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野菜がダメなら果物でいいじゃない?

以前から様々な場面で「ご自身のお子さんの食事に関してこだわっている点はありますか?」とおたずねいただくことがあります。栄養学の専門家であれば、食事にはこだわりがありそうだ、そして健康的な食事を摂取するための知恵を持っていそうだ、というイメージを持たれてるのかもしれませんね…。そして、子育て中の多くの方にとっては、ご自身よりもお子さんの食事をどうするべきか、ということのほうが、悩みの種のようです。そのために冒頭の質問をいただくことが多いのだろうと思います。

とはいえ、私は栄養疫学の専門家ではありますが、その得られた結果を日常の食事にどう反映させるか、という栄養の実務の知識はあまり持っていないんです…。その結果、離乳食作りのときにはかなりストレスを抱えていたことを以前のnoteで紹介しています。

そんな私の「子どもの食事はこうしています」という体験談や、子どもの食事に対して持っている考え方は、とても自信を持って語れるものではありません。それでももしかしたら、今とても悩んでいる方にとっては役立つこともあるのかもしれない、と思いました。

今日のnote記事は私の持論も含めながら、子どもの食事を含む、食事に関するこだわりを話題にしてみます。



●子どものころからの食事は大事

食事は大人になって病気のリスクが高まってから整えればよいものではなく、やはり子ども時代の食事の内容も「よいに越したことはない」のだろうな、という印象は持っています。というのも、子どものころの食事の質が高いほうが、大人になってからの生活習慣病のリスクが低い、という研究結果は、探せばいくつも出てきますからね(文献1, 2)。

●子どもの成長にもたくさんの栄養素が必要

ではどういった食事が子どもたちの健康に良いのかというと、参考になるのは大人と同じで「日本人の食事摂取基準」(最新版は2025年版(案);文献3)だと思います。これが、エビデンスに基づいて策定されている、国の出している食事の摂り方のガイドラインなんですね。健康の維持・増進のためにどんな栄養素をどのくらい摂取すればよいのかが書かれています。子どもの場合は健康の維持・増進だけでなく、「十分な成長」という観点も加えて、基準値が決められているんです。策定されている栄養素の種類は30種類以上あります。子どもの健やかな成長のためには、日々たくさんの栄養素が必要なんです。

●偏食、食べ残しなど、悩みがつきない

子どものころからの食事は大事、そして必要な栄養素はたくさんある。それなのに我が子ときたら、偏食で野菜は食べない、お菓子ばかり、小食で食べない、遊び食べで集中して食べられない…ということは多いだろうと思います。そうなると、日々の食事は、献立を考えて、食べさせて、片付けて…、のかなりのストレスがかかる作業になりますよね。しかも、何をどれだけ食べさせたらいいのか分からない場合には、献立を考えることは悩みの種ですし、せっかく考えた献立も食べてもらえなければ意味がない…。せっかくの労力も報われず、さらに悩みは大きくなりますよね。私も現在進行形で経験していますので、とても分かります。同じような悩みをお持ちの方はきっと多くて、そのために、私に冒頭の問を投げかけられるのだろうと思います。

●それでも「食事」を悩みにしたくない!

こんなふうに食事をストレスの種にするのは、私の性分としても合いません!だって食事のことに興味があって、食事と健康のことを考えるのが好きで、この分野を専門にしているのですから!というわけで、私は食事に関して悩まないようにするために、3つだけこだわるようにしています。この3つのこだわりは、子どもの食事だけではなく、大人の食事を考えるときも同じです。ただ、子どもの食事の場合、子ども用にアレンジした部分もあります。

その3つのこだわりは以下です。

1.味付けは薄め

栄養疫学を学んできて、食塩摂取量が高いと高血圧のリスクがあることにはエビデンスがあり、その蓄積量は他の食事と健康の関連よりもかなりしっかりしているな、という印象を持っています。これは食事摂取基準(文献3)を読んでいても感じます。そして、食塩摂取量を抑えて薄味にすることは、特に若い人や子どもたちにとって意味のあることなんです。その理由はこちらのブログ記事で解説しているとおりなんですが

食塩摂取量が多いと、その次の年の血圧の値がより高くなるんですよね。そのために、血圧が上がってから減塩するよりも、血圧が上がる前の若い人ほど、できたら子どものころから塩は控えめの摂取を目指すべきなんです。離乳期(1歳半)の食塩摂取量が多いほど、すでに8歳で血圧が高い傾向があることを示した研究もあります(文献4)。こういう理由から、家で作る食事は薄味を心がけるようにしています。(とはいえ毎日作るのも大変ですから(特に土日)、買ってきたものを食べることもあります。子どもたちは食べきれないほどおにぎりをかごに入れてきたりするんですが、栄養成分表示の食塩量は見て、あまりに量が多い時にはこっそり陳列棚に戻すこともあります(笑))。

2.野菜は多め

献立中の野菜を多くして、悪影響がでることはあまりないように感じています。野菜と果物の摂取量が多いと死亡率が低下するといった研究もありますし(文献5)、野菜や果物には、日々の成長や健康維持に必要なビタミンやミネラルも含まれています(文献6)。野菜や果物などの健康のためにとりたい食品を増やすことによって、摂取を抑えたいお菓子やソフトドリンクの摂取も抑えられるのではないかと想像できます(胃袋の大きさには限度があるためです)。そういうわけで、家での食事はなるべく野菜多め、を心掛けています。

とはいえ、子どもたちはそんなに野菜を好んで食べることはありません。うちの子どもたちはまだ偏食は少ないほうで、お皿に載っていたら食べることは多いのですが、残すこともやはり多いです。野菜を食べないときには、それなら果物でいいや、と考えています。果物には野菜と同じようにビタミンやミネラルが含まれていますから(文献6)。それに、海外では、Fruits&Vegetablesといって、「果物と野菜」ってひとくくりにして考えることが多いようなんですね。しかも「果物」が先にきていますし、健康効果も「果物と野菜」の合計量で検討されることが多くあります。そんな記述を私の恩師の著著(文献7)で読んでから「野菜を食べなければ果物でいいじゃない」と思うようになりました。こだわり2の「野菜多め」は、子ども用にアレンジするなら「果物または野菜はできるだけ多め」になるかなと思っています。ただし、果物は野菜に比べると軒並み高価なので、家計には痛手ですが…。旬の果物を、近くの良心的な金額で提供してくれる八百屋さんから購入です。

3.日々色々な食品を

最後のこだわりは、できるだけ同じものを食べ続けるのではなく、色々な食品を食べる努力をしようと思っています。先ほど説明したように、健康のためにはたくさんの栄養素が必要なんですよね。それを日々満たそうと思うと大変です。栄養価計算を日常的に行っている専門家でないと、各栄養素の摂取量を計算して、基準を満たせているかを日々考えるなんてできません。私だって自分の栄養素摂取量が適切なのかどうか、わかりません。それでも、食品が違えば含まれる栄養素が違うこと、ひとつの食品には様々な栄養素が含まれていること(文献6)などは知っています。そして、同じ食品だけを食べるよりは、毎日できるだけ違う食品(昨日は食べていない食品など)を食べるほうが、食べる食品の種類が増えて、摂取する栄養素のバリエーションも増えると考えられますし、そういった研究結果もあります(文献8)。つまり、色々な食品を食べることが、必要な各種栄養素を十分摂取できる可能性を高める方法だと思うんです。それで、同じ食品ばかりでなく、昨日は食べていなかった食品を食べる意識をしながら献立を考えています。

というわけで我が家の食事はこんな感じ

●まとめ

そんなわけで我が家の食事は、1. 薄味2. 野菜多め(野菜の代わりに果物でも可)3. 日々色々な食品を(昨日使わなかった食品も加えて)、をこだわりポイントにして毎日準備しています。

ちなみに、そうやって手間をかけたって、子どもたちは食べないときは食べないです(涙)。それでも「健康的な食事ってこんな食事だよ」というメッセージを日々目で見せて与えるために、食べなくても、盛り付けて提供するところまでは必ずやっています。さて、それが意味を成すのか、今の時点ではわかりません。それがどういった効果になるのかは、30年後くらいに分かるんですかね。

盛り付けの結果、最初にいちごを食べ、にんじんはきっと残る…

ひとまず、今の時点では、栄養学者のこばやんでも、子どもの食事に関して「この栄養素何グラム食べさせなくっちゃ!!」と白目をむきながら食べさせることはしていない、ということが伝わって、多くの人が救われたらいいなと思います。

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【参考文献】
1. Buckland G, et al. Br J Nutr 2024; 131: 720-35.
2. Kaikkonen JE, et al. Ann Med 2013; 45: 120-8.
3. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版案. 2024.
4. Rangan AM, et al. Eur J Clin Nutr 2012; 66: 652-7.
5. Wang X, et al. BMJ 2014; 349: g4490.
6. 文部科学省. 日本標準食品成分表(八訂). 2020.
7. 佐々木敏. データ栄養学のすすめ. 女子栄養大学出版部. 2018.
8. Azadbakht L, et al. Eur J Clin Nutr 2005; 59: 1233-40.


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