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100色の世界を知った私が結婚相談所に行くまでの話 スピンオフ


ショッピングモールで見つけた50%オフの雑貨のワゴン。
ジーっとこちらを見つめるその目に「連れて帰らなければ」という縁のようなものを感じた。ウサギのぬいぐるみだ。

無機質な笑顔、長細いフォルム。大きさは抱き枕ほどにもなる。
(後々知るのだが、クラフトホリックといって結構人気らしい)

家に帰ると早速ソファーに座らせた。足を組み、手を組み、テレビを見つめる。

私たちはいたくそのウサギを気に入り、人格に似合わず読書家の彼は『モンテスキュー』と名付けた。
その年の年賀状、親しい友人には、「家族が増えました」と書いた。


彼の帰りを待つ間、私はモンテスキューと並んでテレビをみた。
彼の給料日、彼が夜通し夜遊びに高じている間、モンテスキューを抱きしめて寝た。
彼とケンカをして家を飛び出したとき、モンテスキューの手をひいた。
戻った時、いつも私が寝ていたベッドのスペースにモンテスキューがいた。

きっと慢性的にさみしかった私は、モンテスキューを心のよりどころにしていた。二人でいても満たされない気持ちを慰めてもらっていた。

モンテスキューからすれば、あんな情緒不安定な人間の相手をさせられたもんだから、たまったもんじゃなかっただろう。
もしモンテスキューにキャラクターがあったら、さっさと他の家に行っていただろう。


最後、彼の家を出るとき、モンテスキューは置いていった。
これは私の意地であり、精いっぱいの嫌がらせだった。

彼がモンテスを処分するとき、私の手を離したことを無意識の内に再確認すると思ったからだ。

モンテスは私の分身であったのに、スケープゴートにしてしまった。

それほど私の心は荒んでいた。


モンテスはこんな私にいつも変わらず無機質に微笑んでくれいた。
全てを受け入れる眼。

なんでも受け入れるって、少しずつ自分をすり減らすことなのかな。

いや、モンテスはきっと私が自分と対話できるように、鏡になってくれていたんだ。


ありがとう、モンテスキュー。








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