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【連載小説】0n1y ~生物失格と呪われた人間~

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人間というのは随分と身勝手だ。 自己中心的で自己満足的で自己保身的で自己保存的だ。 自分が一番可愛くて、そんな自分を穢されるのが許されなくて、他人を貶して貶める。 その貶し貶めが…
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2022年11月の記事一覧

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 11)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 11)

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Episode 11:乾いた信頼。 何故今更になってライオンビスタの元に戻って来たのか。別に自分はライオン愛好者な訳では無い。確かにカッコいいとは思うが、だからと言って好きだとは限らない。

 確かめに来たのだ、あの時に感じた協力者的な視線が本物であるかどうかを確かめる為に。

 素直に告白しよう。
 自分はとても心細い。第一目標は脱出、ほぼ同じくらいの重要度でピエロの打倒が並ぶ。その為に

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 10)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 10)

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Episode 10:嘘。「も〜、勿体ないことしたね、えーた!」
「む、む」
 テントを出た後、カナどころかピエロに抱っこされる曲弦師にも頷かれた。何故だ。曲弦師、お前に自分の何が分かる。
「もしかして、ビスタにビビっちゃったの〜?」
「うむ、うむ」
 悪戯っぽく言うカナに、また曲弦師が頷く。……自分は今見も知らなかった他人に弄られてるな?
 まあ、何でも良いけど。
 どの道倒すべき相手な

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 9)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 9)

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Episode 9:ライオン『ビスタ』。 ――百獣の王。
 それは道具の存在しない完全な自然界で通用する呼称だ。大柄な体躯に強靭な顎、そして脚力。掴まったが最後、肉を毟られ命を喰らわれる。
 そんな生物相手に、他の生物は対抗する手段を持たない。故に、『百獣の王』。
 だが人間の世界では、百獣の王は所詮「獣の王」でしかなくなる。知を手にしてしまった罪深き人間が生み出す武器を前に、獣の王など塵

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 8)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 8)

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Episode 8:曲弦師。 暫し異様なシンクロ率の練習風景を飽くこと無く堪能したところで、別のテントに連れられることとなった。それが休憩スペースらしく、件のお菓子があるらしい。広場を目一杯使っているからか、目的別に沢山テントがある様だ。
「奇季のお菓子、すっごく美味しいんだから☆」
「え、そうなんですか! 俄然楽しみです!」
 ピエロの言葉にカナが尻尾を振る様に返すと、マジシャン――奇季

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 7)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 7)

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Episode 7:敵地侵入と再会。 ――ということで、時を飛ばして翌週土曜日。

 昼過ぎ、サーカス団『ノービハインド』のテントを訪れた。金曜日が最終公演だったそうで、今日に片付けや休暇に時間を費やし、明日には街から撤収するそうだ。
 明白で軽薄な計画だと思った。
 あくまで自分の推測ではあるが、決行は今日。どこかのタイミングで自分を殺害するに違いない。それから明日までに処理を終え(方法

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 6)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 6)

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Episode 6:死地への片道切符。「……っ!」
「あ、えーた! やっと起きたーっ!」
 目が覚めると、カナが涙目で抱き着いてきた。
 ここは……病院か。
 見慣れたベッドと病室。攻河町病院だ。
「『失格』クン」呆れるような声がカナの背後から飛んでくる。『最低』先生こと良辞が立っていた。横には無表情が特徴的な例の看護師が並んでいる。
「そんなに病院が好きなのか?」
「そんな訳ないだろ、誰

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 5)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 5)

前話
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Episode 5:サーカスデート。暗転。「――167番!」

 果たしてピエロが読み上げた番号は、まさしく自分たちの数字であって。
「あ、あ」
 横を向くと、紙を手にカナが体を震わせていた。他でもない、歓喜で。
「さてさてー☆ 当たった幸運なお客さんは――」
「はい、はいっ!」
 飛び跳ねん勢いで元気よく手を挙げるカナ。可愛くて大変よろしい。それには思わずピエロも笑顔になって、手を

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 4)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 4)

前話
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Episode 4:サーカスデート。ショー、炎、番号札。 会場が暗い。尚更警戒せねばならない。今なら首を掻くも背中も刺すも好き放題なのだ。況して自分は痛覚が存在しない。気付かれずに死、なんてのも有り得る。常に気を張っておかねば――。

「楽しみだね、えーた」

 ぎゅっ、と腕に抱き着いてくるカナ。
 ……っ、ああ。
 そうだ、そうなんだよ。今、可愛い彼女とデート中なんだ。悲しいことに

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 3)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 3)

前話
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Episode 3:サーカスデート。抗えぬ笑顔、開幕。「はっ、はひっ、お、待たせ……っ!」
 滅茶苦茶息を切らしながらカナが戻ってきた。流石に怒りすぎたらしく全速力で往復疾走したことが伺えた。正しいことをした筈なのに罪悪感を覚えた。
 罪な女め。……意味が180度違うけど。
 カナに労いのりんごジュースを渡す。
「少し座って休もう、まだ開演まで時間あるし。はい、りんごジュース」
「は

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 2)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 2)

前話
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Episode 2:愉快哉。 結論から言えばテストは終わった。

 この「終わった」には複数の意味可能性があるが、ここでは普通に「物事が完了した」の意味だ。
 日本語――いや、言語というのはこういう時に面倒だ。単語に複数の意味が含まれていて、文脈と意志によって1つの意味に確定する。文脈と意志が誤れば、必然、異なる意味で伝わる。異なる意味で伝わった先に待ち受けているのは、関係性の崩壊。

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 1)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 1)

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指切りげんまん、嘘ついても一切合切文句を言わない、指切った。

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Episode 1:退院後のお約束。「えーたっ! 退院おめでとうー!!」
「……ありがとう。心配かけたな」
「本当よもう! これ以上心配したら爆発しちゃいそうだよ!」
 ぷんぷん、という擬音が聞こえてきそうなくらいに怒るカナ。頬をぷくりと膨らませている。これが爆発しては困るな、と馬鹿らしいことを思った。

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Future Preface 3)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Future Preface 3)

目次↓

Future Preface 3:期待値の低い期待。 ――こんな話がある。獣に育てられた姉妹の話だ。
 名前は忘れてしまったが、確か親に捨てられた後、獣に見つかる。だが姉妹は食われるどころかそのまま拾われ、厳しい自然での生き残り方を教えられ、正しく獣と化した。何年かして人間に発見された時には完璧に人間に敵意を示していた。結局人間の手により保護されたものの、遂に完全に人間になり切れる前に両

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