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#創作
「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」
身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。
左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた
「青き憤怒 赤き慈悲」
柔い背に刺棒を挿れる度、琉の華奢な身体は悶え、施術台を微かに揺らす。
額の汗を拭い、俺は慎重に輪郭線を彫る。
もう後戻りはできない。
深呼吸。顔料の鈍い香りで気を静めると、十年来の教えが脳裏に蘇る。
「尋、邪念は敵だ。心が絵に表れる」
師匠は姿を消し、人の背を切り刻む悪鬼へ堕ちた。
発端は、俺の背が青く染まった日。
◇
一週間前。幾年も耐え忍び待ち望んだ独立の記念に、俺は自作