しくなっちゃうというか、実は本当に望んでいる未来じゃなかったということが多々ありました。そのため、今、自分が抱えている問題を棚上げしたり、一度、チャラにすることが、本当に望んでいることを描いていくためにはかなり重要です。(詳しくはこちらの記事をご覧ください!)

非現実的な「望む未来」でも構わない

一方で、「一度、問題を度外視する」と聞くと、「それじゃ非現実的じゃないか」と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、相手の答えがたとえ非現実的なものであっても、「本当に望んでいること」を明確にしていくことで解決の糸口が見えてくることがあるんです。例えば、本当に望んでいる未来は「有名人になっていること」と言ってきたひきこもりの青年がいました。「おお、いいね。因みに、有名になったら今とどんな違いが生まれるの?」と否定せずに伺ってみると、「皆が自分のことを認めてくれる」とのこと。「皆って、特に誰のこと?」と、さらに伺ってみると「親」だと言ってくるんです。「それじゃあ、親が君のことを認めると、今とどんな違いが生まれるの?」と伺ってみると、彼は「もう少し自信をもって、色んなことにトライできそう」と真面目な表情で言ってきました。そう、彼の本当に望んでいることは「有名になる」ことよりも、「親から信頼されている中で、自信をもって色んなことをやってみる」ということだったんです。このように、一旦、問題から離れて、非現実的なことでも本人の望んでいる未来を伺っていくと、少しずつ解決の糸口がみえてくることがあります。ですから、少し抵抗ある方もいらっしゃるかもしれませんが、一度、ぜひ、問題を棚上げして、望む未来を伺ってみてください。

問題から離れるために「奇跡」を起こす

また、問題から離れて、本当に望む未来を考えてもらうためには、寝ている間に奇跡が起きたと想像してもらうことも非常に有効です。(これを解決志向アプローチでは、ミラクル・クエスチョンと呼びます)面談中など、「ちょっと変わった質問をしますので、想像してみてください」と、相手に心の準備をしてもらい、以下の質問をしていきます。

今晩、あなたが眠っている間に、奇跡が起こったと想像してください。奇跡とはあなたが抱えている問題がすべて解決してしまうというものです。ただ、あなたは、眠っていたので問題が解決していることに気が付きません。明日の朝、どのような違いがあることで、奇跡が起こって問題が解決したことが分かるでしょうか?

「他にはどんな違いがあるんでしょうか?」「他の人はあなたのどんな違いに気づきますか?」と、奇跡が起きた日は、今とどんな違いがあるのか?を具体的に描写していきます。そのプロセスの中で、解決へと繋がる色んな気づきや発見が生まれてくるわけなんですが、最終的には、相手が挙げていった「今と違うこと」の中で、今からでもできそうなことを見つけていき、奇跡の日を現実化していきます。

寝ている間に奇跡が起きたから、どうやって解決したかは考えなくていい

手頃に使える枕詞と質問

ミラクル・クエスチョンは解決志向アプローチの様々なスキルの中でもとても有名なものなので、この質問をすることが解決志向アプローチだと思われがちですが、このミラクル・クエスチョン、日常会話の中で取り入れるって、結構、ハードル高いんです。カウンセリングやセラピーなどの面接中であればやりやすいんですが、学校や職場での日常会話の中で、いきなり「ちょっと変わった質問しますけど、寝ている間に、、」って言い出すの、ぶっちゃけ、ちょっと変ですよね。一方、ミラクル・クエスチョンの目的は、奇跡が起きたと想像してもらうことにあるのではなく、「問題に引っ張られずに、解決した後の状態や、望んでいる状態をありありと考えてもらう」ことにあります。そのため、その目的に沿っているのであれば、別に奇跡が起きてのくだりは必要ないと個人的には思っています。

そこで、学校や職場で使いやすいやり方として、以下の枕詞を使うことを個人的にお勧めします。

  • その問題を一旦、棚上げして考えてみると、

  • その問題を一旦、忘れて考えてみると、

  • 一旦、ゼロベースで考えてみると、

  • もし何も制約がなかったら、

このような枕詞を添えることで、まずは一旦、問題から離れてもらい、少しポーズをとった後、ぜひ、以下のシンプルな質問をしてみてください。

  • どうなりたいの?

  • どうしたいの?

  • 何を望んでいるの?

  • 理想はどんな感じなの?

  • (その問題が無くなったとき)今とどんな違いが生まれるの?

これらの質問はとてもシンプルな質問ですが、自然と口から出てくるくらい身体に刷り込みたい解決志向の質問です。これらの質問を皮切りに、具体的な望む未来の情景を伺っていく中で、解決の糸口を見つけていきます。これらの質問、ミラクル・クエスチョンよりも使いやすいと思いますんで、ぜひ日常生活の中で試してみてください。

さて、ここでは望む未来を描くための質問を一緒にみてきました。勿論、タイミングや状況によって、同じ質問でも、相手の受け止め方が変わってきますので、ここで紹介させてもらった質問が全ての状況において、有効であるとは限りません。ぜひ、相手の表情や感情に注意を向けながら、状況に合わせて使ってみてください。次回は「#39」なので、特別編として「感謝」という感情について、一緒に学んでいきたいと思います。そして、その次の「#40」の記事では、この解決志向アプローチにとても関連のある「希望」という概念について、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
De Jong, P. and Berg, I. K. (2012). Interviewing for Solutions. 4nd Edition, Brooks Cole, Pacific Grove, CA, 152.

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