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ストレスフルな離乳食作り、こうして乗り切った:栄養学者の体験談

4月末に子どものヘルペスがうつって重症化してしまい、口の中は口内炎だらけ、歯茎にも炎症が生じてしまって、普通の食品はしみて痛くて食べられない、という時期が1週間以上続きました。いや~辛かったです。とはいえ、まったく食べないと回復もしないし、どんどん痩せてしまうので、なんとか食べられるものを食べていました。最初はアイスクリームとか、ゼリーとか。少し治ったら雑炊のようなものは食べられたので、ご飯と、そのときある野菜やたんぱく質源になる肉か魚か卵などを入れて、しっかり煮込んで柔らかくした雑炊を食べ続けていました。

そんな食事作りを続けていたときに、ふと、離乳食を作っていたころを思い出したんです。今は子どもたちも5歳半と3歳半になりましたが、5年前と3年前になる2019年と2021年の5月から半年ちょっとの間、毎日大人の食べるものとは別メニューで離乳食作りをしていました。最初は、離乳食作りをしないといけない、ということを考えただけでノイローゼになりそうだったんですよ。食事の専門家で、食事作りはけっこう好きで毎日やっている私が、どうしてそんなふうになったのか、不思議に思われるかもしれません。なぜそんな気持ちになってしまったのか、そしてそれをどう解決したのか、このnoteで綴ります。専門外の自分が、しかもこれまでの流れとは少し違う記事を書くのは少しためらいもありますが、もし今同じように離乳食作りに負担を感じている方が、少しでも解決のヒントをつかんでもらえるなら、と思い、ペンを進めます。



●研究は専門家、実務は専門外

まずは、私のような食事の専門家であるだけでなく、食事作りはけっこう好きで毎日続けることを負担に思っていなかった人が、離乳食作りをせねばならない時期が迫るにつれて不安でノイローゼのような気分に陥ったなんて、とても意外に思うかもしれません。「栄養学の専門家」なのだから、離乳食作りなんて「お手の物」かといったら大間違い。私は栄養士の資格は持っていませんので、離乳食をどう作るかといったことを習ったことはありません。集団の人の食事を調べて、その食事にどのような栄養素がいくら入っているかを計算する方法は研究活動を通して知っていても、献立作成を業務にされている栄養士さんが一般的にお持ちのような、個々の食品に各栄養素がどのくらい入っているか、といったところまでは頭に入っていません(調べ方は分かっているのですが、すぐに実践に結び付けられず、毎回調べないと分かりません。)そして身近に小さな子どもがいるという経験をしたこともなく「離乳食」という食事を見たこともありません。とにかく「知らない」という状態は不安を呼びますね。あとは、産後で子育ては何もかも初めて、加えて仕事も辞めて自営業になったばかりのときだったことが、不安をさらに助長させてしまったのかもしれません。

●お手本どおりの離乳食はとてもできない!

知らないことが不安の原因なわけですから、まずは「離乳食とはどういうものか」を知ることが必要だろうと思いました。その際にとった行動は、初めての離乳食作りのための書籍を購入して読むこと、行政から配られたパンフレットや育児書の付録についていた離乳食作りのための説明書きを読んでみること、そして行政の主催する「初めての離乳食作り」の講習会に出てみること、でした。

「どんな栄養素をどのくらいとる必要がある」といった栄養学の一部の知識は自分にありますので、学んだ内容のうち「食品として何をどのくらい食べる」のところは理解しやすかったです。では、いざその内容を離乳食としての献立に落とし込み、どう作るか、というところに関しては、学んだ内容でさらに不安になってしまいました。冷静になった今思えば、そのときの不安のポイントは3つあったように思います。その3つとは

  1. 正しい方法で自分でだしをとるのは負担でできそうにない

  2. バランスよく食べさせるために主食、主菜、副菜を用意したいところだが、毎食本に具体例として示されているような見た目も美しい食事は作れそうにない

  3. 残り物は食べさせない、とあるが、作り置きも組み合わせていかないと毎食作れそうにない

といったところです。

こんな立派な食事は毎回は作れない…涙

●どこまで手を抜いてよいのかを知りたいのに…

たとえば行政の「初めての離乳食作り」の講習会では、担当者も丁寧に説明してくださいましたし、実際に離乳食とはどういうものなのか、自分が食べて体験することもできました。そのおかげで「離乳食とはどんな形状の食事なのか」といったところは目にして初めて、学ぶことができ、目指す内容はこういうものなのだな、ということは理解できました。けれども、短時間の講習会の中で教えてもらえたのはおそらく「基本中の基本」です。たとえばだしの取り方、かつお節を使うとき、にぼしを使うとき、それぞれこうやります、という調理実習は、すでに中学校や高校時代の家庭科や、趣味で通った料理教室でも習ったので知っています。けれども、本当に隙間時間もない子育て中に、毎回だしをとるなんて、無理です。そこをどうすればよいのか、結局講習時間の中では教えてもらえませんでした。そのために、終わってから涙ながらに講師の方に質問しに行ったんですよね。そうしたら「冷蔵庫で数日、冷凍すればもっと保存できる」とか「市販の離乳食用のだし粉末が売られている」とかいう情報をそこで初めて聞くことができました。そんなこと、本にも書いていなかったし、その日の講習会でも教えてもらわなかったので、そこで初めて知ったことでした。

●研究と同じかも!

この瞬間に、得体のしれない「離乳食づくり」にも、大人の食事作りやその他様々な日常の生活習慣、さらには研究とも同じように、正しい「基本」をまず知っておき、その基本をなるべく追求しながらも、日常生活の中での実現可能性を追求しないと続けられないのだな、ということを悟りました。ただし今の時点では「実現可能性」のために、「基本」をどこまで崩してよいのかが分からないので、それにはほかの人の体験談や、自分のトライ&エラーも必要になってきますよね。とはいえ、エラーが自分に降りかかるのであれば積極的に実践したいところだったのですが、今回のエラーは子どもの体調、ときには命に関わると思うと、むやみやたらとトライするのは怖いことです。多少慎重に進めようと思いました。そしてそんな中で大きな3つの不安は以下のように少しずつ解決していきました。

1.だしの粉末調味料を適度に取り入れる

まずは「離乳食の基本」で「だしを自分でとる」ことを勧めている理由は何だろう、と考えたときに、自分なりの知識で回答すると「食塩の摂りすぎを防ぐ」ことなのだろうと解釈しました。講習会で教えてもらった離乳食用のだしの粉末は、大人用のだしの粉末と違って食塩含量がかなり少ないことからも、その回答はあながち間違いではないのかな、と思いました。それを達成できれば、「自分でだしをとる」ことだけが解決策ではないはずです。最初のころはかつお節やにぼしでだしをとることもしてみましたが、もちろん毎日は無理です離乳食用のだし粉末を購入して常備しておくようにしました。さらに、月齢が進んでから、離乳食レシピに「塩」少々が出てきて、市販の離乳食の原材料に「コンソメ」など書いてあることが確認できるようになってからは、家でも減塩の鶏ガラスープの素(粉末)や、顆粒のコンソメを、食塩量が多くならないように気を付けながら使いました。また、だんだんと柔らかい固形のものを食べるようになってからは、だしを取ったかつお節や粉末にした煮干しは、取り出さずそのまま入れっぱなしにしていました。おいしさは少し劣るかなと思いますが、食材まるごととった方が栄養素もとれるかと思い…。

ただし、食事摂取基準(文献1)に、昆布はヨウ素を豊富に含むため、過剰摂取を防ぐために小児の昆布の摂取には注意とあります。保育園の給食ではわりと昆布でだしをとることがあるようだったので、家ではわざわざ昆布だしをそれ以上摂らないでもいいかなと思い、昆布は離乳食にはほとんど使いませんでした。

2.メニューは毎食雑炊

離乳食が進んでくると、毎食様々な栄養素を摂取するために、様々な食品を食べる必要が出てきます。本には「30日間の離乳食レシピ例」みたいなものがありますが、手の込んだものを作る時間はありません(ちょうど自営業者になりたてで、時間があるならとにかく仕事に当てたいと思っていました)。色々な献立が紹介されている理由は何だろう、と考えたときに、自分なりの知識で回答すると「様々な食品をおいしく食べることで様々な栄養素を確保する」ことなのだろうと解釈しました。それで作っていたのは、毎食「雑炊」。毎食だいたい、どのくらいの主食と、野菜やたんぱく質源の食品を摂ればよいかは次第に頭に入ってきたので、それを使って何品も作るのではなく、すべて一緒に入れて、味付けは作り方が分かってきた手をぬいた「だし」で、その日に冷蔵庫にある野菜を使って(たいていは大人の料理を作ったときの残り野菜)、その時々の月齢に合わせて切り方や煮込み方は工夫して、雑炊1品だけを作りました。月齢が小さいときはすごく細かく切り、時間をかけてごはんがトロトロになるまで煮込みました。月齢が大きくなれば、材料の切り方は少し大きくなり、ごはんの粒の形がのこるくらいにしていました。

毎食雑炊、というのは、自分の母親がそうしていた、と聞いて決心がつきました。ああ、そこまで力を入れなくても、毎食同じでいいんだ、1品だけで、煮込むだけでいいんだ、と肩の力が抜けました。さらに、最初はごはん粒が残らないように、離乳食用のすり鉢とすりこぎでごはんをつぶしたり、たたいたりしていましたが、さっぱり粒が細かくならない…。そんなときに知り合いから「下の子は上の子を真似して、最初から白米をばくばく食べていた」と聞き、ああ、消化に問題がなさそうであれば、そういうものを食べても体を悪くすることはないんだ、と、また肩の力が抜けました。こうして我が子は、特に拒否することもなく、毎食内容の異なるバリエーションは広い雑炊を毎日食べていました。味付けと内容は、和洋中と幅広かったと思います。

3.作り置きでいい

作るのは雑炊と決めたものの、これを毎食作るのも大変です。基本、子どもたちは0歳から保育園に入りましたので、平日の昼食は保育園で食べますが、平日は朝食と夕食の2食が必要です。休日は3食になります。私が料理を作る頻度は毎日1回です(夕食前に作り、夕食として食べ、その後朝食に、残ればさらに昼食に残りを食べます)。離乳食も大人の食事分と同じ1日1回にしたいと思いました。そこで、残り物を食べさせない、とされている理由は何だろう、と考えたときに、自分なりの知識で回答すると「食中毒などの食品衛生上のリスクを減らす」ことなのだろうと解釈しました。食べても健康上に問題がないのなら、残り物でもよいはずです。ただ、大人よりもちょっとの菌量で食中毒になってしまうなら気を付けなければなりませんが、そこも母親にたずねたところ、夜に作った雑炊を冷蔵庫に保存して翌朝食べても問題なかった、との回答。それなら大丈夫だろう、と思って離乳食作りは毎日1回、2食分を鍋で夕方作り、1食を夕食に、残りを朝食にするようにしました。たまに3食分作って、さらに残った1食分は冷凍できるタッパーに入れて、冷凍保存し、週末など休日に昼食が必要なときに食べさせていました。

●まとめ

離乳食作りは育児中の時間のない中で対応する、非常にストレスのかかることだと思います。栄養の専門家でもそう感じたのですから、普段の食事作りに負担を感じているひとならなおさらでしょう。そんなときに「基本」を教えてくれる人や本はたくさん存在していますが、それだけで進めようとすると、苦しくなり、息詰まる人もきっといると思います。そんな中で「栄養の専門家はこうして乗り切った」という今回の内容が少しでもお役に立てば幸いです。

もし、離乳食づくりの専門家の方で、この記事に関して誤りや不適切な表現に気づいた方がいらしたら、noteのメッセージやお問合せフォーム等で教えていただけますと幸いです。

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【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.


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